2005/01/24, , 日経パソコン, 165~168ページ, 有, 4837文字 4ページ


 前回は、検索エンジンの全体像を見ていきながら、良い検索エンジンについて考察した。今回から、それぞれの処理コンポーネントを「検索処理」「クロール処理」「インデックス処理」に分解して、その仕組みを解説していく。今回は、皆さんが検索窓に言葉を入れてから、答えが返ってくるまでの一連の流れ「検索処理」を取り上げる。
「検索処理」の流れを知る
 GoogleやYahoo!などの検索エンジンは、膨大な文書情報をあらかじめ整理して、索引情報(インデックス)としてデータベースに蓄積している。索引情報だけでなく、文書そのもののコピーも、ドキュメントサーバーという場所に前もって格納している。
 利用者が検索窓に言葉を入力すると、検索エンジンは、まずそこからキーワードを判別して、取り出す処理をする。キーワードが確定すると、そのキーワードを基にインデックスと呼ばれる索引テーブルを探し始める。このデータベースは、キーワードから文書を逆引きするテーブル(inverted index)などから構成されている。これらのテーブルをたどりながら、検索するキーワードを含んだ文書を見つけ出す。
 文書の並び順は、大まかに言えば、ページ単位の重要度を示す点数と、キーワード単位の重要度を示す点数を合算して決定される。ページ単位の重要度は、主にリンク情報を基に点数付けされている。一方、キーワード単位の重要度は、キーワードの登場頻度、文書内での位置、フォント情報、リンクキーワードなどから決められている。
 文書の並び順が決まると、今度は、ドキュメントサーバーから、画面に表示する「見出し」や「説明文」の情報を取り出す作業を行う。このとき検索画面に表示される説明文は、キーワードを含んだ文章が自動的に取り出される仕組み(KWIC = key-words-in-context)になっている。
 これらの情報を、画面に組み立てて、ユーザーに検索結果として返す。これが一連の検索の流れだ。
 インデックスサーバーは、図書館の図書カードのようなもので、ドキュメントサーバーは「書籍」そのものに当たる。検索エンジンはまさにインターネットの文書をため込んだ図書館と言える。
 この流れを見ると、検索エンジンが検索しているのは、あらかじめため込んでおいた情報であって「今この瞬間のインターネット」ではないということが理解できるだろう。「検索エンジンにひっかからない」というのは、図書館に本が登録されていない状態を意味しているのだ。
ツールからサービスへ
 検索エンジンの仕組みを図書館に例えたが、このような比喩で説明するのは、もう時代遅れかもしれない。
 20世紀の大学生は図書館で調べ物をするのが当たり前だったが、21世紀にはそんな学生を見つけるのが難しそうだ。
 文書検索は、限られた知識人だけのものではなくなり、全員が使える道具になってしまった。いわば「国民皆リサーチャー時代」になったわけで、そんな時代の検索エンジンはもはや情報の図書館で調べ物をする「ツール」の域を超えて、新しいビジネスを生む「サービス」あるいは「メディア」になっている。
 そういった視点で、検索エンジンの画面を改めて眺めてみると、検索結果以外に、実に多くの関連サービスが表示されていることに気が付く。
 キーワードに関連した広告を表示するのは今や当たり前。ほかにもGoogleでは、検索語句に関連した最新ニュースも表示してくれる。これは、昨年から始まったGoogleニュースと連動したサービスだ。
 最近、Googleには翻訳サービスが加わった。英語文書の横に添えられた「このページを訳す」というリンクをクリックすれば、日本語に翻訳した文書を見ることができる。
 英語版のGoogleのサービスでは、関連する商品検索(Froogle)の情報も表示されるようになっている。
検索の周りには、ビジネスの種が、たくさん散りばめられている。
 検索エンジンが図書館とするならば、図書カードをめくっていると司書から「お買い得の商品」を薦められたり、「最新のニュースをご覧ください」と促され、挙句の果てに「ひょっとしてつづりが間違っていますよ」と耳元で囁かれるような状態だ。静かに調べ物をすべき図書館にしては、やけに騒がしい。
