ミニミニ大作戦
2003年公開 監督/F・ゲイリー・グレイ
出演/マーク・ウォルバーグ、シャーリーズ・セロン
今回書き上げている、もちろんクルマを様々な形でモチーフにした映画を掻き集めているものである。それぞれの映画にそれぞれのクルマの意味合いが異なるところに話題の焦点があるだろうことを感じ取る。しかしこの映画ほどクルマそのものの人気を前面に押し出し、便乗し、そのクルマファンを世界規模で喜ばせた作品もそうはない。
もちろん他の車種もあるにはある。ボンド・カーにBMWやアストン・マーチン、シリーズ『MIB』(97~)ではメルセデス=ベンツ、他の映画でロールスロイス(『ザ・カー』もあれば『黄色いロールス・ロイス』(65)や『ロールスロイスに銀の銃』(71)のような誠にハイソな映画もある)、キャデラックなど高級車からスポーツカーに至るまでそれぞれのクルマはそれぞれの形で魅力を映画の中で増幅してもらったといった感がある。もっと庶民的なところでいけばフォルクス=ワーゲン(ビートル)も人気が高かったし、そしてこのミニであった。このファンによる支持力は世界的に実に根強いようで、しかし『ラブ・バッグ』のハービーは寧ろ生きたクルマであり、ビートルの外観を借りた個性豊かなキャラクターだからここでのミニともまた異なった存在感が強調されている。ビートルはハービーとして人気がある一方でミニはミニとしての別な形の人気があり、それは映画の枠に収めるものではない。その車が映画で初めて紹介されて人気が出たのではなく、寧ろ人気車だから映画になったような印象すら覚える点で他とは大きく異にする。
ひとりの若い男が地図を広げている。書き込む。線を引っ張る。計算する。チャーリー・クローカー(マーク・ウォルバーグ)は今、金庫強奪計画を練っており、その計画は実に完璧なもので一瞬の遅れも一寸のズレも許されないほどハイレヴェルなものだ。場所は水の都ヴェニス。ボートを使っての金庫奪回泥棒である。メンバーは潜入の第一人者スティーブ・フレゼリ(エドワード・ノートン)、コンピューター技師ハッカーのライル(セス・グリーン)、爆薬プロフェッショナルのレフト・イヤー(モス・デフ)、敏腕ドライバーのハンサム・ロブ(ジェイソン・ステイサム)、そしてチャーリーの父親代わりで往年の大泥棒ジョン・ブリジャー(ドナルド・サザーランド)も参加していた。
潜入、破壊工作、デトネーター操作、ボートで運河を逃走しては見事に追っ手を撒いた。そしてアルプスと思しき雪の山腹でメンバーは夢を語らい合う。彼らは金庫の中にあった金塊50億円を見事手中に収め、乾杯していたのだ。そして車で雪に覆われた橋を渡ろうとすると、2台の車に板挟みにされてしまう。そこでジョンは凶弾で命を絶たれ、一同を乗せた車は橋上から川底へ転落、金塊は全て持ち去られてしまう。そこに裏切り者がいたのだ。
1年後。ジョンの形見となった一人娘ステラ・ブリジャー(シャーリズ・セロン)のところにチャーリーが顔を見せに来た。金塊を強奪し、父親の命を奪った男の情報が入ったのを知らせに来たのだった。ステラは父の育てによって一人前の錠前屋になっており、その腕前も折り紙つきである。当初は忘れたかった彼女だが、次第に復讐心が煮えたぎるようになり、参加するとチャーリーに知らせた。裏切り者からの金塊奪回計画が今、始まる。
というのが2003年にリメイクされた映画の粗筋だ。リメイクということは当然オリジナルが存在するわけで、ミニのファンの間でこの映画を知らない人はまずいないだろう。1969年に製作、日本には翌年の1月に封切られた、これももちろん泥棒映画だ。ざっと一望してみたところ、特に1960年代の当時は泥棒映画が大流行していたようであり、しかもヨーロッパに多い。ピンクパンサーで世界に名を馳せたピーター・セラーズとヘンリー・マンシーニの名スコアが忘れられない『ピンクの豹』(米伊合作、64~)、そのセラーズの『新・泥棒株式会社』もイギリスで製作、これも日本で同年に封切られている。日本における1964年はセラーズにとって当たり年だったのかもしれない。そして1966年にはシリーズ『黄金の七人』(伊、66~)も登場。それ以前に1963年に初めてジェームズ・ボンドが登場、この『007は殺しの番号』で初めて現れたショーン・コネリーがあまりにもカッコ良すぎたためにファンは急増、スパイという謎めいた職業と共にあまりにも非現実性に満ちた世界が、映画の本来の役割である現実逃避を否応なしに実現させ、この常に犯罪スレスレ、秘密裡に行われるスパイ行為から湧き出るスリルとカッコ良さに縛られた世界規模の共有感覚が瞬く間に広がるという現象もあったことだろう。かように1960年代は、人に隠れてコソコソするというスリル感覚のある映画が多いように見受けられ、そうしてこの『ミニミニ大作戦』で千秋楽を飾ったようにも見える。いやいや。
