修正会法則(天明六年西谷本)
初夜導師作法に続く後夜導師の作法では、『八十華厳経』「法身偈」の経句と『金光明最勝王経』に登場する菩提樹神の言葉をかりて仏に見えることを願い(注1)、さらに仏の勝れた三十二の姿(三十二相)を讃えます。続いて四箇法要(唄・散華・梵音・錫杖)という格式高い法要次第によって仏・法・僧の三宝を供養・讃歎します。そして導師が法要の趣旨を述べ、次いで神仏の加護によって転禍為福(禍転じて福となす)・除災与楽(災を除き楽を与える)、さらには当寺繁昌・仏法興隆・諸檀那(檀徒)安穏・諸国安穏・万民快楽・風雨順時・万菓豊饒などあらゆる利益がもたらされるであろうと申し述べるのです。出仕の大衆は声を合わせて、除鬼病(おそろしい病が除かれること)・蚕養如意(養蚕が盛んになること)・地味増長(農土が肥沃になること)・成五穀(農作物が豊作となること)を始めとする一切の諸願がみな満足されることを祈願します。
後夜導師作法では神仏の讃歎と様々な祈願がなされますが、最も具体的な願いとしては大衆の唱和にあるように、病、養蚕、五穀豊穣といった衣食にかかわることのように思われます。伝教大師が「道心の中に衣食あり」(注2)と説かれたように、それは単に現世利益のみならず、神仏の加護が日常の営みと密接に結びついていた時代の祈りでもあるでしょう。
注
1.「当願衆生得無礙眼見一切仏」(『八十華厳経』「浄行品第十一」)「惟願如來哀愍我 常令覩見大悲身 三業無倦奉慈尊 速出生死歸眞際」(『金光明最勝王経』「菩提樹神讃歎品第二十九」)
2.『伝述一心戒文』
次回「④修正会の牛玉導師作法」へつづく。