34.「カオスから」 | 我ここに在りてここに無し

我ここに在りてここに無し

青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。




 翌朝、錬太郎は5時に母親にたたき起こされ電車に乗っていた。昨日の出来事が、まだ頭の中を漂っていた。少し空気がヒンヤリしている。車窓から見える景色を虚ろな目で眺めていた。電車のドアが開き、錬太郎の隣の席に若い女性が座った。特に気にも止めず5つ目の駅で下車。階段を降りていると。。。

「錬太郎さん?」

 と背中から声を掛けられた。聞き覚えのある声だった。

「おぅ。。。久しぶりだね。。。元気?」

 と女性の声に答えた。

「さっき隣に座っていたのに全然気付かないんだ。。。相変わらずボーっとしてる♪」

 と言いながら錬太郎の斜め後ろを歩いた。駅を出て少し歩き始めてから

「コーヒーでも飲む?俺。。。朝はコーヒーがないと駄目なんだ。」

 と寝癖を直しながら言った。

 彼女は佐山諒子、つい最近社の系列会社へ出向し半年が過ぎていた。

「どう?仕事は?」

 と錬太郎が聞くと

「まぁまぁっととこですか。部長は?」

 と聞かれ

「相変わらず。。。中を浮いてるよ。昼行灯は健在さぁ♪。。。ところで。。。君のフィアンセは元気?もう少しで結婚だったろう。。。?」

 と言うと

「あぁぁぁ。。。別れちゃいました♪」

 と軽く答えた。すると錬太郎は

「随分明るく言うな。。。どこも別れ話ばかりだな。。。。あぁぁぁ」

 とぶつぶつ言うと

「他にもあるんですか?」

 と聞かれ

「いやいや。。。なんでもないよ。。。独り言。」

 と話を切った。

 「部長の机にメモ上がってたでしょ。あれ、私♪」

 。。。

「???何?どういうことだ?メモって。。。あの古い紙に書かれた?」

 と諒子の顔を見た。すると

「はい♪私が置いたの。出向先の社に向う前に寄って部長のデスクに置いたの。頼まれたんです。。。ある人にね。。。」

 と言いながら錬太郎の肩を小突いた。

「誰に?」

 と聞くと諒子は

「知らないお爺さんに。」。。。

「えっ?どこで頼まれたの?」

 と再度聞くと

「社の玄関で。私。。。夕方本社に用事があって。。。用事を終えて帰ろうとしたら呼び止められて。それで、そのお爺さんが“実家から出てきたけど錬太郎さんは退社した後で会えなかったからメモを渡してもらえないか”と言われて。。。優しそうなお爺さんだったし。。。意外にかっこよかったの♪」。。。と軽く。「おいおい。。。名前は聞かなかったの?」

 と言うと

「名前を聞こうとして振り返った時には、もういなかったの。。。ごめんなさい。」

「あぁ、いいんだ。きっと叔父だと思う。」と答え、二人は社に向かった。きっと恭子の父と名乗る男性だ。恭子の父はいつも近くにいるんだ。いったいどこに。。。錬太郎は恭子の父と母の言葉を思い出し、今夜はフォリナーに行こうと思った。

 恐らく彼は何かの仲介役としての役割を担っているのかもしれない。亡くなったとされる恭子の父が私に“時は心が決める”と話していたこと。そして母が“時の記憶を蘇らせてはいけない”と。そして二人とも恭子の記憶を辿ることを避けていた。

 でも、なぜ恭子の母までが避けるのか?何かを知っているのか?恭子の父が生きている?ことを知っているのかもしれない。ただし、人間であるとは限らないと錬太郎は思った。

 なぜ二人は記憶を辿ることに抵抗するのだろうろ。とにかく今夜は月光族三銃士と共に少し思考の旅の前準備?をすることにしようと錬太郎は思った。あっ、、、それと鯛焼き屋の段五郎にも声を掛けなきゃと。

 時として、人は思いもよらない場面に遭遇すると、妙に感性が豊かになったり、何かしら変化が起こるものらしい。昼行灯の錬太郎の頭が、頭脳明晰とまではいかないが。。。トイレの100Wよりは明るく。。。頭の中身も冴えてきているようだった。

 金曜日から旅が始まるし。。。気合も入っているのだろう?。。。まぁ、気持ちは分からんでもないが?。。。

 7時半過ぎに仕事を終え、錬太郎はフォリナーに向かった。いつも通いなれた居酒屋で道に背を向けコップ酒を一杯。チビチビと飲んでいると。。。あのときの男性が隣の席にカウンターに寄り掛かりながら座っていた。

 彼の記憶は戻ったのだろうか?少し気掛かりだった。

「いつもここにいらっしゃるんですか?」

 と軽く声を掛けてみた。彼は

「えぇ。。。たまに。。。僕。。。貴方のこと。。。知ってますよ。。。」

 と言われ、錬太郎は少し驚いた。だか、最近、色々な出来事に遭遇しているため、少々のことにはあまり動じなくなっていた。冷静に彼の言葉に耳を傾けていった。

 何か混沌とした記憶の糸を手繰り寄せる歯車が噛み合わさってくるような。。。

つづく