60代になって仕事を探していると、ときどきこんな気持ちになります。
「この年齢で応募できるだけでもありがたい。」
「仕事を紹介してもらえるだけで感謝しなければ。」
そんな気持ちから、本当は少し迷っている求人にも応募してしまったことがありました。
紹介してくださる相談員さんへの感謝はもちろんあります。私の年齢や経験を考え、一生懸命探してくださっていることも分かっています。
それでも今振り返ると、私は大切なことを忘れていました。それは、「自分は本当にその仕事をしたいと思っているのか」という、自分自身への問いかけです。
今回は、60代の就職活動を通してわたしが気づいたことを書いてみたいと思います。
同じように仕事を探している方の、少しでも参考になればうれしいです。
「60代なら、このあたりでしょうか」
ハローワークへ通い始めたころの私は、とにかく焦っていました。契約満了が近づき、「次の仕事を決めなければ」という気持ちばかりが大きくなっていたのです。
相談員さんは、求人票を見ながら何件も紹介してくださいました。その中には「事務職だから経験が生かせそう」と思える仕事もあれば、「自分にできるだろうか」と不安になる仕事もありました。
ある日、相談員さんが少し間を置いてからこうおっしゃいました。
「60代でしたら、この求人はいかがでしょう」と。
悪意はなく、むしろ、私のことを思って選んでくださったのだとわかっています。
でも、その瞬間からわたしの心の中に、「60代だから、選べる仕事は限られているんだ」という思い込みが生まれてしまいました。
窓口の椅子に座りながら、求人票をじっと見つめて、「ここしかないのかもしれない」と、自分で自分を納得させようとしていました。今思えば、あのときすでに、心のどこかに無理が生じていたのだと思います。
断ることが申し訳なく感じてしまった
紹介していただいた求人を見るたびに、「ありがとうございます」と受け取りました。
相談員さんが時間をかけて探してくださったのですから、「興味がありません」と言うのが申し訳なく感じたのです。
「せっかく紹介してくださったのだから。」
「断るのは失礼かもしれない。」
本当は、小さな引っかかりがありました。仕事内容だったり、通勤時間だったり、勤務条件だったり。
「毎日続けられるかな」という、小さいけれど確かな不安が胸の奥にあったのです。
特に気になったのは通勤のことでした。片道1時間以上かかる職場で、しかも乗り換えが2回ある。
「若いころなら気にならなかったかもしれないけれど、今の自分に毎日続けられるだろうか」と思いながら、それでも求人票を手に取りました。「毎日のことだから」という不安に、「でも贅沢は言っていられない」という言葉でふたをして。
今振り返ると、あの小さな迷いこそが、自分の本音だったのだと思います。
「働きたい」ではなく、「働かなければ」
履歴書を書きました。職務経歴書も何度も見直しました。
志望動機も考えました。それでも、書きながらどこか違和感がありました。
「この仕事をしたい。」
ではなく、
「仕事を見つけなければ。」
という焦りのほうが大きかったのです。
もちろん、生活のために働くことは大切です。収入も必要です。でも、「働かなければ」という気持ちだけでは、志望動機に自分の言葉がなかなか乗ってこないのです。
志望動機の欄を何度書き直しても、どこか嘘っぽい文章になってしまう。
「御社の〇〇という点に魅力を感じ…」と書いてみるけれど、自分でも「本当にそう思っているのかな」と感じてしまう。
夜中にノートを広げて、「なぜこの会社で働きたいのか」と自分に問いかけながら、うまく言葉が出てこなくて。
それ自体が、答えだったのかもしれません。
あとから振り返ると、面接でも同じだったように思います。
質問には答えていました。笑顔も心掛けていました。
でも「この職場で働きたい」という思いは、十分に伝えられていなかったのかもしれません。
面接官は、経験だけではなく、その人の気持ちも見ているのだと思います。
不採用になって初めて気づいたこと
結果は不採用でした。最初は「やっぱり60代だからかな」と思いました。
もちろん、それも理由のひとつだったかもしれません。
不採用の通知が届いた夜、しばらくスマホを手に持ったまま、何もできずにいました。
「やっぱりそうか」という気持ちと、「どうすればよかったんだろう」という気持ちが入り混じって。
お茶を一杯いれて、ぼんやりと窓の外を見ながら、ふとこんなことを思いました。
「もし採用されていたら、わたしは毎朝笑顔で通えていたんだろうか」と。
その問いに、すぐには「はい」と答えられなかった自分に気づいて、納得しました。
時間が経つにつれて、不採用だったことが「失敗」ではなく、「自分の気持ちを見つめ直す機会」だったように思えてきました。あの結果がなければ、わたしは自分の本音に向き合わないまま、次の求人をまた焦って探し続けていたかもしれません。
「譲れない条件」は、わがままではない
私はずっと、「60代なのだから仕事を選んではいけない」と思っていました。
採用してもらえるだけでもありがたい、そんな気持ちが強かったのです。
でも、ある日ふと考えました。
もし採用されたとして、その仕事を何年も続けられるだろうか。
毎朝、「今日も頑張ろう」と思って家を出られるだろうか。
答えはすぐには出ませんでした。けれど、ひとつだけ分かったことがあります。
それは、自分の中に「譲れない条件」があるということでした。
わたしが大切にしたかったこと
これまでの事務職の経験を生かせること
無理なく通勤できること
できれば長く働ける環境であること
職場の雰囲気が自分に合いそうだと感じられること
人によって大切にしたいことは違います。収入を優先する人もいれば、休日を重視する人もいます。
それでいいのだと思います。自分が大切にしたいものを優先することは、決して贅沢でも、わがままでもありません。
