-風が吹きはじめる-
いつものベッドで目覚めた錬太郎。
薄目でベット脇の壁に貼られたカレンダーに目を向けた。
今日は休日であることに気付いた。
午後2時を過ぎていた。
まだ、昨夜の話題が目覚めた頭の中を漂っていた。
軽い二日酔だ。だが、いつもの仕事中の昼行灯と頭の回転スピードに大して違いは無かった。
何日前に洗ったのか薄汚れたcoffeeカップ。僅かに残る冷めたコーヒーに口を付けた。
いつものベッドで目覚めた錬太郎。
薄目でベット脇の壁に貼られたカレンダーに目を向けた。
今日は休日であることに気付いた。
午後2時を過ぎていた。
まだ、昨夜の話題が目覚めた頭の中を漂っていた。
軽い二日酔だ。だが、いつもの仕事中の昼行灯と頭の回転スピードに大して違いは無かった。
何日前に洗ったのか薄汚れたcoffeeカップ。僅かに残る冷めたコーヒーに口を付けた。
カーテンの隙間から差し込む陽の光に照らされ、窓の外にゆっくりと顔を向けた。
目じりの皺を一層堀を深くした。
ボサボサの頭を掻きながら、大きな口を開け室内の淀んだ空気を吸い込んでいた。
季節感すら無くしたように、つもの薄汚れた皮のジャンパーの右袖にダルそうに腕を通し近所のコンビニへ向かおうと玄関ドアを開けた。
いつもの風景では無かった。
生命の誕生は40億年前とも言われているが、まさにミッシングリンク。
35億年前、その5億年の隙間の謎の空間に入り込んでしまったかのような完全な謎の世界。
藍藻類やバクテリアの化石や古い地層、原始生命など及びもしない、まさに宇宙から飛来した神様のような存在、そう「生命の素」ならぬ錬太郎の母がそこに立っていた。
「こらっ!錬太郎!なんだ、そのだらしない格好は!髭はボサボサ!ヒゲも剃ってないし。ほら、どいて!」
神の降臨である。
神に抵抗などできるはずもなく、ただ従順になるしかない錬太郎。
母はすぐさま台所へ行きテキパキと朝食の仕度をし始め、掃除洗濯を同時進行し始めた。
絶対にボケないと確信する母。
母は80歳を過ぎていた。
とんでもない気力・体力を持ち合わせている。
疾風のタマさんと同類?母と二人で遅めの昼食をとりながら
「どうして今日来たの?母さん?」
と錬太郎が言った。
錬太郎の実家とマンションは電車で2時間ほどの距離。
「私ねぇ、今日からエジプトに行くの♪」
と母は軽く言った。
「あっ、そうなんだ。いってらっしゃい。」
と無愛想に顔も見ずに返事をした。
母は錬太郎の頭を軽く小突いた。
「痛いなー。二月に一度は海外へ旅行してるじゃないか。この前は香港に行って九龍城見てきたばかりだろう」
と呆れ顔でご飯を口へ運んだ。
「まぁ、そうだけど。あっ、ところで大事な話しを忘れるとこだったわ。錬太郎、家の裏にある松林を知ってるわよね。ほら、お前の遊び場よ。あの松林の奥に神社があったでしょ。深森(ふかもり)神社。あそこが火事で全部燃えたのよ。それで燃え後を見にいったら、警察や消防の人が沢山いて現場検証みたいなことしてたの。原因は解らないみたい。で、私焼け跡を遠くから眺めていたら、ほら、錬太郎の幼馴染の恭子ちゃん。知ってるでしょ。貴方より10歳位歳下の子。目のくりっとした可愛らしい子よ。あの子が立ってたの」
と母が言った。
「へ~っ。恭子ちゃんか~。あの子、今何処に住んでるのかな?高校卒業依頼まったく音信不通だったな」
「恭子ちゃんに声掛けたの。で、今は神奈川県の久里浜に住んでるって言っていたわ。でも、何だかよそよそしくて。そしたら、貴方のことだけ聞いてた。何か連絡したいことがあるって。で、ここの住所と電話番号教えておいた。じゃ!行くね!」
バッグを軽く肩に掛け、家を出た。
台風一過。
錬太郎は台風の過ぎ去った部屋に一人、ポッンと頬杖をついたまま窓の外を眺めた。
人間は大人になるにつれ、完結を見ない思考だけが置き去りにされる。
ボタンを掛け違えたのか、選択を間違えたのか。
判断も決定も、自らの頭上をただ通り過ぎるだけに思えていた人生。
この現という空間は人間にとってとても窮屈でしかなく、ただ重力にひれ伏す未来しか選択の余地はない。
しかし、錬太郎はそう悟るほど大人には、まだなり切れなかった。
窓のカーテンが僅かに揺れていた。
錬太郎の周りに風が吹き始めていた。
つづく


