先日、今まで書いた自分の記事を読み直して、書き忘れがある事に気付きました。
映画「ボヘミアン・ラプソディ」には忘れてはいけない「エンドロール」があります。
昔からのQUEENファンであれば、おそらく多くの人がここで涙腺決壊に追い込まれたのではないでしょうか?
映画の中でのQUEENの絶頂、「ライブ・エイド」で幕を閉じ、映画はエンドロールに入ります。
ここで初めて本物のフレディー・マーキュリーが登場します。エンドロール最初の曲「Don't Stop Me Now」に乗せて、フレディーのその後の人生を足早に字幕で紹介しているのですが、曲が「The Show Must Go On」に変わった時点でキャスト表示に変わります。
制作側はここでも字幕により伝えたいメッセージがあったと伝えられています。
それを配給会社側が拒否したとも伝えられていますね。
最後の最後で悲劇の映画にはしたくなかったという思惑でしょうか?
ご存知の通り、映画はライブエイドで幕を閉じます。フレディーの病気や死といった悲劇ではなく、輝かしいQueenのキャリアを主題とするならば、スタジオワークのピークである「Bohemian Rhapsody」と、ライブ活動のピークであるライブエイドを中心に映画を構成するというのは、納得のいく気はします。
実際にはその後の1986年、「ライブ・エイド」で息を吹き返した後に行われた「マジック・ツアー」が絶頂だと私は思うのですが・・・
「カインド・オブ・マジック」と同様に、このライヴは「ONE VISION~ひとつだけの世界~」で幕を開け、クイーンの代表曲の数々を網羅しながら、起伏とバラエティに富んだ展開で進んでいきます。
そのパフォーマンス全体からうかがえるのは、ライヴ・バンドとしての充実ぶりです。
4人の表情や振る舞いからも、再び大観衆を前に演奏できる喜びに満ちているのが伝わってきますし、この日のステージ上でのフレディーの発言にも、ここに至るまでの紆余曲折を感じさせる印象深いものがいくつかあります。
そのひとつが「地獄へ道づれ」を歌い終えたフレディーが、大観衆の熱狂ぶりに満足げな笑みを浮かべてビールを少し喉に流し込み
「みんなも聞いたかな?最近出回っている噂をさ。クイーンってバンドのことだ。噂によると解散するんだとか。ケツ野郎の戯言さ!」
と、語りかけた場面です。
フレディーはこうしたいかにも彼らしい言い回しで、当時の彼らに付きまとっていた不穏な噂を笑い飛ばしてみせたのです。
フレディーが時折ニヤリと笑みを浮かべ、「どうだい?」とでも言いたげな表情で話すのを聞きながら、ブライアン・メイがウンウンとうなづくように笑みを見せる。
そんな場面がまた象徴的なのです。
そして、この言葉に導かれるようにして、曲が「リヴ・フォーエヴァー」へと続いていくのだからたまらない。
「俺たちは死ぬまで一緒だ。わかるだろ? 俺は辞めたいんだけど、メンバーたちが辞めさせてくれない。それに俺たち…年のわりには悪くないだろ?」という発言も。
こうして観衆を笑わせながら実は意味深なことを言っているのも実に彼らしいですね。
まさしく「ライヴ・エイド」の次、すなわち映画の物語の続きのようでもあるこのライヴの記録映像は、古くからのクイーン愛好家たちのみならず、今回の映画公開を機にこのバンドに興味を持ち始めた人たちにとっても、まさに必見といえるでしょう。なにしろQUEENは、「カインド・オブ・マジック」に続く作品として1989年に発表された「ザ・ミラクル」に伴うツアーを一切行なっておらず、結果的にはこの「マジック・ツアー」こそが、フレディー存命時代のクイーンにとって最後のツアーになってしまったのです。
しかしその一方で史実としてQueenのキャリアを追うならば、フレディー存命時最終作である「Innuendo」に触れないわけにはいきません。
エンドロール最後の曲「The Show Must Go On」はフレディー存命時代最後のアルバム
「Innuendo」に収録されている曲です。
「The Miracle」完成時にツアーはもう行わないと断言し、すぐ『Innuendo』の制作に入った事実からも、既にフレディーはこの頃から危機的な状況であり、残された時間が少なかったことをメンバー全員が知っていたと想像できます。「The Miracle」では全曲がQueenのクレジットになり、メンバー4人が重なったようなアートワークも採用し、メンバーの結束を特に強調しているようにも感じますが、その状況をもたらしたのは、ライブエイドからマジック・ツアーの成功以上にフレディーの病だったと想像出来ます。
この頃からフレディーの異変をかぎつけたメディアによって、フレディーがHIVに感染し深刻な状態になっていると報道されるようになり、そのたびにメンバーが否定することが繰り返されるようになりました。
そんな異様なムードの中、1991年2月5日に「Innuendo」はリリースされました。
後にブライアンやロジャーによって語られた事によれば、本作制作時点でフレディーは相当に衰弱し、立つことすらままならなかったそうですが、そんな危機的状態であったとは思えない、挑戦的で意欲的な作品に仕上がっています。
Empty spaces.
What are we living for?
Abandoned places.
I guess we know the score.
On and on.
Does anybody know what we are looking for?
Another hero,
Another mindless crime
Behind the curtain
In the pantomime.
Hold the line.
Does anybody want to take it anymore?
Show must go on.
Show must go on.
Inside my heart is breaking.
My make-up may be flaking.
