54.With the love? | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。






 錬太郎が消えた次の瞬間、・霧に包まれ廃虚となった温泉旅館の玄関に彼は立っていた。


 現状を把握できないまま。。。


 周囲を見渡しても裕子はいなかった。錬太郎はゆっくりと旅館の中に足を進めた






「君。。。」






 そう。。。夏菊瑠菜がそこにいた。



 着物姿の彼女が出迎えた。  







「自販機伯爵がお待ちです。奥へどうぞ」







 と一言錬太郎に告げた。





 錬太郎は呆然としたまま奥の間へ彼女に促されるまま進んだ。





 12畳ほどの広い和室に通され。。。一枚の座布団に腰を降ろし部屋を見渡した。室内にはこれといって目を惹くような飾りは無かった。



 ただ、室内の天井や壁は、全て淡い朱色に染められていた。



 しばらくして、正面右奥の襖が開き、・病院の医師。。。加納裕次郎が姿を現した。



 いつも、錬太郎に語りかけていた男。。。そう。。。アッ君こと。。。自販機伯爵である。錬太郎は彼を見つめた。



 自販機伯爵はゆっくり口を開いた。







「人間とは、なんと未熟な生き物だ。我々祖先と比べものにならん。なぜ、全てを救おうとするのだ。何故、自分を犠牲にしてまで人を救おうとするのだ。おろかだ」






 錬太郎は、今どういう状況に自分が置かれているのか、まだのみこめないままだった。




 伯爵は言葉を続けた。。。






「錬太郎。。。人間とは、おろかで悲しい生きものだとは思わないか?」




「我々祖先は、創造するだけで人類社会を具現化していた。BC1億300年前、我々は心。。。つまり脳で思い描いた時、そこに物理的に具現化された実態、現象を表出する能力を持っていた。錬太郎。。。解るか?」


「例えば、こうありたい。。。と思えば、現実として目の前に起こる。空を飛びたいと創造すれば大空を飛ぶことさえ可能だった。惨劇を想像するだけで現実のものとなった。しかし、我々祖先は、ある意味。。。心や、人間の脳により文明を滅ぼしたのだ。その能力を、自己の欲望のまま創造し続け。。。争いを生み。。。破滅し滅亡の一途を辿った」









 錬太郎は、一言。。。





「はぁ。。。」






 伯爵は続けた。




「我々祖先の時代でさえ創造する力を持つには未熟だった。そこで、我々の持てる能力を子孫たちに継承することを止めたのだ。その能力を知識の図書館に封印したのだ。同じ過ちを犯さないために。その場所をマウントという。それが、ここだ。我々は人間とまったく同じ世界に生きることを避け、時空間の裏側で人間社会の文明を見守ることにした。しかし、僅かながら現実社会に残ったものがいる。その子孫が少数ではあるが我々の能力を継承している。錬太郎。。。君がが具現化したんだよ。人間を。。。そう、紫陽花泉も紫陽花裕子も。。。そして我々と人間社会で生きるものは、すでに必然の出逢いの中でしか生きていないのだ。錬太郎。。。君だ」







「えっ、僕が?二人を?」







 と聞き返すと、伯爵は







「ああ、そうだ。錬太郎、君はどんな些細な出来事も、言葉にできないほどの感動を呼び起こすことが出来た。古びたものを見て、見ているままでなく。。。その奥にあるものや、以前そうであったであろう。。。その時代の風景や人、情景を思い描くことを楽しみにしていたな。自分の周りにある人や物、全てに。ほんの少し微笑む時を持ち、その中に不思議な世界を思い描き、唯一自分にだけに微笑み返してくれるものを感じ取っていた。自分の体内時計を狂わせるほどの出来事を生み出す力を持っていた。人やものとの出逢いに気づく感性を張り巡らし、準備している。その能力は我々祖先がごく普通に持つ能力なのだが、今の人間達は無くしているのだ。錬太郎、君はそれを持っていた。我々祖先の能力を」






 錬太郎は、伯爵の話を静に聞いていた。瑠菜は伯爵の側に座り。。。静かに錬太郎を見ていた。柱時計の短針が八時を指そうとしていた。








「錬太郎。。。君はどうしても二人を救いたいのか?」








 と聞かれ







「そうだ!!!そう誓った!!!」







 錬太郎は伯爵を見据えた。すると伯爵は






「何故、人は。。。いや。。。なぜ、錬太郎は二人を救うのだ?それは。。。愛か?我々に悩みはあったが、愛というものはは存在しなかった。人間の。。。”愛”。。。を理解できなかった。それが錬太郎のそばで過ごすようになって私も愛が何であるかを感じ取っていたようだった。愛とは。。。終止符などないということを。そうなのか。。。錬太郎?」
 




 古びた温泉旅館の一室に。。。”愛”が。。。漂い始めていた。。。




 つづく