願文に記される三重の塔の本尊に立ちかえって考えると、時空を超越した法身の毘廬遮那如来を中心に、報身仏として久遠の過去に成仏された釈迦如来、現世の衆生に利益を与える薬師如来、現在兜率天に住し未来に弥勒如来として下生し衆生を済度される弥勒菩薩が安置されています。
そして経蔵に安置された文殊菩薩は、願文に「文殊像は三世覚母の名を憑み、一切経蔵の主となす。恵眼を廻らして照見し、智力を運んでもって護持す。」とあります。文殊菩薩は過去・現在・未来の三世にわたり、悟りに向かう智恵を生み出す母の役割を担っています。
過去・現在・未来をつかさどる三体の報身仏と三世覚母の文殊菩薩を安置することによって、中尊寺の「鎮護国家大伽藍」には過去世・現世・未来世の三世にわたる安楽への願いが込められたのです。
大日如来(金剛院蔵)
次回「中尊寺落慶900年 ⑫平泉の三世」へ続く。