並列処理と分散処理
 一つの言葉の検索処理だけを見ても、たくさんの仕事量があり、下手なプログラムでこれを実行すれば、相当時間がかかってしまうだろう。Googleの場合は、これらの検索要求を、世界中で一日に数億回のレベルでこなしている。だからといって、Googleがスーパーコンピューターを購入しているわけでは決してない。
 Googleが使っているコンピューターは、普段私たちが使っているマシンとそれほど変わらない。安価で汎用的なPCサーバーをたくさんつなぎ合わせて、並列処理を行い、処理速度を速めている。
 前ページの「Googleの検索の流れ」の図も、一つ一つ順番に処理されるわけではなく、言葉を入れた瞬間に、それぞれの仕事に振り分けられて並列処理される。広告専門のサーバーや、スペルチェック専門のサーバーがあり、それぞれに処理した結果をつなぎ合わせて、最後に画面を構成する。
 もし、Googleが高価なスーパーコンピューターを使って検索サービスを構築していれば、コストが高くなりすぎて事業としては成り立たなくなっていただろう。ビジネスの種を散りばめる表側の工夫の裏側では、コスト抑制を実現するコンピューターの進歩がある。
 システムやインフラは、検索エンジンにとって見逃せない重要な要素だ。連載の後半でまとめて取り上げる予定だ。
日本語処理の難しさ
 そもそも検索される言葉は、それほど単純なものではない。「検索語」というと一語のように思えるが、実際に検索窓に入力される言葉は、一つの単語ではない場合も多い。
 入力する言葉といっても、「ラーメン」と入れる人もいれば「おいしいラーメンの店」と入れる人もいる。その場合、検索の言葉は「おいしい」「ラーメン」「店」と複数のキーワードに分けられることになる。
 例えば英語の場合は、単語はすべてスペースで分かれるため、コンピューターはキーワードを判別しやすく都合が良い。時制などの変化形が多く、一つの単語がたくさんの意味を持つという英語なりの難しさはあるものの、単語を取りだす処理は日本語より英語の方が格段に易しい。
 一方、日本語は単語の区別がはっきりしない。例えば、「株価最安値 最高値」と検索する場合、この中には複数の言葉が交じっている。人間が書いた言葉を分解して、最小の意味の単位(形態素)に振り分ける処理を、形態素解析といい、日本語の場合には、これが難問だ。
 Googleのキャッシュ画面を見ると、Googleが日本語をどう解析しているかが分かる。この場合、「株価」+「最」+「安値」+「最高」+「値」と区切っていた。Googleは、5個の単語を区切って別々に処理し、その結果を組み合わせて一つの結果にまとめて出している。
 Googleが登場したとき、日本で全文検索に取り組んできた企業や研究者は一様にショックを受けた。従来、海外企業には難しいと考えられていた、日本語処理が十分な品質で実装されていたからだ。
日本語処理する英企業
 しかし、この言語処理部分は、実はGoogleが開発した独自技術ではない。ベイシス・テクノロジー(Basis Technology)という英ケンブリッジに本社を置く企業が言語解析技術を提供し、Googleの裏側で動いているのだ。
 日本の京セラも出資しているこの企業は1995年に設立され、世界的に言語処理のソリューションを提供している。Googleだけでなく、米軍もこの会社のサービスを利用しているほか、その顧客リストには、米ヤフー、米アマゾンドットコム、米AOLなど名だたる企業が並んでいる。
 新しい検索サービスを試験運用中の米マイクロソフトのMSNも、その言語処理部分に、ベイシスの技術を使っていると発表した。世界的規模の検索エンジンが実現されている背景には、こういった隠れたグローバル企業の存在がある。
 ベイシスの形態素解析処理は、確かに優れているが、それでも、人間の感覚とは一致しないことも多くある。
 先ほどの例で、「最安値」と「最高値」は、単語の区切り方が違っていることに気づいた人も多いだろう。人間が見れば、株価との組み合わせで、「最高値」と「最安値」は、それぞれ独立した株式用語に見える。しかし、株価と切り離して「最高値」だけを取り出せば、「最高の値」と解釈されるときもある。
