データセンターは田舎を目指す | カフェメトロポリス

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電脳世界と現実世界をいきあたりばったり散歩する。

インターネットがここまで質的変化を遂げる前に、SF的想像力の影響を受けて、自然が豊かな場所に住みながら、通信網だけははりめぐらされているので、「都市的」情報交通には、スイッチオンさえすれば戻れるようなのが理想的田園生活のようなイメージを持っていた。


マトリックス的妄想でいえば、一人一台の接続機器で、自閉的にひきこもることが、資源制約のある世界の最適解であるというような感覚だ。PC/インターネットは地球資源を守るための、ある種「理性の狡知」のようなアイロニーかもしれない。


でもその妄想の前提が間違っていることがわかってきた。PC/インターネット的情報交通は、決して省資源的ではない。米国のデータセンターの総消費電力は、既に全米のカラーテレビの総消費電力に追いついていて、数十年後には、データセンター業界の二酸化炭素排出量は、航空業界を追い抜くという予想まである。


温暖化と地球の未来の関連性についてはぼくにはよくわからないが、低温で穏やかなイメージと、PC/インターネットの開く未来には相当な乖離がある。


5月22日のエコノミストに、データセンターが安い電力を求めて、ワシントン州のコロンビア川沿いに集結する事情についての記事が載っていた。


http://www.economist.com/business/displayStory.cfm?story_id=11413148



ワシントン州シアトルから自動車で3時間のところにあるクインシーというなにもない田舎に、マイクロソフトやヤフーがこぞってデータセンターを建築している。


このなにもない田舎がデータセンター立地としては最高なのだ。


データセンターが一部のハイテク産業だけじゃなく、あらゆる事業にとって不可欠の存在になっている。拡大するデータセンターにとって、立地も多様化している。


アメリカだけでもデータセンターは7000以上存在し、それぞれが、個別目的用のサーバを多数収容している。


アメリカではこのサーバ台数が、2010年に10年前の3倍、1580万台まで増加すると予想されている。


数年前まで、サーバをどこに置くかなど誰も真剣に考えてなどいなかった。戸棚の中とか、机の下に無造作におかれたサーバというのが普通だったのだ。ドットコムバブル期に、顧客のサーバを預けるサーバーファームという事業が始まったが、こういった会社は、得意先が密集するシリコンバレーにデータセンターを持っていた。


ところが、あらゆる事業がコンピューティング力を必要とするようになるトレンドと、法的なコンプライアンスの強化でむやみにデータを維持しておかなくてはならなくなったことがあいまって、企業のデータセンターの中には、多数のサーバがびっしりと詰め込まれることになった。


スペース不足と、詰め込んだサーバが発する熱を冷やすための空調の必要からの電力消費量の急騰という問題をデータセンターは抱えるようになってきている。


最近の企業は、皆、自社のコンピュータインフラのシンプル化努力を加速している。バーチャライゼーションという技術などを駆使して、世界中にきままにばらまかれていたデータセンターを減らそうとしている。


米国の大手コンピュータメーカーのHPは、世界中の85のデータセンターを米国の6箇所に再編しようとしているらしい。


一方、グーグルなどインターネットの新興勢力は、本業強化のためにどんどんコンピューティング力を増大させていく。今グーグルは世界中で30あまりのデータセンターを持ち、100万台以上の自社製造のサーバを収容しているらしい。


グーグルに追いつけ追い越せ、マイクロソフトも年間数十億ドルの投資をして、毎月2万台、サーバを増やしているらしい。


こんな状態のなかで、さきほどもいったように、データセンターが暑くなってきているのだ。最大のデータセンターの電力消費量は、電力多使用型の典型のようなアルミ精錬工場に匹敵するようになっている。


クインシーにデータセンターが集まるのは、急上昇しつづけるデータセンターの電力使用量に対応して、安価な電力が手に入るからなのである。この町は、コロンビア川に近く、水力発電による安価な電力供給が可能なのだ。さらに冷却用の水資源も豊富で、高速の光ファイバー回線が利用でき、セキュリティ的にも心配ないほど人里離れているので、もってこいなのである。


グーグルもコロンビア川沿いに新しいデータセンターを建築する予定だ。


アメリカでよい場所が見つからなくなって、いまや、シベリアやアイスランドのような寒冷地でのデータセンター建設が行われている。


それじゃ、データセンターは皆街中から消えるかというと、スピードがもっとも大切な金融産業などは、ひきつづき、マンハッタン、東京周辺に自社のサーバを置きたがるだろう。でもバックアップセンターとなると、そこはやはり地方での建設が検討されることになるだろう。


実際には、あまり地元の雇用を生まないデータセンターながら、地方政府などはある種の幻想もあってか、優遇税制などを活用した誘致に熱心である。


いろいろな要素はあるにせよ、多数のコンピュータがバーチャル化ソフトなどを使って、パラレルに動くトレンドが強まるなかで、バーチャルマシーンは、コストが安く、環境にも優しい場所にならが、どこにでも移動するようになるだろう。


そうして、コンピューティングは文字通りUtility(公共サービス)になっていくのだ。(以上)



バーチャルな世界も、物理的世界の摩擦熱から無縁ではいられない。世の中はなかなか複雑である。