「ただーい………まー」
見覚えの無い靴を見て、妙に間延びした挨拶になってしまった。
なんだこれ、ヒールが意味も無く高いぞ。あれか、友達と言う名の………
……!!
「あ、すみません…」
「いや…」
「かずくん、お兄さんに一度も会わせてくれなくて。ふふっ」
「おま、余計なこと言わないの」
「ふふっ、お兄さんかっこいいんだね」
「はいはい、どこまでもミーハーだね君は」
「ちがうもーん。
私はかずくんが一番だもん」
「分かったから。
早く靴履いて。
もーなんなのこれ。こんなん履いてたら足挫いちゃうよ?」
「大丈夫。
かずくんが助けてくれるから~」
「電車間に合うか微妙なんでしょ。
急ぎますよ」
「お邪魔しました!
…ちょ、かずくん!待ってよー!」
会話成り立って無くねぇか。
と言うか、ああいう子と付き合ってるのって、意外。もっとちっさくて、フワフワしてて、可愛らしい子かと…
まぁ関係ねーか。
リビングに置いてあるソファに身を投げる。
さっきまでなんとも無かったのに、急にコーヒーの酸味が口腔を侵食する。
「……まっず」
口を歪めて呟いてみても、味は無くならない。
駅まで片道5分弱。あと7,8分くらいしたら帰って
「ただいまー」
「嘘だろ!」
ソファに伏せてた顔を上げると、すぐそこに訝し気に俺を見るかずがいた。
「…何がですか」
「駅まで行ったんじゃねーの!」
「いや、寒かったんで途中で帰ってきました」
……よく見れば、上は学校指定のYシャツしか着ていない。
Yシャツしか。
……しか?素肌にYシャツ?
いや、こいつはいつもYシャツの下に肌着着てたはず。
肌着を脱ぐような用事……
が、あったんだろうなきっと。
「お前、Yシャツ悪くしねーように、ちゃんと下着着とけよ」
「……」
襟首掴んで「あ」って顔してる。図星かよ。
「…今日」
かずがソファの肘掛に座ると同時に、俺はまたソファに顔を埋める。
「あ?」
イラつく。
「彼女と会ってきたんですか?」
イラ…
「はぁ?!」
いやいやいや、
「訳わかんねーし!
おまっ……え?かの、は、いやいやいや、おれ、えーー、」
思わず顔を上げる。
「翔さん、混乱しすぎでしょ」
対するかずは、クリームパンみたいな可愛らしい手を自分でいじってる。小さい頃からコンプレックスだったな、そういえば。
「だっ!…て…」
「どんなひとなんですか。
髪が長くてカールかかってて綺麗でいい匂いのオネエサンですか。
それともさらさらしたボブのおめめぱっちりな可愛い系の女の子ですか」
「ちが…」
何言ってんだ。
「俺が」
「俺は、」
自分の手から視線をはずし、俺の目を見る。
「彼女と、過ごしてましたけど」
沈黙。
「……まぁお互いよろしくやりましょうや」
腰を上げて歩き始めるかず。
「…んだけかよ…」
「はい?」
「言いたいのは、そんだけ、かよ」
イラつく。
俺だけ一人不安になって、友達と会って気分沈めて、不味いコーヒー飲んで、ココアおごって、でもこいつは彼女とおうちでヨロシクやってて。
「…何が、ですか」
「お前が言いたいのはそんだけかよ!!」
「…った…」
二の腕を掴んで引いたら、その勢いでソファに叩きつけられたかず。
「こっちは不安でしょーがなかったんだよ。
んだよおめー…」
かずの少し不快そうな顔を見ながら、ソファに膝をつく。
そして今にも文句を垂れそうな唇に、自分の唇を重ねた。