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weekend.

単身赴任の彼。主婦の私。ありふれた田舎町。ありふれた不倫。でも最後の恋と思いたい。

カズと付き合いながら、

恋人の快彦さんと会う生活が1ヶ月ほど続いた。

 

カズのことは好きだけど、

私はカズを愛してはいない。

ただ、同時に、愛しているはずの快彦さんとの

付き合いに疑問を持ち始めていた。

カズに会わなければ、持たなかった疑問だけど、

会えば優しくしてくれる彼だけど、

付き合っていても、

とても寂しい。

 

そもそも、快彦さんの前の彼と別れた時に、

 

「キョンを絶対寂しくはさせないから」

 

そう言ってくれて、付き合い始めた快彦さん。

それなのに、快彦さん自身も、

 

「寂しくさせないと言ったのに、

キョンを寂しくさせてるね

ごめん」

 

そう私に謝る頻度が高くなっていた。

 

快彦さんから鳴らないLINE。

 

それとは逆に、続け様に、カズからLINEが鳴り、

私はいつしか、快彦さんにLINEを送らなくなっていた。

 

珍しく夜、早く仕事が終わった快彦さんから、

通知音が鳴る。

 

ピコン♪

 

”ただいま

今仕事終わったよ”

 

”お疲れ様”

 

”ありがとう”

 

”え

何が?”

 

”LINEでお出迎え”

 

”毎日言ってるのに、急にどうしたの笑”

 

”感謝感謝!”

 

”なに〜

どうしちゃったの?笑”

 

”どうもしてないけど笑”

 

”何か悪さでもした?笑”

 

”失礼な笑”

 

”いつも塩対応なのに”

 

”そんなことないよ”

 

”優しくしてくれるの、嬉しいけど、

気まぐれに優しくされるのは戸惑うな

優しくするなら、このままずっと優しくして

また塩対応なったら辛いから”

 

”塩対応かな?”

 

”違うかな

もう安心しちゃってる?

もうキョンは俺のこと好きだから大丈夫でしょ、

的な”

 

”ごめん、それは少しある”

 

”だよね”

 

”少し

距離をおきましょうか...

しばらくの間

快彦さんを好きだけど、

安心されるのは本意じゃないです

それぞれの場所で

それぞれ頑張ろう

 

おやすみさない”

 

”分かった

ごめん

ごめん

ごめん...

 

またね...”

 

”そんなに謝らないで

またね

本当の気持ちに気づくまで

またね”

 

はからずも、

私は快彦さんとそんなふうに、なんでもない夜に、

なんでもないように、あっけなくフェイドアウトした。

突然自分の口から出た、お別れ。

 

しばらく時間を置こうという提案だけど、

快彦さんと戻るかは、

ちょっと分からなかった。

 

快彦さんを愛しているのに、

快彦さんと別れた。

 

カズを愛していないのに、

私はこれからもカズと会いたかった。

 

愛していないカズを選んだ私。

 

後戻りはできない。

 

to be continued...

「よかったよ」

 

事が終わって、

着替えながらカズさんは言った。

急に恥ずかしくなる。

 

「響子、俺を呼び捨てにして

カズって呼び捨てにしてほしい」

 

「でも

年上の大人の男性を呼び捨てなんて」

 

「いいから

そう響子に呼ばれたい」

 

「カズ....」

 

「うん?」

 

「...さん」

 

「こら」

 

カズ、は、

私に口付けた。

息もできないくらいのキスをするのに

こんな曖昧な関係

でも

今は

それでいいのかも

カズの言葉とキスとセックスに

このまま溺れたい。

 

明日は恋人の快彦さんとデートだった。

こんな生活、いつか破綻する。

 

揺れていた。

 

快彦さんが好きなはずなのに

いつも

触れて

いつも

強引に

私を掌で転がすカズに

とても惹かれている。

嵐のように

私を奪っていくような

カズに。

 

距離を

置いたほうがいいかもしれない、

 

誰と?

 

どちらと?

 

別れられる?

 

誰と?

 

どちらと?

 

カズはいずれ...多分もう2年くらいしたら

東京に戻ってしまう。

既婚で

家族が大事で

私はただのセフレで。

 

快彦さんは、バツイチだけど独身で

私を恋人と思ってくれている。

 

私は狡い。

誰かに、男に、自分の人生を救ってほしいと考えている。

どちらについた方が得なのか考えている。

両天秤にかけて、損得勘定をして

品定めをしている。

 

Is this Love?

