詩でもなく、小説でもなく。。。
心に響く「One scene」を。。。
贈ります。。。
心に響く時をここで。。。
冬の冷たい雨が降る夜の道を、男は重い足を引き摺りながら歩いていた。
ただ一人の女性を愛し、その心の置き場所も分らないまま夜の街を彷徨っていた。
街灯の下、傘も差さずに煙草に火を点けた。ライターの灯りは、街灯の灯りよりも彼の横顔を明るく照らしていた。
止めることの自分の衝動を誤魔化すかのように静かに煙草の煙を吸い込んだ。
男は、見上げた街灯の青白い灯りに目を閉じ、その瞼を雨が覆っていた。
ステージ立ち台詞を忘れた俳優のように言葉も無く立ちすくんでいた。
すぐに煙草の火は降る雨に消えていた。
愛していると言えば悲しみが互いを包んでいた。
今まで、寄り添っていた温もりは身体から留まることなく夜の街に流れ出していく。
止めどなく、心の温もりまでもさらっていく。
男はコートのポケットに手を入れ、もう一度タバコを取り出し火を点けようとした。
雨で消えることが分っている火を、男は何度も繰り返しライターに火を灯し煙草の煙ををくゆらす。
何かが消えることを恐れているかのように。
雨は止めどなく降り注ぎ、濡れた男の姿を闇に溶け込ませていった。
消えかかる男の姿に、走り寄る小刻みなヒールの靴音が響き渡る。
濡れる男を背中から抱きしめ傘を投げ捨てていた。
今、確かめた愛が消え去ることを許さないほどの強さで男を抱きしめていた。
冷たい雨に女の髪は男の体に濡れ掛かり、まるで離れる身体を繋ぎとめるかのように。
男は濡れたコートを女の肩に掛け、女が投げ捨てた傘を拾い差し掛けた。
見つめ合う瞳に、互いの姿は映らない。
ただ、触れ合う温もりだけが互いが立ち続ける支えだった。
二人の寄せる唇に冷たい雨は降り注いでいた。
この夜を止める。
雨は降り続いていた。。。