47.「心と記憶」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。



「恭子。。。。。。いいかい。。。おとうさんが研究していた神話の世界にはね。。。理屈では説明できないことが沢山あるんだ。。。とっても不思議なことが。。。それは現実の世界にも沢山あるんだよ。。。科学万能の世界に住んでいても。。。理解できないことなど数限りなくあるんだ」

 と彼は言葉を選ぶようにゆっくりと話しを続けた。

「物語とは。。。言葉で綴る前に。。。人は全てを知っているものなんだよ。。。恭子は心で理解しているはずだよ。。。もう。。。」

 恭子は静に彼の言葉を聞いていた。

「シンデレラを知っているかい?彼女は。。。いつも釜戸のそばにいて灰を被って薄汚れていたのは知ってるね。火を扱う場所はとても神聖な場所だと昔から言われていたんだ。そして。。。その火のそばにいて。。。いつも灰を被って汚れていた彼女は。。。“現実の世界”と“霊の世界”の間を行き来する特別な存在だったと考えられていたんだ。。。でも、ここは霊の世界じゃない。。。ここは“記憶の世界”なんだ。恭子の“心の世界”と言ってもいい。“灰”はおとうさんと恭子の心を。。。二人の記憶を繋ぐ扉のキーだったんだよ。。。」

「私の記憶。。。心の中の世界?。。。灰がキー?」

 と恭子が言うと、彼は

「みんなは。。。いつも“目に見える世界”で生きているだろう。。。でも。。。確かにあるとわかっていて。。。見ることも触れることも出来ない世界もあるんだよ。。。」

 と言った。

「時間。。。時。。。私の記憶の中にある。。。自分の心が決めた時間の中。。。心の世界なの?。。。でも、私は。。。その時を無理に止められていたような気がする。」

 と恭子が言った。

「恭子の記憶の中に。。。おとうさんは生き続けていた。確かに。。。でも、お父さんと。。。こうして会ったことは記憶には残っていないんだ。。。恭子とはじめに再会した8歳の頃。。。」

 と彼が言うと、恭子は。。。

「どうして。。。じゃ、お父さんの記憶は。。。また消えちゃうの?いやだよ。。。そんなの。じゃ。。。どうして会ったりするの?おかしいよ。。。だから恭子の記憶は揺らいだりするんだ。。。おとうさん。。。消さないでよ。。。記憶を。。。」

 と涙がこぼれ始めた。。。

「恭子。。。恭子の現実の世界。。。つまり“目に見える世界”って。。。どうだい?目に見えるって素晴らしいことだよね。でも、見えている現実を。。。より一層美しく見えたり素敵に感じさせる。。。そう見えたりさせるのはなぜだと思う?。。。目に見える世界は。。。目の前にあるものを見ようとしなければ。。。記憶には残らない。いくら目から情報が入っても。。。捉えるのは心なんだ。。。心が捉えなければ目に見えるものは記憶にのこらないんだ」

「じゃ。。。私が今見ているおとうさんは?。。。私の心が見ようととしているから見えるの?」

 と恭子は彼の腕を掴んだ。

 すると。。。

「現実には存在しないもの。。。それを。。。見せることができるのが。。。この。。。“見えない世界”。人間は大昔。。。あらゆること。。。人間が考え思い描いたことを。。。すべて現実のものにできたんだ。しかし、人間はとても愚かで未熟だった。互いを傷つけあう“力”として使った。。。だから。。。その能力を自ら封印しなければ。。。人類は消えていた。過去に何度もそれを繰り返していたんだ」

「私は。。。自分の意志の力で、お父さんとの記憶を残すことはできるの?この世界のことを私の記憶に残せるの?おとうさん?」

 彼が言った。。。

「“追憶のなかの花は現実の花よりも紅い”。。。恭子の意思の力。。。心の力。。。それ次第かもしれない。。。今なら。。。記憶に残るかもしれない。恭子には。。。目の前にないものを。。。遠く思いやる力があるから。。。だから。。。こうしておとうさんは二度も恭子に会えた。時として。。。全く関係のない。。。遠く離れたものでも。。。一瞬にして近づける 。。。心。。。記憶とはそういうものなんだ。。。今ならできるよ。。。恭子。。。」

 しばらく二人は身体を寄せたまま。。。海の彼方を眺めていた。


「そろそろ。。。おとうさんに許された時も残り少なくなってきたようだ。恭子。。。時間と空間に左右されない。。。恭子の心。。。この記憶の世界に。。。おとうさんと会った証を。。。きっと。。。残してくれ。。。いつまでも。。。いつまでも。。。恭子の側にいて見守り続けたいから。。。」

 と彼は恭子を強く抱きしめ。。。瞼を閉じた。

 恭子は更に強く両腕に力を込めて。。。彼を抱きしめていた。。。

「おとうさん。。。おとうさん。。。お父さん。。。」と大きな声で顔を埋めた。

 彼が恭子の頬を両手で包み、二人は顔を見つめ溢れる涙で恭子の目が霞はじめた。。。そのとき。。。父の身体は薄らと。。。少しずつ消えていった。。。辺りは真っ白になり。。。恭子が一瞬眩しさで目を閉じた。

 次の瞬間、恭子はフォリナーの店の前で花火をしている仲間の間に立っていた。。。そう。。。あの。。。線香花火をしていた時間と空間へ。。。現実に戻っていた。。。線香花火は。。。月光よりも。。。星よりも。。。優しく眩いていた。。。

 恭子は。。。果たして。。。父の記憶を。。。父の証を。。。心にとどめているのだろうか。。。?

つづく