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weekend.

単身赴任の彼。主婦の私。ありふれた田舎町。ありふれた不倫。でも最後の恋と思いたい。

「2階を見に来ない?

広くて持て余してる

響子、引っ越してきたらいいのに」

 

笑いながらカズさんは言った。

食事を終えた我々は、

TVerの見逃し配信のドラマを見ていた。

カズさんはタバコを吸っている。

銘柄はピース。

 

「おいで」

 

私の手を引いて、

玄関の横の急な階段をのぼった。

 

一番手前が洋室の寝室、

カズさんがシングルベッドを置いて使用していた。

向かいの広い和室2室は使用されていない。

そして奥にお手洗いがあった。

なるほど家族住まい用の社宅だった。

 

「おいで」

 

もう一度カズさんが言った。

 

カズさんは

シングルベッドに私を招き入れ、

今度は足を払わずに、

当たり前のように私を押し倒した。

 

キス。

 

なんて甘い。

 

柔らかな

カズさんの髪。

 

頬。

 

首筋。

 

コロンの香り。

 

この人には抗えない。

 

深いキスと共に、

私たちは抱き合って、

服を脱いだ。

 

「凶器を外して」

 

カズさんは悪戯っぽく言った。

私は指に嵌めている結婚指輪やファッションリング、

ピアス、イヤカフを外した。

 

私たちは深く交わった。

 

「めちゃくちゃに犯して...」

 

吐息と涎と頭が真っ白になりそうなほどの快楽。

カズさんのセックスは激しくて甘くて

乱暴で優しい。

 

そして切ないほどのキスを、

100万回。

 

「本気になりそう

カズさんに」

 

「なっていいよ」

 

先週、ホテルで交わった時には感じなかったが、

私はその日、カズさんの指で初めて絶頂を感じた。

 

正常位の後、バックでカズさんは果てた。

 

「あまりいったりするいことってなかった?」

 

「あまり無い。

いっても一度のセックスで一回だけ。

外いきだけで、中いきはしたことないの」

 

「君を開発しよう」

 

ベッドの中で布団にくるまりながら、

カズさんは言った。

悪戯な瞳、私を愛撫する時の意地悪な顔、

色っぽい仕草、セクシーな姿に

私は急に恥ずかしくなってしまい、

口籠った。

 

「アソコも、俺のカタチに」

 

狭いベッドで、また私たちは

さまざまな話をした。

 

「ベッドのカズさんは

顔が変わってとてもセクシーね」

 

私はカズさんの柔らかな巻き毛の髪の毛に触れながら言った。

 

「響子も顔が変わるよ

大人の女性な感じがして良いよ」

 

私たちは何度も何度もキスをした。

恋人より激しいキスを

甘くて

乱暴で

優しくて

官能的で

堕ちていきそうな

土曜日の午後。

 

to be continued...

カズさんの社宅は、

リビング、キッチン、風呂、トイレ2つ、

寝室3つと、一人暮らしには広々としている。

 

リビングに大きめの長方形のこたつが置かれ、

こたつの上にパソコンのモニター。

 

私が所在無げにしていると、

カズさんは

 

「こたつに座ってて

今ストーブをつけるよ」

 

そしてキッチンで湯を沸かし、

インスタントコーヒーを淹れてくれた。

 

「ありがとう」

 

「これでも昨日部屋を片付けたんだけどね」

 

言い訳するようにカズさんは言った。

とは言え、部屋の中は雑然と本が積み上がっていたり、

洗濯物が積み上がっていたり。

 

前の彼女も来ていたのだろう、

めざとくチェックした靴棚の上には、

造花の花と、ガラスのクリスマスツリーが飾られていた。

そして二人分の食器、

二人分の箸、

二人分のエプロンが掛けられている。

 

「前に付き合っていた人はどんな人?

どのくらい付き合っていたの?」

 

私は聞いた。

 

「え、うーん、音楽関係の人でね

一年くらいかな」

 

もう少し突っ込んで聞こうと思ったけれど、

止めた。

後で思い出して嫌な気持ちになりそう。

 

「そんなことより

部屋があったまったらカレーを作ろう

響子もキッチンに来て

何もしなくていいから、

そばで話し相手になって

俺のカレーは

肉も野菜もゴロゴロのカレーだよ」

 

そう言ってカズさんは立ち上がり、

キッチンへ私を促した。

ガス台の側にスツールが置いてあり、

 

「そこに座って」

 

そう言った。

 

私がガス台のスツールに座ろうとすると、

 

「待って」

 

と言って、私の腕を掴み、

キスをした。

 

先週ホテルでした時よりも、

親密なキスのような気がした。

カズさんのホームだから?

