「ちょっとしょう…さ、んっ…」
滅多に見ない翔さんの真剣な表情に目を奪われている間に、深い愛情を貰い受ける。
「……ん…ぁっ…」
やっと離れた翔さんの顔を見つめる。
なんで、
なんでそんな辛そうな…
「はぁっ……
んな顔、すんじゃねぇよ…」
「…か、お……?」
「俺に見られて、どうしよう、みたいな…怖そうってか…辛いってか…
ちゃんと、俺の目見ろよ」
「…そ…んな、こと…」
「じゃあその顔は無意識かよ……」
でも……
「……だって…俺たち…」
翔さんの目が微妙に、細められた。気がした。
本当なのだろうか。
あの話しは。
「……父親、が…」
眉間に皺を寄せ、ふっくらとした下唇を噛む。
いつかの帰り道、知らない女の人から聞かされた話。
本当なのだろうか。
「………違う、っ……んっ…く……」
離した唇から、零れ落ちる言葉。
「…そうだよ…
俺らの親父、ちげーよ……」
安心とか不安とか安堵とか焦燥とか。
対極にありそうなものばかりが、なぜだか自然と心の中で溶け合う。
生まれる感情は数えきれないくらいあって。処理が追いつかないようにも、実はきちんと整理出来ているようにも感じられる。
小説でよく目にする「目の前が真っ暗になった」ってやつ。俺はそんなんじゃ無かった。
どちらかというと、色んなものが渦巻いて、一瞬世界が斑に見えた。
「……ごめん」
でも。
「なんで謝るんですか」
斑の向こうに居るひとは。
「いや…ごめん。
ちゃんと、」
俺の大事な、ひと。
「ちゃんと?
言えないですよ、そんなん。
普通は。
俺は、
……ちょっと翔さん」
言いかけた言葉を飲み込んで、目の前にある伏せられた顔を両手で包み込み自分の方に向かせる。
二重の目は濡れていて、でも本人は雫を落とすまいと目元を朱く染めながら我慢してて…
それはものすごく、ものすごく…
「…そそる」
そう。そそる顔。
………ふふっ、ビックリしてる。
「……ん、…しょっぱい、…ちょっと甘い?」
びっくりしたら目元の力抜けちゃったみたいで、ぽろぽろ零れる透明の粒。頬に唇を這わせて、味わう。
「…か、ず……?」
「普通、そんなこと言いづらいですよ。
真面目な貴方ならなおさら。
仕方ないです。
当の俺も、…まぁショック受けないって言ったら嘘になるかもしれないですけど。
翔さんが一緒に、居てくれるなら……」
「……」
「俺ね、
確証持てなくて」
「…なんの」
「俺たちが、他人って言う」
「…っ」
喉をひくつかせるところとか、ぷっくりとした涙袋が朱いところとか、
「だって普通、
『弟』が『お兄ちゃん』のこと好きだったら、
おかしいじゃないですか」
全部全部、
「俺、ずっと翔さんのこと好きだったんですよ」
愛おしいなって。
「……ぁ…おれ…」
「…兄ちゃんは?」
「俺は、かずのこと、」
「……こと?」
「好き、だよ」
「それは、兄として?」
「兄…いや、男として。
…男?この位置的に女?
は、ちょっと認めたくねぇけど…」
拗ねたように視線を外し、唇を指でなぞる翔さん。
「まぁいいでしょ。
どっちにしろ気持ちは一緒なんだから」
「でもさぁ、大事だよ。
女と男では心構えから変わってくるじゃん…」
「そうですね、きっと。
だから心しておいてくださいね」
「……え、ちょ、やっぱ俺が女なの?」
「自分から誘っといて…」
「やっ、ちげぇし!!」
「俺の二の腕握っちゃって」
「にぎっ…たけどさぁ…」
「唇なんていじって…そんな可愛いことして。
いじめてくださいって無意識に言ってんじゃないですか?」
「可愛くねーし!」
「パッチリおめめもウルウルさせちゃって。
あー可愛い可愛い。どうしてこのひとはこんなに可愛いんでしょうね」
「うおーっ
もう辞めてくれー!」
目をぎゅっと瞑り耳を塞ぐ翔さんに、今度は俺からキスを落とす。
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ニノちゃん目線。
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