ー求職活動実績づくりで学んだ、60代の仕事探しの現実ー
失業手当を受けるには「実績」が必要だった
仕事を辞めて、ハローワークで失業手当の手続きを済ませたとき、担当の方からこんな説明を受けました。
「失業手当を受給するためには、決められた回数の求職活動実績が必要です」
求職活動実績。
その言葉を初めて耳にしたとき、正直なところ「なんだか面倒そうだな」と思いました。
仕事を辞めたばかりで、気持ちの整理もついていない。次の仕事のことを真剣に考えなければならないのはわかっている。でもまだ、エンジンがかかりきっていない。そんな状態の中で、「決められた回数の活動をしてください」と言われると、「何をどうすればいいのだろう」と、少しだけうんざりした気持ちになりました。
求職活動実績として認められるものとは
まず、整理しておきましょう。
厚生労働省が発行する「雇用保険の失業等給付受給資格者のしおり」によると、求職活動実績として認められる活動は、以下のように定められています。
① 求人への応募
企業への応募は、もっとも基本的な実績です。ハローワーク経由でも、求人サイトからのネット応募でも認められます。
② ハローワーク等が行う職業相談・職業紹介
ハローワークの窓口で相談員さんと話すこと自体が、実績になります。
③ ハローワーク等が行う各種講習・セミナーの受講
ハローワークが主催するセミナーや講習会への参加も認められます。
④ 許可・届出のある民間機関が行う職業相談・職業紹介等
民間の職業紹介事業所や、労働者派遣事業所での相談も実績として認められます。
⑤ 許可・届出のある民間機関が行う求職活動方法等を指導するセミナー等の受講
民間機関が開催する、転職活動の方法を指導するセミナーなども対象です。
⑥ 公的機関等が行う職業相談等
独立行政法人や地方自治体、求人情報提供会社、新聞社などが行う職業相談も含まれます。
⑦ 公的機関等が行う各種講習・セミナー、個別相談ができる企業説明会等の受講・参加
地方自治体などが主催する講習会や、個別相談のできる企業説明会への参加も実績になります。
⑧ 再就職に資する各種国家試験・検定等の資格試験の受験
再就職に役立つ資格の試験を受けることも、実績として認められます。
こうして並べてみると、ハローワークへ足を運ぶこと以外にも、さまざまな方法があることがわかります。
そして私は、このリストを見た瞬間に、ある一つのことが頭に浮かびました。
「ネット応募でもいいなら、家にいながら実績が作れるのでは?」
それが、今回の遠回りの始まりでした。
「それなら楽かもしれない」と思ってしまった
求職活動を始めてしばらく経った頃、知人からこんな話を耳にしました。
「ネットの求人サイトから応募しても、実績として認められるらしいよ」
「オンラインのセミナーを受けても、ちゃんとカウントされるみたい」
その話を聞いたとき、正直に言うと「それが楽かもしれない」と思ったのです。
ハローワークまでわざわざ行かなくても済む。自宅でパソコンを開けば完結する。移動の時間もかからない。精神的にも体力的にも負担が少ない。
一人暮らしで、毎日の生活を自分で切り盛りしながら仕事を探している身としては、「できるだけ無駄なく動きたい」という気持ちが、正直なところありました。
こうして私は、求人サイトへの登録を済ませました。
「これで実績も作れるし、求人情報も手に入る。一石二鳥だ」
そんな軽い気持ちだったのです。
翌日からメールが届き始めた
求人サイトへの登録作業は、思ったより簡単でした。
名前、住所、職歴、希望職種、希望勤務地など。必要な情報を入力して、登録ボタンを押すだけです。十分もあれば終わりました。
「思ったより簡単にできたな」と思いながら、その日は画面を閉じました。
ところが翌朝、スマートフォンを開くと、見慣れないメールが何件か届いていました。
「〇〇さんのご経歴に興味を持ちました」
「ぜひ一度お会いしたいと思っています」
「あなたにぴったりの求人があります」
最初は、正直少し嬉しかったのです。「自分のことを必要としてくれる会社が、もしかしたらあるのかもしれない」と、少し期待が高まりました。
でも、その期待は、それほど長くは続かず、がっかりすることになるのでした。
届いたのは私には合わない求人だった
一通ずつ、丁寧に開いて読んでいきました。
最初の一通。「物流ドライバー急募」。
私は車の運転が得意ではありません。というより、できれば運転を伴う仕事は避けたいと、登録のときに希望しなかったのでした。
次の一通。「営業職、インセンティブあり」。
営業職?事務職を希望していることは、しっかり登録してありますが、営業職は・・・。
その次。「管理職候補、将来的に全国転勤あり」。
これから管理職?いやいや無理でしょう。
60代の私が、全国転勤のある仕事に応募できるはずがありません。
さらに読み続けると、夜勤のある仕事、県外勤務が前提の仕事、特定の専門資格が必須の仕事。どう考えても、私には当てはまらないものばかりが並んでいます。
「私の希望条件、読んでもらえているのだろうか」
そう思わずにはいられませんでした。
おそらくシステムが自動で送信しているのでしょう。
企業の側も、広く候補者を集めたいという事情があるのだと思います。
でも、受け取る側としては、自分宛てに届くメールのほとんどが「自分には全く関係のない求人」だということに、だんだんと疲れを感じるようになっていきました。
メールの数だけどんどん増えていった
日が経つにつれて、メールの量はさらに増えていきました。