 Googleで行われている形態素解析は、前後の言葉との関連までは判断できないようだ。
 今後は、日本語処理の精度を上げるため、前後の言葉との関連性から「意味」を判別する言葉の処理が必要になる。
gooが提供する独自機能
 NTTレゾナンドが提供する検索サービスgooは、独自の検索技術をあきらめて、Googleを使っている。しかし、そこに独自の日本語処理を付加して提供している。
 例えば、Googleでは「ラーメン」と「拉麺」は別々の検索として処理されてしまう。でも「拉麺」と入力するのは日本語変換の手間がかかるし、この検索方法を思いつかないかもしれない。
 gooの場合は、こういった状況を助けてくれる。gooの画面で「ラーメン」と入力すると、Googleで検索処理する前に、2つの単語「ラーメン」「拉麺」をgooが抽出して、処理をしてくれる。
 gooには、これ以外にもGoogleと組み合わせた興味深いサービスが提供されている。キッズgooという子供向けサービスでは、日本語にふりがなを振る、という高度な日本語処理が実現されている。
 子供のインターネット利用が増え、インターネットで提供される情報の安全性が問題になっているが、gooはこのエリアでも、独自のフィルタリングの仕組みを実現している。
 キッズgooでは、サイトに書かれている言葉やURLを判断し、安全なサイトだけを抽出し、危険なサイトを取り除くサービスが提供されていて、この部分でも、日本の独自処理技術が実現されている。
 確かに、Googleの登場で、検索エンジンは、以前より格段に優れたサービスになった。しかし、日本語処理については、まだまだ取り組むべき課題がたくさんある。
 Googleを運営する米グーグルは、昨年、日本に研究開発の拠点を設けて、優秀な日本人技術者を集めるという発表をした。「日本での開発拠点の最重要課題は、まず日本語の検索の質を高めることだ」と、グーグル自身も述べている。検索技術は、まだまだ向上する余地がありそうだ。
検索処理の基本的な仕組み
Googleの検索結果で表示されている情報
キッズgooが行う独自の検索処理技術
Googleの検索の流れ
入力されたキーワードを解析
言語の判断 辞書に照らして解析
+-*/など演算子があれば
数式として演算処理
言葉なら検索処理を実行
スペルチェックなどヒントを表示
入力したキーワードごとに
広告を呼び出し
辞書サービスやニュースの呼び出し
ファイルを見つける
ヒットした文書を並べ替え、
結果の表示順を決める
ヒット件数や応答時間など
統計情報を集計
画面を構成して結果を表示
検索エンジンがキーワードを処理する仕組み
Googleの形態素解析処理
(例1)
株価最安値 最高値
単語を
分解処理
株価
最
安値
最高
値
(例2)
プリンタ
表記のゆれを処理
プリンタ
プリンター
gooはさらにキーワードの前処理を実施
ラーメン
ラーメン
拉麺
大内 範行(おおうちのりゆき)
日本IBMからマイクロソフトを経てECジャパン設立。最高執行責任者。検索マーケティング業界をリードする。著書(共著)に、Googleの使い方を解説した「グーグる」

 米アドビシステムズの事業展開が注目を集めている。今年に入り文書作成・管理ソフト「アクロバット」の新版と05年に買収した旧マクロメディアのマルチメディア技術「フラッシュ」の後継版の提供を相次ぎ開始。今後はインターネット時代の新たなビジネスモデルへの対応も強化する。ブルース・チゼン最高経営責任者(CEO)に戦略を聞いた。
 ―新製品のリリースに意欲的ですね。
 「今年出した二つのソフトは基幹をなす製品。特に『アクロバット8』は、これまでの最高の出来だ。経営統合後、短期間に成果が出せたことに誇りを持っている」
 ―アクロバットとフラッシュの無償プレーヤーソフトを統合する予定はありますか。
 「今週、米ラスベガスで開く会議で新しいソフトを披露する。『アポロ』というプロジェクトで開発したもので、フラッシュのSWFファイルもアクロバットのPDFファイルも、(従来のウェブサイト記述言語である)HTMLのファイルを表示できる」
 ―それはブラウザー(インターネット閲覧ソフト)の一種ですか。