 

This is Love.

 

to be continued...

 

 

 

 

 

 

 

火曜日の夜遅く、カズさんから連絡が来た。

 

”ただいま

帰ってきたよ”

 

”お帰りなさい

寂しかったよ”

 

”明日の23日の天皇誕生日、祝日だから、

響子仕事休みでしょ

家に迎えに行くから、俺の家においで

東京土産のお菓子を一緒に食べよう”

 

”うん

わかった

ありがとう

でも”

 

”ん?”

 

”すごく寂しかったの”

 

”ごめんね

明日は二人きりで過ごそう”

 

次の日の朝、カズさんは約束の時間から

1時間遅れて来た。

旅の疲れだろうし、責めたりする訳はないけれど、

その1時間が果てしない時間に思えた。

早くカズさんに会いたい。

 

カズさんの家に向かう1時間の車の中で、

カズさんは東京での話を色々と一生懸命してくれたが、

私はぼんやりと聞いていた。

こんな田舎町で、私と出会って、

私をいい気分にさせてくれるけど、

東京に行ったら、カズさんは丸の内だか日比谷だかの

都会のサラリーマンで、

東京カレンダーみたいなキラキラなデートをしているんだろう。

急に私がただの惨めな田舎娘に思えてきて、

ふと無口になる。

 

自宅に到着し、

カズさんはお土産に

銀のぶどうのチーズケーキを買って来てくれていた。

コーヒーを淹れて、二人でチーズケーキを食べた。

 

「食べたらさあおいで

響子を可愛がりたい」

 

カズさんは私を2階の寝室に促した。

寝室は火の気がないので、

空気が冷たくてとても寒かった。

ストーブをつけて、部屋が暖まる前に、

もう私たちは裸になっていた。

 

カズさんがキスをして激しく求めてくる。

私はそれに応える。

そうなると、もうさっきのネガティブ思考が消えていく。

何も考えられない。

目の前の男を愛したい。

 

確信犯。

 

カズさんは頭がいい。

 

セックスをしながら、

私たちは時々話をした。

 

「私たちはセフレ?」

 

私は聞いた。

 

「セフレでしょ」

 

カズさんが言った。

 

「そうだね」

 

胸がズキンと痛む。

そりゃ恋人じゃないよね。

そもそも私には彼氏が居るし

でも

セフレに

「お互いの制限がなくなったら一緒になろう」

なんていう?

あの時、最初に会った日にくれたLINE。

 

口だけ番長?

ただの口説き文句?

騙されてるの?

ただの悪い男?

 

 

ーーあなたを好きになってもいいの?

 

ひとつも聞けないまま、

私は何度も絶頂を繰り返した。

 

to be continued...

 

 

次の週末、カズさんは東京へ帰省した。

ぼんやりと過ごす、週末。

4日間LINEは無い。

ということは、私からも家族といるときは

連絡しちゃダメってこと。

ルールは守るけど

寂しかった。

 

土日も、快彦さんは隣県から来たことはない。

仕事のある時だけ。

ーー分かってるけど、

私の優先順位が低いことくらい。

 

しかも、ここ数ヶ月の快彦さんのLINEのやり取りは、

 

”〜?”

 

私が何か質問すると、

3時間後くらいに、

 

「うん」

 

とか

 

「笑」

 

の一言のみ。

 

その後私が何か返しても、

また2、3時間後に一言のLINEかスタンプのみ。

 

あんなに情熱的な愛の言葉の応酬も、

もう今は昔。

 

かまってちゃんの私。

構ってくれない彼。

その隙間にカズさんが。

そのカズさんも今は東京の空の下。

 

私はまだ登録したままのマッチングアプリの画面を

眺めていた。

誰にもメールを送る気にはならない。

お正月に異業種交流会で出会ったIT社長に連絡すれば、

きっと来てくれるけど、

社長に会って憂さ晴らしという気にもなれない。

 

私は家で仕事をし、主人の食事を作り、

ラジオを聴きながら、また仕事をした。

アシスタントの女の子にいくつか連絡事項をLINEで告げる。

 

無口な週末が過ぎ、

平凡な月曜の夜と火曜日の朝。

 