 

「逃げないで」

 

カズさんはそう言って、

もう一度深いキスをした。

 

「さあカレーを作るよ」

 

相変わらずカズさんはニコニコしている。

もうペースはカズさんだった。

遊び相手にしてやろうとしている私を

知ってか知らずか、

私を掌で転がしているみたいだ。

でも嫌な気はしない。

そういうところが、年上の男の人の好きなところ。

 

まだ

二人は駆け引きを楽しんでいる。

 

カレーを煮込むカズさん。

温かい鍋の湯気。

 

ーーああ

私、誰かが作った家庭料理を食べるなんて

何年振りだろう

 

いつも主人のご飯の支度の心配ばかりして

毎朝3時に起きてお弁当を作って

 

お店に行けばシェフの美味しい料理を食べられるけど

こんなあったかい手作りカレー

いつ振りかな

ふふ

変な人。

 

ノンアルのスパークリングワインを出して、

私たちはカズさんが作ったカレーライスを食べた。

 

リビングは温かなカレーのスパイスの香りと

弾けるワインの炭酸と

お喋りと

笑いと

時々唸りを上げるFF式ストーブの音、

広い庭に薄く積もる雪

 

2度目のランチは

心から笑っていたような気がする。

 

to be continued...

 

 

 

 

 

 

"来週の木曜日、会えそうだよ”

 

快彦さんからLINEがあった。

 

カズさんと車で笑いながら、

一瞬忘れていたけれど、

私には恋人がいるのだ。

1年以上付き合っている。

 

2度以上会ってしまうと火遊びが火傷になる。

 

持論。

 

だから、浮気相手とは1度しか会わないのが

ポリシーだったのに。

 

つい、カズさんとおしゃべりするのが心地いい。

カズさんにもう一度会いたかった。

 

”うん

楽しみにしてるね”

 

私はカズさんの隣で、

恋人に

そうLINEを打った。

 

ピコン♪

 

”ランチどうする?

焼肉とかどう?

それともキョンは魚の気分?”

 

”焼肉いいよ

夏頃行ったQ行こうか?

牛タンの”

 

”あそこ旨かったよな

Qにしよう

木曜日、いつも通り、

11:30頃家に着くよ”

 

”了解

待ってるね”

 

恋人の快彦さんは、

隣県に住んでいて、東北各支店の営業の仕事をしている。

私の県に営業の仕事で来る際、

午前中に仕事を終わらせ、

私とランチデートをするのが木曜日。

 

バツイチで女の子の子どもが2人いる。

月に一回、子どもと面会しているようだった。

快彦さんが子どもと会う日、

私は気持ちがモヤモヤする。

まだ中一と小2の女の子二人。

ということは、付き添いに前の奥さんとも会うのだろうし。

心が狭いよね、

そうは思うのだけれど。

 

快彦さんが好きすぎて、

私は浮気をしていた。

 

快彦さんへの気持ちが100パーだとしたら、

100パー快彦さんへ向かうと

男の人にウザがられる。

だから、その想いを70パーとか

50パーに分散させるために、

私はマッチングアプリで男を見つけて、

デートしていた。

 

恋人が他にいます

 

それを告白した上で、

デートしてくれる相手もいる。

でも、なかなか恋人が他にいますと、

告白できないままデートする場合もある。

そうなってワンナイトの関係になってしまうと、

高確率で

「付き合いたい」

という話になってしまう。

もちろん男性側もワンナイトのつもりの相手は

いるのだけれど、

付き合いたいとかになってしまうと、

ややこしくなってしまうので、

連絡先をブロックする

ダメな女でごめんなさい。

 

この時点でもまだ、

私は快彦さんへの気持ちが100パーに近かった。

カズさんへ気持ちがシフトするわけない。

私は快彦さんを愛している。

 

ただの興味本位。

 

でも

この人をもっと知りたい。

 

「スーパーで買い物していこう。

美味しいカレーを作るよ」

 

カズさんが言う。

 

”キョン、好きだよ

木曜日会えるの楽しみにしてる”

 

快彦さんからのLINE。

 

”私も好き”

 

「うん、スーパー行きましょう」

 

他の男の車に乗りながら、

どちらの男にも不誠実すぎる私だった。

この時期の私は最低だった。

 

to be continued...

