ウィロー
1988年日本公開 監督:ロン・ハワード
出演:ヴァル・キルマー、ワーウィック・デイビス
小人俳優はもちろんまだまだいる。『スター・ウォーズ』(78)R2‐D2役で知られるケニー・ベイカーの他に、ジョージ・ルーカスとは縁の深い役者のひとりをここで取り上げてみると、ワーウィック・デイビス。これまでで常連としてシリーズ出演しているといえばやはり『ハリー・ポッター』(01~11)シリーズであり、彼が演ずるはホグワーツ魔法学校のフリットウィック先生だ。もっとも特殊メイクを施してあるのでお顔は拝見できないが、それは定説的にファンタジー映画では小人俳優ゆえの犠牲にならざるを得ず、当然自分の顔を世間にも認知されないことも多い。そうかと言ってテリー・ギリアム監督の『バンデッドQ』(83)や、ゴア・ヴァービンスキー監督の『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03~)など海賊映画では顔を覆うほどの特殊メイクの必要もまるでないまま出演できるケースもある。
デイビスの場合、実際にこれまで『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(83)や『銀河ヒッチハイク・ガイド』(05)などでも着ぐるみでイウォーク族のウィケットやロボットのマーヴィンを、顔を隠したままその役になりきって演じてきた。しかしながらこうしてキャラクターを完成させることで一本のファンタジー映画も完成されるわけだから、そこには決して無駄な仕事はなかったことになる。
一方で彼のお顔をそのまま拝見できる数少ない一本が本作『ウィロー』だろう。それどころか彼のみならず他の顔を剥きだしにした小人俳優が、多くても子供も含めて300人はいると思われる、とにもかくにも膨大な小人俳優出演人数を誇る映画も『オズの魔法使い』(1939年製作、1955年日本初公開)や『ジェダイの復讐』と並んでこれまた稀有だ。
また本作はCG技術革新で驚きを初めて見せた映画としても高く評価され、米アカデミー賞では音響効果賞と視覚効果賞でノミネートを受けている。クライマックスで魔法によって野ネズミという姿に変えさせられた魔女フィン・ラゼル(パトリシア・ヘイズ)がウィローの魔法の杖によって元の姿に戻されようとする時、彼女はダチョウ、カメ、トラなど様々な姿に中途半端なままに変貌していく過程を経、ようやく人間の姿に辿り着く。この被写の対象となる人物像はもちろん画像上の粒子が億単位で構成されており、そのひとつひとつの粒子の位置をずらしていって別の偶像へと変えさせていく作業が行われていった。これがいわゆるモーフィング技法であり、これを『スター・ウォーズ』シリーズでも関わっていたデニス・ミューレンやフィル・ティペットたちが開発していったものであった。同時に『スター・ウォーズ』同様にレイ・ハリーハウゼンの影響が見られることでも知られ、本作でもクライマックスに登場する双頭竜(The Eborsisk)がそれである。この名前は映画評論家で知られるロジャー・エバート(Roger Ebert)とジーン・シスケル(Gene Siskel)との二人の名前から取っている。また敵方ノックマール軍の巨大な男、将軍ケイル(Kael)の名前も同じく映画評論家のポーリーン・ケイル(Pauline Kael)からきている。誰が名付けたか知らないがこうして見ていくと、いかに映画評論家が映画人たちに嫌われているかがよくわかるのだ。それというのもこの作品ではいずれも倒されるべき悪役キャラクターなのである。何しろ映画評論家は映画人に嫌われてなんぼと言う人もあるぐらいなのだ。
ダイキニと呼ばれる巨人族のそれぞれの人種が戦争で争いを続けているさなか、ノックマール軍の首謀に位置する魔女バブモルダ(ジェーン・マーシュ)にひとつの予言が舞い降りる。同じ巨人族の婦女から子供が産まれ、その子は将来バブモルダを倒すというものであり、バブモルダはその赤ん坊を見つけ出して命を奪おうとするが、もうひとりの婦女が子供を預かり、城の檻からの脱出を試みた。城外へと這い出ては山中の長い距離を歩いていく。しかし子供を追いかけてくる野獣に追い詰められ、彼女は子供を藁でできた小船に乗せて流し、自身は野獣の餌の身代わりになった。
