「35歳男性約1か月前より右側下顎第一大臼歯相当部の舌側縁部に疼痛を自覚。近歯科医でステロイド軟膏を処方されるも軽快せず、A医科大学病院にて精査。病変部の粘膜の色調変化は認められず、擦過細胞診を行うもクラスⅡ=陰性であった。数日前より同部に激しい疼痛を自覚。患者の強い希望により原因歯相当部の歯牙を切削し、舌の粘膜病変に悪性を示す所見に乏しい事より経過観察とした」
随分以前に経験した症例です。(一部変えて書いています)このとき、私は「舌癌の不安になるあまり症状が出ている。心因性だ」と申し上げました。癌や舌炎を示す所見が何もなかったからです。そして患者が安心すると思い「心の問題」という事を強調したのです
このようなケース、いくつかの症例を経験しました。特徴として比較的若くて繊細な性格のヒトが多い気がしました。このような場合、説明しても納得されない事もあります。その場合、抗不安薬を投与します。特発性(原因不明)の舌粘膜の疼痛に効果があるからです。
私は「心の問題」と申し上げる事、すなわち癌や重篤な疾病が隠れていないと強調したかった。だから中には喜んで帰る患者も居ました。上記症例でもしかり。不安な表情が消え、笑顔での帰宅となったのです
ところが、噛めない噛むと顎が居たい。噛めないから食べられないといった咬合関係の異常がある場合「こころの問題」と申し上げる事はできません。これで相手を失望さすからです。「私は狂っていない」「どこに行っても解決する事は無理なのか」という思いになるのかもしれませんから。
私のどこかに、癌恐怖症の患者へのイメージがあり、器質的疾患がなければ「心の問題」で片づける事が患者に有益だと誤解している場面がありました。今回の件、患者さんではないのですが相談を受け(直接心の問題とは言ってない)初めは、どこかに気持ちの問題も入っての症状かな?と誤解していたのです
しかし色々伺うなかで本当に申し訳なく思いました。はじめ、噛めない事に苦痛を私はまったく理解していなかったのです。同じ歯科領域でも舌癌不安の舌痛症と咬合崩壊では対応が全然違うわけです。私自身、もっと知識があれば咬合再建の具体的な対処法がわかったはずです。無知は罪悪だなあ・・と感じています。(ここ数日、昔に使用した医学書をとりだして、咬合の再建について勉強しています)