48.「Stayed」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



 諒子が。。。

「恭子さん。。。線香花火。。。新しいのあげますよ。。。恭子さん??」

 と声を掛けた。すると恭子は

「えっ?。。。えぇ。。。ありがとう。。。」

 と少し戸惑いながら線香花火に火を点けようした。その時。。。右手に何かを握ったままであることに気がついた。そう。。。子安貝。。。恭子は静かに指を開いて貝を見つめた。

諒子がそれを見て

「恭子さん。。。それって?なんです?」

 と言うと

「ほらっ。。。さっき。。。」

 と言い掛けて言葉を閉じた。

 錬太郎は。。。静かに恭子と諒子の会話している様子を眺め。。。やはり。。。そうだったんだ。。。恭ちゃんは。。。

 恭子は。。。周りを見回して。。。

「あの。。。老紳士の方は?」

 と言った。すると。。。そこにいる錬太郎以外の皆は顔を見合わせ。。。

「誰のこと?。。。恭ちゃん???」とマスターが不思議な顔をして聞き返した。そこにいるのは段五郎と諒子。。。店内で寝息をたてているタマさん。。。そしてマスター。。。老紳士を知っているのは恭子だけ?。。。

 いや。。。もう一人知っている。。。それは。。。



 恭子は。。。自分の記憶の中の父を消してない。。。父が心の中に。。。記憶の世界にちゃんと残ってることを。。。今。。。確かに感じた。それを確信した恭子の頬から涙が零れ始めていた。。。空を見上げ。。。小さな声で言った。。。

「おとうさん。。。恭子の記憶の中にいるんだね。。。もう。。。どこへも行かないでね。。。おとうさん。。。ずっとそばにいてね。。。ありがとう。。。おとうさん。。。」

 。。。そう恭子は呟いた。もう自分の記憶が揺らぐことはないと。。。

 皆が店に入り、錬太郎も恭子を連れ店に入ろうとした。その時、月明かりに照らされ立ち尽くす恭子の頬を伝う光を見た。彼女が子安貝を握り締めていた手を。。。錬太郎は自分の手で優しく包むように握り、背中から恭子の耳元で囁いた。。。

「おとうさんに会えたんだね。。。恭ちゃん。。。よかったね」

 と。


 恭子は振り返り。。。

「うん。。。おとうさんは。。。恭子の心の中に。。。記憶の世界にちゃんといる。もう。。。大丈夫だよ。。。」

 と涙を堪えながら錬太郎を見た。そして、錬太郎は。。。

「目を閉じても見える。。。おとうさんが。。。そうだろう。。。恭ちゃん。。。」

 と言った。

 続けて錬太郎が言った。。。

「僕がそばにいるよ。。。ずっと。。。」。。。

 恭子と錬太郎はフォリナーの前で。。。月光に照らされながら一つのシルエットになっていた。。。互いに心を通わせる。。。その幸せを感じ取りながら。。。

 意識。。。そして思考。。。それだけが自分であると。。。そう思うことは決して誤りではない。。。そう思える世界を、錬太郎は今。。。確かに感じ取っているのかもしれない。

 見ること。。。見えていることは違う。見えずとも考えられる人。。。見えても考えられない人。。。見えない世界にこそ。。。本当に見えていると思える世界が広がっているのか。。。

 1時間の間にしか存在しないと言っていた彼は。。。なぜ錬太郎だけが恭子が父と会ったことを理解していたのか?。。。ミラクルナンバーの7は何を意味していたのか。。。他の皆はどこまで記憶として留めているのか?

 錬太郎はこの世界に。。。恭子のそばに存在し続けることができるのか。。。

 フォリナーの夜は。。。まだ続いていく。。。

 月が隠れ、静かに雨が降り始めていた。
 
つづく