14.「ポーク・チョップとバーボン」 | 我ここに在りてここに無し

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青きBOUGAの果て

ひとりごとのように

詩と小説を書き綴ります。

何か心に響くものがあれば

それだけで。

 錬太郎と恭子は、雑多な繁華街を抜け公園の木々の間を流離うようにゆっくりと歩いていた。二人は失われた時を手繰り寄せるかのように距離を近づけているようにも思えた。ゆっくりと。。。ゆっくりと。。。互いの胸の鼓動が聞こえるくらい静まり返った公園の中を、繋いだ手の温もりだけを頼りにフォリナーへと足を向けた。

 錬太郎は恭子の子供の頃の記憶を呼び起こしていた。近所の子供たちと一緒に花火を見に連れて行ったり、海に連れて行ったり、公園で遊ばせたりといったことくらいで、印象深い記憶はさしてないように思えた。

恭ちゃんはいつも明るくみんなに笑顔を振りまき、闊達で賢い子だったとう印象だった。一つだけ特に覚えていたこと、それは、夕暮れに家までおんぶしながら恭子を家まで送っていく途中、背中の恭子が「お嫁さんになる」と言った幼稚な笑顔がとても印象深く残っていた。

その時の情景は錬太郎にとって思い出深い記憶として残っていた。夕焼けの色、木々や草花の色や香り、空気の匂い、どれもが錬太郎には鮮やかに感じ取れていたのかもしれない。子供心に心が潤っていたのだろう。その情景を一枚の写真のように記憶に焼き付けていたのかもしれないと。しかし、意味付けとしてはまだ弱い。単なる情報ではないが、もっとそこに記憶として残る何か意味付けがあったに違いないと。恭子の記憶の中にはどのように映し出されていたのだろう。

 そんなことを錬太郎は考えながら、二人は夕暮れの街を30分ほど歩きフォリナーに着いた。マスターはこの前来たときと同じボトルをカウンターに並べ

「恭子さんいらっしゃい。今夜もお好きなボトルをお選びください♪錬ちゃんはいつものね」

と言いながらポークを焼いていた。

「じゃ。。。私はエヴァン・ウィリアムスで♪」

と恭子が控えめな声で言った。

「マスター。。。珍しいね。。。ポークなんて。いつもは袋に入ったスーパーのサラミしかカウンターに載ってないのに」

と錬太郎が言うと

「たまにお客さんが来た時くらい。。。手料理でもてなさないと♪」

とマスターはニコニコしながらポークが焼きあがる寸前にバーボンをかけた。

ポークのバーベキューだった。骨付きのポーク・チョップであった。ブッカーズの瓶は温めていたらしい。温まったバーボンの栓を焼きあがる寸前のポークに振りかけた瞬間、蒸気といい匂いが吹き上がり店内を満たしていった。

「いつものタマさんと俺はお客じゃないんだ。。。はは~ん。。。」

と錬太郎が拗ねたように言うと

「二人は家族や兄弟みたいなもんだから、お客とは言わないでしょ」

とマスターはポークを二人に差し出した。

 錬太郎は笑顔を見せ、満足げにポーク・チョップを口に運んだ。恭子も小さな口で味わっていた。アロマ(芳香)とフレーバー(風味)が閉じ込められているバーボンの蒸気が香るポークに思わず吐息をもらす錬太郎と恭子であった。

マスターのもてなしに二人は温まっていった。すると恭子は

「こんどはミント・シュレップだね♪ダービーでも見に行きたいわぁ♪ねぇ。。。行きましょうよ♪」

と恭子が言うと

「いいね♪行こうよマスター♪」

と会話が弾みかけていた。

 と店のドアがギギーッと開き

「あ~ら、私のいない間に。。。ポークなんて。マスター。。。許しませんよ♪!あっ、それに錬太郎!隣に素敵な女性と一緒に。。。許しませんわ♪さぁ、この状況を誰が説明してくれるのかしら?♪」

と立て続けに話した後ビールを一口。

“疾風のタマ”ことタマさんのご登場であった。

おやおや、今夜のフォリナーは静けさとかけ離れ、過去への旅もどこへやら、笑顔の飛び交う和やかな夜から始まっていった。

つづく