ちいさな、おはなし。 -22ページ目

My Ever Changing Moods


僕がその動作を始めるときには、
すでに彼女の左手の指先は、
シャキーンとある1点に向かって伸びているのだった。
僕に言葉を発する余地はない。

いいのよ、分かってるんだから、私ったら。

そう言わんばかりに彼女はカチャっとそのボタンを押すのだ。

僕の目の前の小さなモニターに『Quickpay』のマークが浮かび上がる。

おおっいつもながら速い!
僕は心地良い安心感を覚えつつ、クイックペイカードをカードリーダーにかざし、
支払いを済ませるのだった。

そこで彼女のドヤ顔である。

いいのよ、あなたのことは分かってるんだから、私ったら。。。

彼女とのこうしたやりとりは、はや2年ほど続いている。


◇◇
そんな彼女は、僕がとても気まぐれ野郎だということまでは知らない。

レジにカップ麺を置いた僕は、その日、何の気なしに財布から小銭を出したのだった。
100円玉を3枚つまみあげて、ふと顔を上げると。

凍りついた彼女の蒼白な顔が目の前にあった。

どういうことよ。話が違うじゃないの。どうしてくれるのよ。。。

小さなモニターに目をやると、いつの間にかそこには『Quickpay』のマークが浮かび上がっていたのだった。


◇◇◇
その一件以来の彼女とのやりとりは、こうである。

レジにカップ麺を置いた僕は、財布に手を伸ばそうとする。

その瞬間。

「クイックペイでよろしいですか(黙ってそうしとけゴルァ!!)」

彼女の、穏やかだけれどもあまりにも強い意志が感じられる声が、
僕を覆い尽くす。

覆い尽くす。

強烈に覆い尽くす。


ごめんね、おばちゃん。

俺、これからは永遠にクイックペイで払うよ・・・
(ときどき彼女のレジを避けて若いコのレジに行ってるのはナイショ)