本項では、工蟲にまつわる特異な性質や、不可解な現象について解説する。
既存の生物たちと全く異なる位置にいる工蟲たちは、不可解な現象を引き起こすことも知られている。
これらは具体的な原因は判明しておらず、観察、研究の過程で必ずと言っていいほど観測されたものを記載している。
動画への記録が不可能
工蟲は動画に撮影することができない、ということが知られている。
正確に言うと、撮影したデータの音声は問題なく聞こえるのだが、映像だけが著しく乱れてしまうのだ。
理由は定かではないが、デジタルはもとより磁気テープを用いた撮影でも同様の結果になってしまう。
このことから、現在でも工蟲を記録した映像は存在しない。
周辺の生物への認識障害
工蟲が発見されたのは2016年頃だが、見た目としても特殊である工蟲のような存在がなかなか発見されなかった理由の一つと考えられている事象。
これは「ある特定の人間にしか工蟲を認識できない」ということである。
例えば生体を見せてから数分〜2時間程度は認識しているが、半日も経てば記憶に残っていなかったり、山を歩いていて目の前を工蟲が歩いていても認識できない人がいる、ということだ。
こちらも明確なメカニズムは解明されておらず、いくつかの実験からそのような傾向がある、ということがわかっているだけだ。
重量を無視した歩行や飛行
鉄足動物である工蟲は、外骨格が鉄で構成されているため重量があり、体構造の似た節足動物が中型以上の工蟲のサイズであった場合、歩行どころか身体を維持することも困難とされている。
しかし、工蟲は発見されている最大の種で100kgを超えるがその種は当然のように歩行しているし、翅を持つ工蟲は翅膜を持たない翅を羽ばたかせて飛行する。
これらの事象は物理法則に反しているようにしか見えないが、事実として彼らは自重を無視するかのように歩行し、張り付き、飛行している。
栄養源
工蟲の栄養源も謎に包まれている。
工蟲は摂食器官を持たないため、食物を摂食することができない。
過去に行われた飼育実験において、全ての種が栄養を摂取している様子は見受けられなかったので、当初は蓄えた栄養で一生を過ごすと考えられていた。
後に自然界の工蟲にマーキングして観察する実験を行った結果、飼育下よりも明らかに長く生存していたことが判明し、これにより何らかの栄養を摂取しておるのでは、と仮説がたてられた。
しかし、先の特質により実験の様子を映像で記録することはできず、また追跡調査を試みても認識阻害にあうのか見失ってしまい、今現在もどのように栄養を摂取しているのかは謎のままである。
工蟲どうしでの短距離無線通信
工蟲には「作業群」と呼ばれる、種を超えた群れを作って一つの作業を行う習性がある。
その際重要なのが工蟲どうしのコミュニケーションだが、鳴き声などを持たない彼らは、ある波形の電波による無線通信を行っている。
各々が見たものや反響定位で認識した周囲の様子を無線通信を介して共有し、効率的に作業を行っていると考えられている。
通信可能距離は数mと長くないが、ウロツキ 𝑷𝒓𝒐𝒘𝒍𝒆𝒓 𝒑𝒍𝒐𝒘𝒍𝒂𝒏𝒔 などの種がその電波を中継することで連携を強化しており、また、オオメダマ 𝑴𝒂𝒈𝒏𝒐𝒄𝒖𝒍𝒖𝒔 𝒄𝒊𝒓𝒄𝒖𝒍𝒂𝒓𝒊𝒔 やメクラベ 𝑶𝒄𝒖𝒍𝒐𝒄𝒓𝒂𝒏𝒊𝒖𝒎 𝒐𝒗𝒔𝒆𝒓𝒗𝒂𝒏𝒔 などの種は、映像をデータとして記録し他の工蟲と共有することを作業習性としている。
先述のとおり工蟲は映像に残らないはずだが、そのような機能を持つ工蟲がいるということは、彼らはその障害を避ける手段を持っているのだろうと推察される。
以上が現在判明している、工蟲の得意な性質や、彼らが引き起こすとされている現象である。
先述のとおり、はっきりとした原因が判明しているものはないため、これらが工蟲のしわざである事はあくまで推測の域は出ないのだが、現実問題として、工蟲の観察、研究の過程でこれらの現象は起こっているのだ。
擬生物研究所所長 五十山田 是和著
「工蟲とわたし」17頁より抜粋