そのオリジナルも観ているとなかなか面白く出来ている。映画としての時代性ゆえ映画全編どこかしらダレてくるのも無理ないが、最後の20分のミニ3台が金塊を載せて逃走するアクションの連続は凄いばかりではなく、観ていて自分も運転したくなるほど見せ方がとても巧いのである。運転したくなるのも、要因のひとつとして外観のチャームポイントが機能しているのだろう。しかも小回りが利いて荷物も多く乗るし、4人は乗れる。これだけ利便性に長けていて外観も良く、そして馬力もある。とにかくモテモテのクルマだ。しかも3台がそれぞれ赤、青、白の三色でユニオンジャックの色に一致させるところはニクイ演出だ。ただでさえハービーの車体やストライプもそれだというのに、こちらでも似たようなことをしているがそんなこと観客は誰も全く気にも留めちゃいない。なぜその町にあるのかオーバルコースで3台が綺麗に並び、それは筆者もかつてみたことのある日本車CMのドライビング・テクニックを思い出させた。トヨタのチェイサーだったかどうかまるで確信がない(実際ある程度までは調べてみたが結局分からずじまいだった)が、ここまで魅せてくれるとは思いもせずにただただクルマの運転の面白さを堪能させてくれる。撮影監督ダグラス・スローカムの手腕によってボディカラー三色も実に煌びやかに見え、マイケル・ケインが着こなすスーツの色調も同様に美しく映える。
双方ともご覧になった方々にはご存知の通り、リメイクでは大幅に設定も変更された。しかし時も現代にまで至ればさすがに技術も進化、アクションもそれなりに派手になり、そして実に洒落た金塊奪回計画を実行している。その点ではオリジナルに匹敵する面白さがあるが、片やオリジナルではかようにミニの魅力をふんだんに振り撒いた点ではリメイクも現代におけるニーズを他方面ですでに満たしたせいか、これ以上撮る必要もないのかミニのアクション・シーンがオリジナルに比べて少ない印象で魅力も半減と言えば言い過ぎだろうか。実は製作予算は殆どスターに取られているのでは。
一度は生産も終了し再びスタートを切ったミニだが、これに合わせて映画製作もスタートを切ったのだとしたらこれもまたミニ・ファンの支持層の多さが裏付けられよう。しかし続編スタートの可否を問う報道がいまだに全米では燻っているようであり、それより前にリメイクの意味とは何かを考えながら続編製作(今作もただのリスペクトだけで、或いは生産が再開されて人気が戻ったクルマという理由だけでリメイク製作がスタートしたとはとても思えない)に取り掛かることが望ましい。前作から何年も経過しながら製作され、興行面では失敗に終わるというケースとそうまでならないケースとで随分異なるものだし、リメイクに至っては尚更だ。一時ではSABU監督による『蟹工船』(09)が封切られて話題を呼んだが、最低の就職率や雇用問題が長期にわたって浮き沈みする現代にあってのリメイクなのだそうで、未見の筆者にも一応気になる一本である。かようにして一本の映画にはそれぞれの理由があって製作されるべきであり、然し何となく(ほんのちょっと稼ごうと思って)作った映画が案外ヒットしてしまう前例もある。かと言って、それじゃあ何を作ってもいいという訳にもいかない。所詮は結果オーライに至ってしまうところだが、なんだかんだ言ってそれぞれの持ち味はそれぞれにおいて臨機応変に個別に堪能し、それぞれの楽しみ方をフレキシブルに学んでみることで映画の見方にバリエーションが広がることは考えたことはないだろうか。
ミニミニ大作戦
1970年公開 監督/ピーター・コリンソン
出演/マイケル・ケイン、ノエル・カワード