中尊寺経蔵の修正会
修正会最後の座は牛玉導師作法です。(「牛王」とも記す。)この座は本来修正会の結願作法で、牛玉宝印の功徳力によって所願成就が高らかに唱え上げられるのです。
まず導師が仏・法・僧の三宝に帰依し、仏の色身(お姿)を讃える声明(三礼・如来唄)を唱えた後、修正会で加持された牛玉宝印には息災延命・除災招福などの勝れた功徳があることを申し述べます。次に出仕者一同が改めて仏道に精進する旨、誓願(五大願)を行います。修正会の結願にあたって牛玉宝印を授与すべきことを導師が述べると、一同は諸願が満足されること、特にも鬼病が除かれること、地味が増長し五穀豊穣となることを声高らかに祈願するのです。
一座の法要が終わると、その日の本尊宝印を結衆(若手僧侶)が両掌で奉持して脇壇の五大尊の一尊一尊に印を向けて念じた後、出仕の僧侶全員の額に授与(捺印の所作)します。
その間、別の結衆僧が、脇壇に供えられていた奉書紙包みの洗米(洗い浄めた米)を開いて、一つまみずつ五大尊に供え、その後堂内の四方八方に向かって撒き散じます。古代から日本各地に見られる散米(散供)の作法は、道場の周りに集まる悪鬼邪神に対し饗応(もてなし)することによって災厄を除き、道場を浄める目的があるともいわれます。(注1)また撒かれた洗米を出仕僧が思い思いに数粒口に含んで利益を蒙ろうとする姿からは、神仏に供える初穂の霊力や、豊穣と繁栄の象徴としての米に対する祈願の意味も感じ取られます。
中尊寺修正会の牛玉宝印お札
(左:金色堂牛王寶印・右:大釋迦堂牛王寶印)
注
1.田中宣一「散米と撒き銭」(『成城文藝』184)
次回「⑤修正会と骨寺村」へつづく。