ちいさな、おはなし。 -33ページ目

黒と白

悪天候で試合が中止になった日曜日、皮肉にも午後になって雨は上がった。
身体を持て余した僕と息子は、マンションの裏手、いつもの小さな公園に向かう。

うっぷんを晴らすかのようにバットを振り回す息子。

と、その何打めかの打球=シャトルが、柵を大きく越えてマンションの駐車場に入ってしまった。

大ホームランだ。

急いで取りに行くと、向こうの方から、ちいさなちいさな黒い影が近づいてくる。
黒い影は、ほぼ全力で走って来た僕の勢いに一瞬だじろいで、踵を返して少しだけ逃げた。

申し訳ない気持ちになった僕は、走るのをやめてゆっくりとシャトルに近づく。

黒い影も、気を取り直してゆっくり近づいてくる。

と、次の瞬間、すさまじいスピードで黒い影がシャトルにさっと飛びつき、なんとそれをうばって猛烈な勢いでまた逃げていったではないか。

あっけに取られた僕は、手ぶらで息子のところに戻り、
仕方なく残りのシャトルで練習を続けることにした。

◇◇

10分くらい経っただろうか。

駐車場の向こうの竹やぶから、あのちいさな黒い影が近づいてくるのが見えた。

目を凝らすと、黒い影は、白いヤツを引き連れている。

黒と白は、駐車場の柵のところで、止まった。
そして、黒のほうが、口を地面に下ろし、何かをそっと置いた。


シャトルだった。


おそらく、さっきは食べ物にでも思えたのだろう。
そして、そうではない、ということに気づいたのだろう。

律儀な子猫たちに感謝しながら、僕は彼らにそうっと近づき、
遠慮なくシャトルを返してもらった。

それからしばらく、黒と白は、仲良く並んで僕たちの練習を眺めていた。


二人だけのバッティング練習に、ギャラリーがついた。
きっとまた週末に会える。