 「ブラウザーではない。アポロ単独でも使えるが、従来通りほかのブラウザーに機能追加しても使える。文書をダウンロードしてオフラインで作業するのも可能だ。人々のコミュニケーションを豊かにするという戦略を推し進めるソフトになり、年末から来年初頭にかけて無償配布を始めたい」
 ―経営面における統合の成果は。
 「財務面でも成果は出ている。旧マクロメディアの営業利益率は旧アドビにくらべ低かった。しかし今は合併前の利益水準まで向上してきた。アドビの業務プロセスを旧マクロメディアに持ち込んで改善したためだ」
 ―マイクロソフトは次期基本ソフト「ビスタ」にPDFと競合する「XPS」という印刷フォーマット機能を盛り込みますが、どう対応しますか。
 「マイクロソフトは、長年にわたって我々の事業分野に入り込もうとしてきた。しかしXPSはうまくいかないだろう。PDFはXPSと違って(多くの会社が支持する)オープンな規格。対抗は難しいはずだ」
 ―インターネットを通じてソフトの機能を提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の流れについては。
 「SaaSは伸び続けるだろう。我々も近い将来、欧米で新しいサービスを始める。無償配布のリーダーソフトにテレビ会議ソフトの機能を付ける。画面上のボタンを押せば、音声や映像をやりとりすることが可能になる。リーダーソフトはパソコンだけでなく携帯端末からゲーム機まで搭載されている。重要なのは氾濫するデジタル情報をいかに魅力的な形で配信可能にするかだ」
 【略歴】米ニューヨーク市立大卒、80年米マテルエレクトロニクス入社、83年米マイクロソフト入社、87年米クラリス入社、94年アドビシステムズに副社長として入社、00年CEO就任。
 【記者の目/ビジネスに創造性持ち込めるか】
 マクロメディアの買収により、アドビはユニークな会社になった。クリエーターにファンが多いのが旧マクロメディアの強みで、フラッシュで作られたゲームやアニメは日本でもネット上にあふれかえっている。こうしたクリエーターコミュニティーの自由な世界と、文書管理ソフトに代表される厳格な企業向けのビジネスをどう並立させていくのかが見どころだ。
 (清水信彦)
文書画像ソフト戦略
携帯機器向けなど強化
年10%成長は十分可能
 日本経済新聞社などが主催する第八回日経フォーラム「世界経営者会議」に参加した米アドビシステムズのブルース・チゼン最高経営責任者(CEO)に成長戦略を聞いた。
(聞き手は星野友彦)
=関連記事23面に
 ――CEO就任後五年で売上高が倍増した。
 「(電子文書ファイル形式の)PDFを閲覧するソフト『アクロバットリーダー』の無償配布が奏功した。過去二年間で五億本以上を配布し、一般消費者から企業・政府まで広く利用者を獲得した。この広範な利用者に情報提供しようと、企業・政府が有償のPDF作成ソフトを購入してくれる。これが当社の成長を支えてきた」
 「昨年末に買収した、米マクロメディアの動画再生ソフト『フラッシュプレーヤー』も同様に無償で配布している。パソコンだけでなく家電や携帯電話など七億台以上の機器に搭載されている」
 ――マイクロソフトは次期基本ソフト(OS)「ウィンドウズ・ビスタ」と業務用ソフトの最新版「オフィス2007」で、画像編集機能やPDF文書の操作機能を強化する。
 「マイクロソフトは一九九〇年代からアドビ対抗の製品を何度も投入してきたが、いずれも失敗した。ただマイクロソフトは当社の十倍以上の規模を持つ。何回失敗しても再挑戦するだけの資金力がある」
 ――文書画像関連ソフトだけでは成長に限界があるのでは。
 「どれだけデジタル化が進もうと、文書は情報提供やコミュニケーションの中核であり続ける。ただし、その内容は変化する。画像や音声など、様々な情報を包み込むコンテナのような役割を未来のPDFとフラッシュは果たすだろう」
 「今後はアクロバットリーダーとフラッシュプレーヤーの広範な利用者層を生かして、企業向けや携帯機器向けの製品を相次いで投入する」
 「当社の収益モデルは若干変更するかもしれないが、顧客の課題解決に注力する顧客中心主義を逸脱しなければ、年率一〇%以上の成長を安定的に続けることは十分に可能だと確信している」