錬太郎は即答できなかった。
ただ。。。二人を救いたいだけ。
“愛”についてなど。。。深く考えることもなかった。それが素直な答えだろう。
暫くして錬太郎は口を開いた。
「僕は、そうは思わない」
と一言。伯爵は。。。
「違うのか?終止符はないものかと感じていた。君を見ていて思ったが。。。どう違うのか?」
すると錬太郎は。。。
「終止符という言葉では言い現すことはできないということ。。。」
伯爵は錬太郎を見据えた。
「どういうことかな?」
「”愛”とは。。。どういうものかは深く考えたことも無かったけど、ただ言えるのは。。。大切に思えるものを支え。。。守ると心に誓っている今の自分の存在を感じている。なぜ犠牲になってまで他の人を救うのかと聞かれても、それが”愛”というのなら、ただ。。。その”愛”に終わりを求めるか求めないかは、伯爵。。。互いが求め合う。。。与え合う。。。その術を見失い始めたときに訪れるものなのかもしれないが。。。終止符を打とうとして。。。”愛”を自分の意志で終わらせることなどできないし、誰もが終わりを知っていながら愛し続ける。とても儚いと伯爵は言うが、だからこそ。。。人間の愛と言えるんじゃないか。。。僕はそう思う。。。」
と錬太郎は語気を強めた。
「僕が作り出したというのなら、二人を守るさ。たとへ伯爵の世界のルールに背いても。僕は守る。。。それしか。。。今の自分を支える言葉がない。情けない」
錬太郎の目から涙が静に零れ落ちた。
その時、瑠菜が両手を差し伸べ錬太郎の零れる涙を指先で拭いた。
瑠菜が言った。
「伯爵、私は貴方に作られました。伯爵。。。私も涙がこぼれ始めました。この涙は何なのでしょう。。。?」
瑠菜の瞳から零れ落ちる涙は頬を伝い、錬太郎の涙を拭った指と重なった。その時、伯爵が言った。
「我々には涙というものは無かった。ただ問題を解決するために創造する力を使い、そしてまた問題を生み、また創造により具現化し現実を変えていく。人間は自分自身で変える事ができないから”愛”があるというのか。。。おろかな」
そう、静に言葉を詰まらせながら。。。伯爵の目から。。。はじめての涙が。その次の瞬間、床には紅葉した枯葉が降り積もりはじめ。。。廃墟となった旅館にもどり。。。そして。。。朱色の部屋は。。。徐々に。。。真っ白な空間になった。
天井も床も壁も真っ白。影も無く光が何処から差しているのかも解らない空間。
錬太郎は自分の位置すらわからない。伯爵が言った。
「此処がマウントの本当の姿だ。目に見えるあるがままの世界に生きる人間には見えない空間なのだ。錬太郎。。。」
伯爵は言葉を続けた。
「我々は。。。人類が必ず対を求めるようにした。ただ、対となる相手が必ずしも相性が良い訳ではない。しかし、細胞レベルから必ず対になるようにプログラムしたのだ。そうすることで人類の新陳代謝は高まる。人間のDNAに破壊プログラムを我々は組み込んである。したがって人間の生命そのものに破滅を招くこともある。しかし、現実世界に住む君達、人類は”愛”という不思議なプログラムを生み出し、我々の作り出した君達は。。。現実に叶わぬことを知りながらも、思いをかなえるため愚かな変化を続けている」
そして伯爵は瑠菜を側に引き寄せ抱きしめた。
「錬太郎、君達人間に学ぶことなどは無いと思っていた。しかし、我々が人間に組み込んだプログラムより、はるかに進化しているのかもしれない。明日を知るより、今を生きる愚かな人間達よ。我々に生死の概念は無い。従って死への恐怖も存在しないはず。だが、今。。。私は自身が作り出した瑠菜を失うことを恐れている。それが”愛”というのか。。。君達人類の”愛”を確かめるために。。。今。。。見せよう。。。我々。。。祖先の力を。。。」
そう言うと、伯爵は彼女を両腕で抱きしめ。。。・包み込んだ。
次の瞬間、二人は真っ白な空間の中にありながら、さらに眩いほどの薄紫に染まった光を放ち。。。その光に包まれた二人の身体は。。。一つのシルエットに。。。その時。。。。
そして。。。額紫陽花の二枚花びらが。。。
戻りたい。。。逢いたい。。。でも。。。君たちを救えるなら。。。
僕は君たちの心に残る道を選ぶ。。。許してくれ。。。
錬太郎が。。。呟いた。。。
つづく