ちいさな、おはなし。 -45ページ目

栄冠が君に輝かなくても

とある都立高校のグラウンドの前を通りかかったところ、硬式野球部の練習音である「カキーン」という響きとともに、自分にとって「甘美」としか言いようのないあのメロディーが耳に飛び込んできた。

「栄冠は君に輝く」である。

高校球児のはしくれだった自分にとって、あの場所に行くということがどれだけすごいことか、十分すぎるほど分かる。

自分も、今目の前にいる彼らと同様、
大して強くもない高校の、
大してうまくもない選手であった。

甲子園など宝くじに当たるようなものだった。

けれど。

それでも夢であり、目標だった。苦しいときにはこのメロディーを思い出しながら練習したものだ。
もう身体中に刷り込まれているといってもよい。
この歳になっても、あのメロディーを耳にしたとたん、カーっと熱い血がたぎってくる。

練習中にこの曲をBGMに流すとは、この都立高校、もしかしていつか、ホントに甲子園に行くかもしれない。

なんにせよ、過去から未来にいたるまで、全ての無名の高校球児たちにとって、
等しく平等に染みこんでくるメロディー。

やはり、甘美としか言いようがない。

そう思った師走の午後であった。