 

 

 

 

 

 

カズさんと会ってランチをした土曜日の次の週末、

カズさんはまた1時間かけて

待ち合わせのコンビニエンスストアまで来てくれた。

そして私を乗せて、また1時間かけて自宅へ。

 

そう、今日はカズさんの自宅へ遊びにいく約束だった。

2回目のデートで自宅とは、

ちょっと時期尚早な気もしたけれど、

2月のこの雪の街は、ドライブデートにもあまり適さないし、

 

「俺の手作りカレーをご馳走するよ」

 

という体で、カズさんの車で迎えに来てもらって、

また自宅へ。

帰りはまた送ってもらう。

面倒じゃないのか聞いたら、

目を細めて、

 

全く面倒じゃないし、

送らせて欲しい

 

と言ってくれた。

 

私は47歳まで免許を持っていなかった。

主人と仲が破綻して、

家出を繰り返していた頃、

仕事の面でも、移動の面でも自立しなければいけないと

47歳の春、一念発起して、教習所に通い始めた。

 

仕事終わりに教習所に通うので、

夜の授業になってしまう。

そして帰宅して家事。

勉強。

なかなかハードスケジュールで、

途中、夏頃に挫けかけた。

ストレスと疲労で、

頸肩腕症候群にかかり、

しばらくペインクリニックに毎日4本の注射をしに

通い、しばらく教習所を休んだ。

 

それでも、

仮免、本免と進み、

やっと7ヶ月かけて11月に免許を取得した。

 

車は新車の軽を購入した。

ただ、コロナとロシアの戦争のおかげで、

半導体不足で車の工場が稼働せず、

新車の納車はその後、5月になることになる。

 

2月の段階では、まだ車は手元にない。

 

カズさんはお喋りだった。

主人が無口な人で、何も話さない人だから、

もともとお喋りな私は、

家でとてもつまらない思いをしていた。

 

車内で私を笑わせてくれるカズさん。

恋の始まりのような

甘酸っぱい空気を漂わせながら

大人の二人は、

さまざまな問題を孕みながら、

それを知らないふりで

笑いながら、

進む。

 

ひとしきりお喋りをして

笑った後、

 

ピコン♪

 

私のLINEの通知音が鳴った。

 

ーー快彦さん

 

恋人からだった。

 

to be continued...

 

 

 

 

 

カズさんに車で送ってもらって、

カズさんはまた車で1時間かけて自宅に戻った。

 

夜、LINEの通知音が鳴る。

 

”とても心地良い時間を過ごせたよ

まだ響子の温もりの余韻を楽しんでいます”

 

”お疲れ様でした

無事着いて良かったです”

 

”来週土曜日会える?”

 

”はい”

 

”では土曜日に”

 

”了解”

 

”待ちきれないな

いっぱい抱きしめたい”

 

次の週末の約束をして、

私たちは1週間、さまざまな話をLINEでした。

 

”オレンジを13個5人で食べれるように均等に分けてと

言われて、

切って分けると考えるのは

ロジカルシンキング。

ジュースにして分けるのは

ラテラルシンキング。

思いもつかないことが好きな人=芸術向きの人。

響子はラテラルシンキングだから、

俺が響子を尊敬するところの一つ”

 

”私なんか平凡よ。

そんな芸術的ではないよ

カズさんの方がずっと頭もいいし、

いい会社の社員だし、セックスもうまいし笑”

 

”いやいや、響子とランチの会話の時に

響子の仕草や身なり、会話から

とても賢い人と思ったよ

自立して仕事しているし、

キスはとろけるくらい上手です”

 

そしてLINEで突然のプロポーズのような言葉を。

 

”響子、歳をとってお互い一人の時は

一緒になりませんか?”

 

”えー

まだ一回しか会ってないのにプロポーズ?笑笑”

 

”惚れっぽい?失礼かな?”

 

”ううん

嬉しいけど”

 

”この先の時間をずっと

君とみていたいな

お互いの制約がなくなったら”

 

”いつかそういう時が来たら

くるかもしれないし

来ないかもしれないけど”

 

”待つより引っ張ってくる

響子

会いたい”

 

カズさんの甘い言葉と口説き文句にときめく。

プロポーズのような言葉、

きっと出会った女全員に言ってるんだろうけど

それでも

カズさんに私は惹かれ始めていた。

今までマッチングアプリで2回以上会ったのは、

お付き合いした人だけ。

それ以外の男性は

ワンナイトで、しかも、帰り道に連絡先をブロックしていた。

2度目はない。

なのに

カズさんにはもう一度会いたい。

 

恋人に対して、一度だけ他の男と会うのはただの浮気だけど

2度、3度会うのは危険だ。

火遊びが火傷に変わる。

それでも

カズさんに強烈に惹かれる。

 

違う

私は恋人を愛している。

 

でも。

 

私はカズさんのキスを思い出していた。

胸が苦しくなる

どこまでも深く

堕ちていくような

甘いキスを。

 

to be continued...