ちいさな、おはなし。 -37ページ目

タワー・サイド・メモリー

レストランのルーフがゆっくり開いて、
怪しいオレンジ色にライトアップされた東京タワーが頭上に姿を現す。

妖艶で美しい。それは間違いない。

しかし、それよりも何よりも。

これほどの建造物をあの時代によくぞ造ったものだと改めて思う。
職人たちの勇気と技術力と心意気のすさまじさに、言葉が出ない。

肌寒さを感じ始める頃、いつの間にか店のスタッフが次々に毛布を配り始めている。

毛布にくるまってタワーを真下から眺めること小一時間。
現実離れしたような不思議な時間が過ぎていった。


あの日、僕たちは、あの店には場違いだったと思う。
明らかに背伸びをして見えるはずの僕たちに対して、
店のスタッフは懇切丁寧に、けれど極めて自然に、おすすめ料理のことやそれに合うワインの説明をしてくれた。

結局パスタとグラスワインを注文するのが精一杯だったけれど、堪能した。

さあ帰ろうというとき、店の女性から、

「今日はひときわ寒いのでカイロをどうぞ」

と温かいモノを渡された。

それぞれ片手にカイロをもちながら最寄り駅まで歩く。
会話はもはや少なかったが、
それは絆の深さがあってこそのことだった。


あのときつないだ左手の温もりは自分にとってかけがえのない記憶。

でも、もう一方の手に感じたカイロの温かみも、なんだか忘れることができない。


すっかり世話になったカイロを、
帰宅してから、ありがたく、いただいた。

焼き芋は、1時間半以上たってもまだ、ほんわかとして温かかった。