むしろ、長く、気持ちよく働くためには必要なことなのだと気づきました。
「譲れない条件」を紙に書き出してみたのは、不採用から数日後のことでした。
箇条書きで書いていくと、意外とすっきりと言葉にできました。
「これが出てくるということは、ずっと前から心の中にあったんだな」と思いました。
書き出すことで、自分が何を大切にしているのか、初めて輪郭がはっきりした気がしました。
それからは、求人票の見方が少し変わりました。「採用してもらえそうか」より先に、「ここなら毎日通えそうか」と考えるようになったのです。
焦っていると、自分の声が聞こえなくなる
就職活動をしていると、どうしても焦ります。
特に60代になると、「年齢のことを考えると早く決めなければ」という気持ちが強くなります。
わたしもそうでした。求人を見つけると、「このチャンスを逃したら次はないかもしれない」と思っていました。
でも、焦っているときほど、自分の本当の気持ちは見えなくなります。
「本当にこの仕事をしたいの?」「毎日笑顔で通えそう?」——そんな問いかけをする余裕もなく、「応募しなければ」という気持ちだけが先に走ってしまうのです。
焦りのピークだったころ、ある日の朝、求人サイトを眺めながら「これも応募しようかな」と思った瞬間がありました。
正直、仕事内容をちゃんと読んでいなかった。
「60代でも応募可」という文字だけが目に飛び込んできて、それだけで手が動きそうになっていた。はっとして、一度スマホを置きました。
深呼吸して、もう一度求人票を読み直すと、「あ、これはわたしには合わないかもしれない」と気づいた。
焦りは、判断力まで曇らせてしまうんだと、あのとき実感しました。
今なら、応募ボタンを押す前に一度だけ立ち止まろうと思います。そして、自分の心に聞いてみます。「わたしは、この仕事にワクワクしているかな」と。
その答えが「はい」なら、自信を持って応募できます。もし迷いがあるなら、その理由をもう少し時間をかけて考えてみてもいいのかもしれません。
不採用は、自分を否定されたわけではない
就職活動をしていると、不採用通知は本当にこたえます。何度経験しても慣れるものではありません。
「やっぱり年齢かな」「経験が足りなかったのかな」そんなことばかり考えてしまいます。
でも今は、不採用は「あなたには価値がありません」という通知ではないと思えるようになりました。企業にも事情があります。求める経験や働き方があります。タイミングもあります。そして、自分にも「合う職場」と「合わない職場」があります。
ある求人に落ちた後、気持ちを切り替えようと思って近所を少し歩きました。公園のベンチに座って、「もし採用されていたら、どんな毎日だったかな」と想像してみた。
片道1時間以上の満員電車、慣れない環境、気候が厳しい季節も毎日通う自分の姿……。
想像しているうちに、「もしかしたら、縁がなくてよかったのかもしれない」という気持ちが、ふわりと浮かんできました。
不採用は終わりではなく、「この道ではなかった」という、道案内だったのかもしれない。そう思えたら、少し肩が軽くなりました。
60代だからこそ、自分を大切にしたい
20代や30代なら、「経験のため」と頑張れることもあるでしょう。
でも、60代のわたしには、これからの時間はとても貴重です。
だからこそ、「どこでもいいから働く」のではなく、「ここで働きたい」と思える場所を探したい。そう思うようになりました。
もちろん、現実は甘くありません。希望どおりの求人ばかりではないし、年齢の壁を感じることもあります。
それでも、自分の気持ちまで諦めてしまったら、毎日が苦しくなってしまいます。仕事は生活のためでもありますが、人生の大切な時間でもあります。だから私は、自分の心を置き去りにしてまで仕事を決めたくないと思うようになりました。
同世代の友人が、「条件はあまりよくないけれど、人が良さそうだったから」という理由で職場を選んで、生き生きと働いている姿を見たことがあります。「収入はそこそこだけれど、毎朝行くのが楽しみなの」と話す彼女の顔は、本当に明るかったのです。好条件だけれど行くのが憂鬱な職場と、条件は普通だけれど気持ちよく通える職場、どちらが豊かな時間か——答えはひとつではないかもしれないけれど、その友人の笑顔を見ながら、「自分が大切にしたいものを軸に選ぶことの大切さ」を改めて感じました。
「選ぶ勇気」も大切な就職活動
以前の私は、「応募する勇気」が大切だと思っていました。
でも今は、それと同じくらい「選ばない勇気」も必要だと感じています。
こんな理由だけで応募していませんか?
紹介されたから、断りづらくて応募する
年齢を理由に、迷いながらも妥協して応募する
「ここしかない」と思い込んで、自分の気持ちに目をつぶる
相談員さんが紹介してくださる求人は、どれも善意からのものです。だからこそ、感謝の気持ちは忘れたくありません。
そのうえで、「今回は見送ります」「もう少し自分に合う仕事を探したいです」と伝えることは、決して失礼ではないと思います。
就職活動は、「採用されること」がゴールではありません。
自分らしく、安心して働ける場所に出会うこと。
それが本当のゴールではないでしょうか。
わたしはまだ、そのゴールに向かって歩いている途中です。迷う日もあります。不安になる日もあります。「また落ちてしまった」と布団の中で落ち込む夜もあります。それでも、自分の気持ちに正直でいたいと思っています。
もし今この記事を読んでくださっているあなたも、同じように就職活動で悩んでいるなら、ひとつだけお伝えしたいことがあります。
どうか、「60代だから」と、自分の気持ちまであきらめないでください。
あなたが大切にしたい働き方は、あなた自身が決めていいのです。
遠回りに思える道が、実は自分に合った職場へ続く一番の近道なのかもしれません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
