ちいさな、おはなし。 -100ページ目

「運転手、大いに張り切る」

突然の冷たい雪にたじろぎ、逃げ込むようにしてバスに乗り込んだところ、案の定、空席はなかった。
疲れ果てた身体をひきずって、乗客の間を縫うようにして進む。

今日は最後の最後までいいことがなかった。。。

まわりに聞こえないように舌打ちをしながら、鉄柱にもたれかかる。


よっしゃああああ


という声が聞こえてきたのはそのときだった。
突然の大声とともに外に駆け出したのは運転手だ。

彼は独特のリズムでフロントガラスを磨き始めた。


きゅっきゅきゅ~・きゅっきゅきゅ~・きゅっきゅっきゅっ~!


あぜんとして見ていると、彼はあっという間に車内に戻ってきてこう言った。


うっし!みなさんお待たせいたしましたあああ!

ワタクシ、タカギタカヒコと申します!最後まで安全運転につとめますっ!!


乗客全員の目が点になるのが手に取るように分かる。むろん、僕も。

暗く冷たい夜を、バスは威勢良く走り始めた。
よけいなものをすべてかなぐり捨てて。何かを無視するように。

走る走る。
タカヒコのバスが、夜を切り裂くように。

タカヒコのバスは走る。


僕のバスも、いつの間にか夜を切り裂く。
となりにいたおじさんのバスも、夜を切り裂く。

みんな、途中下車するのも忘れて。

走る走る。

タカヒコと僕たちのバスが、夜の暗闇を走る。
よけいなものをすべてかなぐり捨てて。何かを無視するように。