子供は長い時間をかけて小人族ネルウィンが住まう村の川辺へと流れ着き、その子を農夫のウィロー(ワーウィック・デイビス)が拾う。巨人族にもかかわらず子供を預かり育てようとした一家。そして村の祭り。しかしそこに突然複数頭の野獣が村を襲い始める。野獣が襲ってきた理由はその子供にあると決めつけられ、何人かの村人を伴ってその子供をダイキニ族のもとへ返す旅に出ることになった。
途中、吊り篭に入れられたダイキニの剣士マッドマーティガン(ヴァル・キルマー)と合流、同じダイキニ族の村へ預けるようにウィローは彼に託す。ところが心配で戻ったウィローたちは、足の裏ほどの全長しか持たない更なる小人族ブラウニースたちがマッドマーティガンから子供を奪ったことを知り、更には自分たちも落とし穴にはまる。辛うじて子供と再会できたウィローたちだが、そこでブラウニースの女王シャーリンドリア(マリア・ホルヴォア)から全てを聞き、運命を悟り、彼らは再び長旅に出ることになる。その先には全てを決する戦いが彼らを待っていた…。
原案と製作総指揮を務めたジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ』シリーズ製作に着手するより先に、既にこのストーリーを温め始めていた。この物語の原案の根源はJ・R・R・トールキンによる「ホビットの冒険(The Hobitt , or There and Back Again)」にあったのだ。この主人公はビルボ・バギンズであり、フロド・バギンズの養父にあたる。即ち本章『指輪物語』の前日譚にもあたり、なおピーター・ジャクソン監督による『ロード・オブ・ザ・リング』(02~)でのビルボをイアン・ホルムが演じていたことは言うに及ぶも、ルーカスはこの前日譚を是非共映画化したかったのだが、結局は映画化権を得られずに終わり、そこでこれをモチーフとしたオリジナルストーリーを作成したのである。実はこの『ウィロー』物語には続きがあるのだが、本作自体があまりヒットには恵まれなかったらしく、残りのストーリーは結局出版に留める結果となったという。
ワーウィック・デイビスは『バンデッドQ』ではノンクレジットでエキストラ出演し、『ジェダイの復讐』で声がかかり、以来『イウォーク・アドベンチャー』(85)、『ラビリンス/魔王の迷宮』(86)、『エンドア/魔空の妖精』(87)と立て続けにルーカスのプロデュース作品に出演することになり、そうしてこの『ウィロー』に辿り着いた。共演はこの作品では殆ど即興で演じたというヴァル・キルマー、この映画でヴァルとの出会いを果たしたジョアンヌ・ワーリーは魔女バブモルダの娘兵士ソーシャを務める。この二人の運命の出会いのエピソードはあまりにも有名だ。
こうして一望していくと、80年代のルーカス作品には小人俳優に活躍の場を与えた映画が軒並み揃っているのがわかる。監督のロン・ハワードもこのことを深く理解しており、この映画の製作をおおいに歓迎していた。簡単に考えてみるとスティーブン・スピルバーグと同世代にあたるルーカスもまた、『オズの魔法使い』同様の世界を模することのできるウォルト・ディズニーに影響された節がある(1956年にディズニーランドに連れて行かれたことが幼少時での最も大きな出来事とされている)と思われ、そのひとつに七人の小人たちが登場する『白雪姫』(1937年製作、1950年日本初公開)があると決め付けてみても何ら支障はない気もする。それどころか、魔女バブモルダの黒装束をまとった容姿は『白雪姫』の魔女そのものの生き写しと言っても過言ではないだろう。それだけにウォルト・ディズニーの美しきアニメーションの力はあまりにも多くの映画人の目を覚まさせたのだった。
ジョージ・ルーカスは『アメリカン・グラフィティ』(74)であんまり疲れたものだから、これで監督を最後にするつもりだったが、やることが出てきたので『スター・ウォーズ』(78)を作った。原案作成開始までの間に彼は既に数多くの童話やお伽話を読破、「指輪物語」、「ナルニア国物語」をはじめとする様々な童話の数々、お伽話を知らずに育った世代を憂慮し、子供に対する童話の必要性を映画に込めていった。大人にそのメッセージを伝えることを常に念頭に置いていたのだ。
その童話の多くのキャラクターにまず小人がおり、映画におけるファンタジーのキャラクターに必要なひとつに小人がいる。深く追求する必要はともかく、童話にこだわるならば必然的に小人の登場も多くなる。ルーカスはケチで有名だが、童話の必要性は常に忘れない、そういう人物なのである。