(そう)(しん)()()(やく)()(だい)(しょう)(ほん)第十九

 

 

 その時、僧慎爾耶薬叉大将と二十八部の薬叉諸神が仏に申し上げます。「世尊よ、現在、未来の世にこの『(こん)(こう)(みょう)(さい)(しょう)(おう)(きょう)』が広く布教されようとする時、私どもは姿を隠しその場所に行ってその説法師を(よう)()し、悩みを除き、安らぎを与えましょう。そして説法を聴く者が(中略)この経中の言葉を敬い、供養を行うならば、私どもはその者を助け、災いや苦しみから逃れさせ、安楽を与えます。(中略)世尊よ、私どもは、一切の教えを正しく知り、正しく明らかにし、正しく覚り、正しく観察します。この因縁によって私どもは『(しょう)(りょう)()』と号するのです。そのことから、私どもはその説法師の言葉が正しく備わり、身の回りを美しく飾り、その毛孔に(せい)()を注いで身心の力を充足させ、威光に満ちて勇ましく健やかに、難しい智慧(ちえ)の習得を成し遂げて正しい心持ちで退屈なく、身体の衰えもなく、体調もよく、常に喜びに満ちるようにさせることができるのです。(中略)

 

 そしてまた正了知・薬叉大将は仏に申し上げます。「世尊よ、私にも陀羅尼(だらに)がございます。今仏前にて自らそれを述べ、生ける者たちを(あわ)れみ(いつく)しんで()(やく)を与えたいと思います。」そして呪文を説きます。

 

 「()()(ぶっ)()()()()(だる)()()()()(そう)()()。(下略)」

 

 (中略)この呪文は次のような方法によって唱えます。

 まず四、五尺ばかりの僧慎爾耶薬叉大将の画像を一幅(いっぷく)用意します。像の手には(ほこ)()ります。像の前に正方形の壇を作り、(みつ)(すい)、あるいは砂糖水で満たした(びょう)を壇の四方に置きます。また()(こう)(まっ)(こう)(しょう)(こう)とさまざまな()(まん)(花飾り)を壇上に安置します。また壇の前に()()()を設け、炉の中に炭火を入れ、()()()()を焼きます。前の呪文を一遍(いっぺん)唱えるごとに蘇摩芥子を一つ焼きながら百八遍唱えるのです。私・薬叉大将は自らその呪文を唱える行人の前に現れ、このように問います。「お前は何を求めるのか。」と。その心願(しんがん)を言葉にして答えさせます。私はその言葉にしたがって願いをみな満足させます。(中略)

 

 その時、釈迦は正了知・薬叉大将にお告げになります。「大変よろしい。あなたはよく一切の生ける者たちに利益を施し、この(しん)(みょう)なる呪文を説いて正しい仏法を擁護した。この福徳・利益は計り知れない。」

 

 

 爾( そ)の時、(そう)(しん)()()(やく)(しゃ)(だい)(しょう)、并に二十八部薬叉諸神は(中略)仏に向かい白して言く、「世尊、此の(こん)(こう)(みょう)(さい)(しょう)(おう)、若しは現在世、及び未来世に、所在宣揚(せんよう)流布(るふ)の処、(中略)各自ら形を隠し、処に随いて、彼の説法師を擁護し、衰悩(すいのう)を離れて常に安楽を受けしめん。及び(ちょう)(ぼう)の者、(中略)この経中に於て、(中略)恭敬し供養する者は、我当に()()(しょう)(じゅ)して、(さい)(おう)なく、苦を離れ楽を得しむべし。(中略)()(そん)()(ごと)き一切の法に於て、(しょう)()し、正暁(しょうぎょう)し、(しょう)(がく)し、(しょう)(かん)(ざつ)す。世尊、此の因縁を以て、我薬叉大将を(しょう)(りょう)()と名く。是の義を以ての故に、我能く彼の説法の師をして、(ごん)()(べん)(りょう)()(そく)(しょう)(ごん)せしめ、亦た、(しょう)()をして(もう)()より入らしめ、(しん)(りき)(じゅう)(そく)し、威光勇健(ゆうけん)にして、(なん)()()(こう)皆成就することを得て、(しょう)(おく)(ねん)を得、退屈あることなく、彼の身を増益(ぞうやく)し、衰減(すいげん)なからしめ、(しょ)(こん)(あん)(らく)にして常に歓喜を生ぜしむ。(中略)
 
 爾の時正了知薬叉大将仏に(もう)して(もうさ)く、「世尊、我に陀羅尼(だらに)あり、今仏前に対して親しく自ら陳説(ちんぜつ)す。諸の有情を憐愍(れんみん)し、(にょう)(やく)せんと欲するための故に」と。即ち呪を説きて曰く、
 「()()(ぶっ)()()()()(だる)()()()()(そう)()()。(下略)」
 
 (中略)若し此の呪を()せん時には、(まさ)()の法を知るべし。先ず(いち)()僧慎爾耶薬叉の(ぎょう)(ぞう)()すること高さ四五尺、手に鉾竄(ぼうさん)(※金+鼠)を()る。此の像前(ぞうぜん)()(ほう)(だん)を作り、()(まん)(びょう)(みつ)(すい)、或いは(しゃ)(とう)(すい)()(こう)(まっ)(こう)(しょう)(こう)、及び諸の()(まん)を安じ、又、壇前に()()()を作り、中に(たん)()を安じ、()()()()を以て()(ちゅう)に焼き、口に前呪を(じゅ)すること一百八遍、一遍して一焼せよ。(ない)()我薬叉大将自ら来たり、身を現じて呪人に問うて曰わん、「(なんじ)(なん)(もと)むる所ぞや」と。意に求むる所の者、即ち事を以て答えよ。我即ち言に随い、求むる所の事皆満足せしめん。」(中略)
 
 爾の時、世尊、正了知薬叉大将に告げて曰わく、「善哉(よいかな)、善哉。汝能く是の如く一切の衆生を利益し、此の(じん)(じゅ)を説き正法を(よう)()す、(ふく)()()(へん)なり。」

 

 

(次回「王法正論品第二十」へ続く)