朝、目を覚ましてスマートフォンを開くと、夜の間に何十件も届いています。昼間も、夕方も、夜もメールは届き続けます。
「〇〇さんへの特別オファーです」
「今すぐ応募すると優遇されます」
「スカウトが届いています」
件名だけ見ると、どれも自分に向けられた言葉のように感じます。でも開いてみると、内容は自分とは全くかけ離れたもの。
そのうちに、メールが届くたびに、小さなため息が出るようになりました。
「また関係のやつだろうな」と思いながら、何十件ものメールを確認して、全部削除する。それだけで、一日の貴重なエネルギーが少しずつ削られていく感じがしました。
情報は多ければ多いほどいい、とは限らないのだと、このとき実感しました。
本当に自分に合った求人を探すためには、大量の情報の海の中から、自分に必要なものだけを丁寧に拾い上げる作業が必要です。ですが、それは思っていたよりずっと手間のかかることでした。
「オファーが来る=求められている」ではなかった
今になっては勘違いも甚だしい笑い話ですが、登録当初は、オファーメールが届くたびに「この会社は私を必要だと思っているのかもしれない」と、少し嬉しく感じていた部分がありました。
でも実際に応募してみると、そうではないことがわかりました。
オファーが届いたのは、あくまでも「応募の入口に立てた」というだけのことでした。そこから先には、書類選考があります。面接があります。他の応募者との比較があります。
「オファーが届く」ということと、「採用に近づく」ということは、まったく別の話です。
むしろ、的外れなオファーを大量に受け取り続けることで、気持ちが疲弊していきました。
「これだけ届くのに、自分に合ったものがひとつもない」という、なんとも言えない空虚さが積み重なっていったのです。
ある日自分に問いかけた
求人サイトに登録してから数週間が経った、ある夜のことです。
届いたメールを何十件か確認して、全部削除して、画面を閉じながら、ふと考えてしまいました。
「私は、何のために活動しているのだろう」
失業手当をもらうために、実績の回数を満たすために。もちろんそれは必要なことです。生活のためですから、否定できません。
でも本来の目的は、そこではないはずでした。
次の仕事を見つけること。働ける場所を探すこと。それが、本当の目的のはずでした。
なのに気づけば、「実績を作ること」が目的になっていて、「実際に自分が働ける仕事を真剣に探すこと」が、どこかへ行ってしまっていたのです。
何となく応募する。何となくメールを見て削除する。何となく時間が過ぎる。
そんな状態になっていました。
ハローワークへ行って、改めて気づいたこと
その翌日、久しぶりにハローワークへ足を運びました。
別に、大きな目的があったわけではありません。ただ、何かを変えたいという気持ちで、とりあえず外へ出てみたのです。
窓口に座って、相談員さんと話しました。
「今どんな求人を探されていますか」「通勤はどのくらいまでなら大丈夫ですか」「今まで応募されてみて、どうでしたか」
そういった、ごく普通の質問に答えながら、自分の気持ちや状況を言葉にしていくうちに、少しずつ頭の中が整理されていくのを感じました。
ネット応募の方が、確かに手軽です。家から出なくても済みます。時間の制約もありません。
でも画面の前で一人でメールを見ていても、「これは自分に合った求人なのか」「この条件は実際にどうなのか」ということが、なかなかわからないのです。
相談員さんと話すことで、自分の条件について改めて整理できました。「この求人は、実際の職場環境はどんな感じですか」と質問できました。迷っていることを口に出して、一緒に考えてもらえました。
一人で大量のメールを眺めているだけでは、絶対に得られなかったものが、そこにはありました。
60代の仕事探しに楽な近道はなかった
振り返ってみると、私は少し楽をしようとしていたのだと思います。
「家にいながら実績が作れる」「移動の手間が省ける」そういった「楽さ」を求めた結果、何週間もの時間と気力を、的外れなメールの確認と削除に費やしてしまいました。
もちろん、求人サイトやネット応募が悪いわけではありません。上手に活用すれば、強い味方になってくれるツールです。
でも60代の仕事探しは、20代や30代の転職とは、少し事情が違います。
応募できる求人の数は、年齢とともに絞られてきます。一つひとつの応募に、書類の準備という大きなエネルギーが必要です。体力にも、時間にも、限りがあります。
だからこそ、「数をこなせばいい」という発想では、長続きしません。
「本当に自分が働けると思える求人に丁寧に向き合う」。
それが、60代の仕事探しには何より大切なのだと、今回の経験で、痛いほど学びました。
おわりに|仕事探しに、近道はありませんでした
求職活動実績を、楽に作ろうとした結果、私が得たのは「疲弊」と「気力の消耗」でした。
遠回りをしたと思います。でも、その遠回りがあったからこそ、気づけたことがあります。
仕事探しに、本当の意味での近道はない。
ネット応募も、オンラインセミナーも、ハローワークへ足を運ぶことも、それぞれに意味があります。でもどれも、「真剣に取り組むからこそ意味を持つ」ものなのです。
実績の回数を満たすことは、確かに必要なことです。でもその中身が、自分の本当の仕事探しとつながっていなければ、時間だけが過ぎていきます。
今日も私は、求人票と向き合っています。
大量のメールを眺めるのではなく、本当に応募したいと思える一枚を、丁寧に探しながら。
一緒に、焦らず、着実に進んでいきましょう。
