わらじを編む | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

 3歳の娘、保育園ではトイレが完璧なのに、家に帰るとまったくだめで、何度「トイレは?」と聞いても「出ない!」と、いいつつ、いつのまにかおしっこもうんちももらしてしまう。父に盛大に叱られている。
 私は「したくなったら教えなきゃ」と、言い聞かせつつも、まあ、上の兄ちゃんも小学生だがまだおもらしするし、大人になるまでにおむつが取れればいいや、と、かなりいいかげんなスタンス。
 きっと娘は保育園では随分緊張してがんばっているんだろうなぁ、と、思う。
 ではせめて、家の中では気持ちを解放させて上げたい。家がやすらぎの場でないと、子供はとてもつらいだろう。逃げる場がないのだから。
 私は自分の家が好きだ。家は雑然として汚いしボロ屋。でも、どこに出かけても「ああ、はやく家にかえりたい」と、思う。子供にとって、そういう家にしたい。私が子供の頃、家は緊張の場で、私は学校でも家でも緊張して、どこにもやすらげる場がなかった。だからといって、外にうろつけるタイプでもなく、仕方なく心の中に自分の家を造って、その中に逃げ込みカギをかけて閉じこもっていた。口を使って自分の意志を伝える訓練をしなかった。おかげでなにを考えているのかわかりづらい子供になってしまった。頭の中では怒涛のように言葉がうずまくのに、口の端にはそれが登ってこない。苦しい。苦しい、その思いは、文字になった。

 今、やっぱりいろいろ言葉が頭の中で渦巻いている。苦しい。
 それを今はため込んで、発酵させようと思う。
 私には状況は今は冬の時期だ。春が来るというのに。
 しかし、とある人に言われる。
 
 冬の時期に沢山のわらじを作っておいて、
 春になったらそのわらじを履いて畑を耕す。
 日照りの夏は水をやるのに汗を流し、草を取る。
 ゆっくりやってきた秋に、収穫を祝う。
 やっぱり人生って、こんなもんだと思うよ。

 だから、今はせっせとわらじを編もう。
 来るべき春が来るために。

 しかし、子供の頃と違うのは、私には帰るべき家があるということだ。
 はやくおうちに帰りましょう。