私は普通の主婦で、家事をして、

仕事をして、時々SNSを覗いて暇つぶしをして、

ネットニュースで芸能人の噂話を読んで、

夕方には買い物をして主人を待つ。

 

その平凡な繰り返しの、

どこに命を燃やすほどの情熱で生きられるの。

 

私は悪い女で

浮気も不倫もするけれど

平凡な貞淑な妻でこの先何もなく50年生きるくらいなら

一生に一度の命をかけた恋を

半年したら死んでもいい。

生きた証はそれだけでいい。

 

ーーなんかそんな似たような映画あったな

小栗旬の太宰治

「人間失格」の中の

沢尻エリカ

私はあんなに若くもないし、綺麗でもないけど

彼女の言葉、

 

「人間は恋と革命のために生まれてきた」

 

その言葉に深く頷いて、

私の同級生の貞淑な妻の女子たち全員に

分かってはもらえないと

ふと思った。

 

誰に後ろ指を指されても、

私は言うだろう。

 

「人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ。」

 

to be continued...

 

 

バレンタインデーから二日過ぎた

2月16日の木曜日、

私は恋人の快彦さんと焼肉ランチに来ていた。

食べログアワードで賞を獲った焼肉店。

コスパもいいい、良質な肉、量もたっぷりで、

満足度の高いお店だった。

お店もいかにも「焼肉店」という感じではなく、

小洒落たレストランといった感じだ。

 

「おいし〜」

 

「俺もこんな良い肉ひさびさ」

 

「私だって快彦さんとお店来なきゃ

誰とも焼肉なんてしないし

タンうますぎる〜」

 

「この店俺も好き

キョン、肉食ったらソフトクリーム食うだろ?」

 

「えーいいの

食べる〜」

 

「ホントデザート別腹だよな」

 

笑いあいながら

快彦さんとの食事は楽しい。

 

お会計を済ませ、

私たちは快彦さんの会社の営業車でホテルに向かう。

必ずしもセックスする訳ではないが、

ゆったり二人きりで過ごせる場所がホテルの部屋くらいなので、

ホテルでのんびり映画を見たりして過ごす。

 

今日はバレンタインのプレゼントを快彦さんに

用意していた。

 

ホテルの部屋に入ると、

すぐに快彦さんはタバコを吸った。

快彦さんはキャスターを吸っている。

 

「快彦さん」

 

快彦さんも背が高くて、186センチと言っていた。

彼に抱っこをせがむ。

 

「キスして」

 

快彦さんは私にチュッとフレンチキスをした。

それだけ。

快彦さんと深いキスをしたいのに、

こんな小鳥のようなキスしかしてくれない。

 

「快彦さん

バレンタインおめでとう」

 

私は持ってきた紙袋を渡した。

 

「おー、バレンタインチョコ?

ありがとう」

 

私はゴディバのチョコレートとプレゼントを渡した。

 

「プレゼントも?」

 

「うん。

開けてみて」

 

ガサガサと包みを開ける。

 

「えーっ!

これ?!

アルマーニの時計?!

ちょっとこれは流石に無理しすぎでしょ!」

 

「ちょっと頑張って腕時計。

今年だけ

春から大きな街に引っ越しちゃうんでしょう

この時計見たらキョンを思い出す呪いがかかってる」

 

「ありがとう

大切にするよ」

 

快彦さんは春から他県に引っ越してしまう。

ますます私の街に来られない。

来る努力をするよ、

そう快彦さんは言ってくれるけど、

私の欲しいのはそんな言葉じゃなく、

「俺と一緒においでよ」

そう言って欲しいのに。

 

快彦さんはハグをしてくれたけど、

この日も抱いてはくれなかった。

 

一緒に広いベッドで並んで寝ながら

テレビを見て、

そのまま眠って、

時間になると起きて帰る。

 

「抱いて欲しい」

 

その一言が言えない。

快彦さんは会社のゴタゴタで疲れていて、

そのゴタゴタの中、時間を割いて私に会いにきてくれる。

それだけで良しとしなきゃ。

 

快彦さんの寝顔を見ながら、

私はベッドの中でぼんやりとカズさんのことを考えていた。

快彦さんの寝顔が愛しい。

快彦さんと別れたくはない。

なのに。

どうしてカズさんが付けた

キスマークの甘い痛みを思い出して

切なくなるんだろう。

 

to be continued...