But my smile still stays on.
Whatever happens,
I'll leave it all to chance.
Another heartache,
Another failed romance.
On and on.
Does anybody know what we are living for?
I guess I'm learning.
I must be warmer now.
I'll soon be turning 'round the corner now.
Outside the dawn is breaking,
But inside in the dark I'm aching to be free.
Show must go on.
Show must go on.
Inside my heart is breaking.
My make-up may be flaking.
But my smile still stays on.
My soul is painted like the wings of butterflies.
Fairytales of yesterday will grow but never die.
I can fly, my friends.
Show must go on.
Show must go on.
I'll face it with a grin.
I'm never giving in—
Oh—with the show.
I'll top the bill,
I'll overkill.
I have to find the will to carry on with the show.
On with the show.
Show must go on.
~ 和訳 ~
虚しい空間
僕たちはなんのために生きているのか?
見捨てられた場所
僕らは真実を知るだろう
この先も続く
僕らが探しているものが誰に分かるだろう?
新しい英雄が
新しい心無い罪が
カーテンの後ろにいる
パントマイムをしながら
後には引かない
誰がこれ以上望むだろうか?
ショウを続けなくてはならない
ショウは続くんだ
心の奥は傷つき
メイクが剥がれ落ちても
僕は笑顔を見せ続けるだろう
何が起きようとも
すべてを運にまかせるだろう
もう一つの心の痛みも
もう一つの失われたロマンスも
ずっと続いていく
僕らがなんのために生きているのか誰に分かるだろう?
僕は学びを得ている
今は以前よりも暖かくなれる
まもなく僕は曲がり角を迎える
外では夜が明けようとしている
でも心は自由になることを求め、闇の中にいる
ショウを続けなくてはならない
ショウは続くんだ
心の奥は傷つき
メイクが剥がれ落ちても
僕は笑顔を見せ続けるだろう
僕の魂は蝶の羽のように彩られ
昨日の物語は次に向かい、決して死なない
友よ、僕は飛べる
ショウを続けなくてはならない
ショウは続くんだ
笑みを浮かべて立ち向かう
決して負けない
このショウとともに
僕は主役を演じるだろう
そして徹底的にやるだろう
ショウを続ける意思を見つけなければならない
ショウのはじまりだ
ショウは続くんだ
「Innuendo」はその特殊な制作事情から、作品としての冷静な評価が難しいアルバムです。
事実、Queenはもうピークを過ぎたバンドという印象を持っていた評論家からは、リリース直後には批判的なレビューも数多くなされました。
こういったQUEENにとっての悪評は私たち長年のファンには、ある意味滑稽とも写るのですが・・・
私自身、「Innuendo」はフレディーの遺作という事実を除いても、Queenのキャリア史上に残る名盤だと思っています。
楽曲として非常に充実していること、音楽的にはある意味、保守的な傾向があった80年代Queenの流れを断ち切るように、挑戦的で攻撃的な作風を志向し、それが成功していると思われるからです。
ただそれでもやはり、フレディーが死の淵にいながらこれを作ったという意識は働いた上での評価なのかもしれません。
しかしそうであるならば、より一層、映画を観た人にもその制作背景を知ってもらい、その上で「The Show Must Go On」を聴いて欲しいと強く思います。
ブライアン・メイが原案を持ち込んだこの曲は、フレディーに寄り添いながら歌詞を作り、レコーディングをしたと後年ブライアン自身によって語られています。
初期のデモではキーが高く、デモ版の歌入れをしたブライアンはファルセット(裏声)を駆使しながら歌っていました。
技術的にも非常に難しい曲であるため、病がかなり進行したフレディーには難しいかもしれないとブライアンは考えていたそうです。
しかしフレディーはこのブライアンからの挑戦とも取れる試みを素直に受け入れ、ファルセットを使うことなく、フルボイスで歌い切ってみせました。
「フレディーのキャリア上、最高のパフォーマンスだった」とブライアンは明かします。
このような背景を知った上で「The Show Must Go On」を聴くと、「これは本当に立つこともできないほどの病人の声なのか?」と誰もが驚くことでしょう。
ミュージック・ビデオを見ると、これまでのQUEENの栄光を振り返るような内容になっています。
まるで誰かとの別れを予感させるような。
「The Show Must Go On」は、文字通り命を削って歌ったフレディーの気迫が刻み込まれているのです。
「ボヘミアン・ラプソディ」のサントラ盤については、以前のブログにも書いていますが、初めての音源が2つ存在します。
一つはQUEENではなく、それ以前の「smile」のティム、ブライアン、ロジャーが約50年ぶりに介して録音されたという「Doing All Right」ドゥーイング・オールライト。
もう一つが「Don't Stop Me Now」です。
この曲も映画のために、新たにブライアン・メイがギター・パートを付け加えたり、アレンジを変えて編曲し直したものだと伝えられています。
あくまでも私個人の意見ではありますが、映画「ボヘミアン・ラプソディ」をご覧になってQUEENのファンになった方は、とりあえずアルバムの
QUEENグレイテスト・ヒット、
グレイテスト・ヒットⅡ、
QUEENフォーエバー、
そしてこの映画のサントラ盤ボヘミアン・ラプソディを手にすれば、一通りのヒット曲は網羅でき、曲の変調から進化を楽しめると思っています。
それでも、せっかくファンになったなら・・・
時間をかけてでも、全てのアルバムを網羅するのも、酔狂かな?と思ったりもします。(笑)