24. | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



 彰は彼女を見た。デニムのパンツと淡い紫地のウールニットという姿。

「皆さん、こんばんは。やっと来れました♪今日は有休を取ったんです。そうでもしなきゃ夕方この店にこれなくて♪」

 彰は、どう迎えるべきか考える余裕もなく、葵は彰の隣の席に自然に座った。彰を挟んで千恵美が葵を覗き込むように話し掛けた。


「はじめまして♪千恵美でーす♪」

「あっ、はじめまして。葵です」

「そうよね、お二人は初対面ですものね♪あら、何だか合コンみたい♪」


 女将はノリノリだ。彰はぎこちなく葵に一礼した。


「最近残業続きで。皆さんにお世話になったお礼が遅れてすみませんでした」

「お世話?何それ?」

「あぁ、千恵美ちゃんは知らないものね。葵さんも介抱したのよ。あたし♪フフッ」

「あっ、そうなんだ。ヨッパで?ふーん。ここって駆け込み寺みたいだねママ。千恵美もヨッパでお世話になったんだ」

「そうなんだ。仲間♪千恵美さん、改めてよろしくね♪」

「わぁーい。なんだか千恵美嬉しくなって来たよ。だってさぁ、こんなに沢山人と楽しく話しながら夕ご飯食べるなんて無かったもん。嬉しいよー♪」


 おっ、いいぞ。少し話題が逸れたと彰はホッとした。千恵美と彰は席を替わり、男女それぞれ二人ずつ並んで座りなおした。誠司がトイレへ向かう途中、一言彰に小声で言葉を掛けた。


「彰、お前の恋の相手が解ったぞ」


 彰は誠司の後ろ姿を見た。葵と千恵美は意気投合し話が盛り上がっている。
 誠司がトイレから出てくると女将がお絞りを手渡した。誠司は手を拭きながら彰に話し掛けた。


「お前さぁ、本気か?なら、俺、応援するぞ」

「なんだよ、応援って?」

「だから、恋の応援だよ。お前と葵さんのさぁ♪」

「お前なんか変だぞ。俺を応援するなんて、熱でもあるのか?」

「バーカ。可笑しかないさぁ。当たり前のことだ。友の幸せを応援するのに何の理由がいるんだ♪」


 誠司はニヤケている。こいつ、本当に俺をからかっている。

 四人は、楽しそうに酒を酌み交わし宴は盛り上がっていった。女将はそれを眺めながら穏やかに微笑んでいた。


「ねぇねぇ、さっきの話だけどさ、アッキー♪」


 ギクッ!彰はマズイと感じた。このまま、話題が進行すれば葵にも迷惑が掛かる。“中年男児の恋”とかなんとか題目を付けられ誠司にからかわれるのが落ちだ。

 すると、誠司が千恵美の言葉に反応し、


「人の恋は、そっとしといてやるもんだぞ!千恵美ちゃん」

「あれっ?セッチー、さっきと反応が違うぞ。おかしいな?」

「俺も彰もハートは青春!傷つき易いんだからな♪大事にしてくれよ!頼む♪」

「仕方ないなー。今夜は許してあげよう♪うんうん。でも、アッキー!今度は逃がさないよ♪!」

「あぁぁぁぁ。わかったよ」


 誠司の助け舟で彰は命拾いした。


「えっ、彰さんの恋?ふーん、彰さん恋をしているの?」

「あっ、いやー。まいったな」

「冗談です。すみません♪フッ」



 葵は俯きながら口に手の甲を当て、小さく笑った。


「でもさぁ、結婚と恋愛ってどう違うんだ?」

「えーっ、そんなことも分かんないの?中年組は」


 千恵美は呆れた顔で二人を見た。

「結婚は契約よ。恋愛は病気。お二人さん、分かった?」 

「ほほう、なるほど。俺は、結婚は勢いで恋愛は秘密の関係くらいに思っていたよ」

「誠司はカラフルなことばかりやって失敗してるんだよ。だいたい、何だよ、その秘密の関係って?もっと純粋なものだろう」

「アッキー、それは違う。純粋とかじゃなく、恋愛って男と女がいても一緒に病気に掛からないんだ。でも、一緒に掛かったら治る病気。つまり結婚すれば治るのよ」

「でも、結婚は契約なんだろう?」

「“夫婦は人倫の基本”って言うだろう誠司。お前は、その基本が崩れてるんだよ。一つの社会契約だと思うよ。でも、契約っていう言葉、俺は好きじゃないけど」

「ヨーロッパだと、そうフランスなんかは結婚してから恋愛が始まるんですって♪」


 葵が言うと、全員???


「えーっ、好きでもないのに?それから恋愛?うっそう?」

「カトリックの人が多いせいかもしれないけど」

「じゃー、結婚前に男女の関係なんてぇのは無いんだ?」

「そうでもないらしいの。結婚ってあくまで社会契約だから、結婚前に予防注射はしてもいいらしいの」


 誠司は不思議そうに、葵の顔を見て言った。


「ん?安全ならいいってこと?」

「そうみたいです」

「なるほどー♪」

「お前は、そういう都合のいいところでしか納得しない」



 彰は誠司の性格を十分理解している。だが、彼の生き方、いや女性関係についてはあまり詳しくは知らなかった。それでも、失敗話はママからちゃんと聞いていた。



「女将、俺そろそろ帰る。後は彰に二人の美女を任せるから」

「あらっ、もうお帰り?」

「千恵美も帰るから、帰りはセッチーと腕組みしよう♪」

「おっ、いいね♪」



 二人は少し風が吹き始めた夜道へと消えていった。慌しい宴も終わり静かな居酒屋に戻っていた。


彼らが店を出てから、また雨が降り始めた。

 葵は彰の隣に座り直した。肩が触れるくらい寄り添い、女将と3人で酒を酌み交わし始めた。




「私。。。雨にキスしたいな。。。」


 穏やかな笑みを浮かべ静に言葉を流した葵。彰は、その横顔を見つめた。


つづく