ちいさな、おはなし。 -47ページ目

雨とじゅうたん

いくつものイチョウの葉のきょうだいたちが、
北風に乗ってあちこちに飛び立っていきます。

イチョウの葉には、自分の行き先を決めることはできません。

だから、自分が降り立った場所で、さしあたり、じっとしているほかはないのです。

冷たいコンクリートに降り立った、あるイチョウの葉は、

ガソリンと排気ガスとタバコの入り交じったニオイに顔をしかめながら、
日がな、街ゆく人を眺めていました。

そしてぼんやりとこんなことを考えます。


「もう一度、風が吹いてくれないかな。今度はあったかい土の上に行きたいな。」



そんなある日、泣きそうな空から、泣きそうな雨が落ちてきました。

かつてあれほど彼が大好きだった、その雨です。

木の上にいたときは、街の人々が色とりどりの傘をさして、通りを行き交うのを眺めるのが好きでした。

乾いた自分のからだをほんのりと洗い流してくれる、そういう雨が好きでした。

しかし今の自分にはそうはいきません。

雨が降れば降るほど、としをとってしまった自分の身体は地面にへばりつき、そして、どんどん溶かされていってしまうからです。

それは、地面に帰るということを意味していました。



雨はどんどん強くなっていきます。


うつくしい黄色をした彼のからだは、あんのじょう、地面にたたきつけられ、ぴったりとへばりついてしまいました。


南の方へ飛ばされていった自分のきょうだいたちは、いまごろ、どうしているだろうか。


そんなことを考えているうちに、彼は、ゆっくりと眠りにつきました。



いつしか、そのあたりを、
水玉もようの傘をさした、ちいさな女の子が通りかかりました。

彼女はキョトンとした顔で、通りを見渡しながら、こう言いました。

「きれいなじゅうたんね。あたち、だいすきよ。」


黄色のじゅうたんは、その街の、その通りをうめつくし、
そして、南の街に向かって、どこまでも続いているのでした。

女の子は、そのじゅうたんの上を、
いたわるように、
歩いて行きました。