ある雑誌に「東京大学出身者の平均年収は800万円である」という情報が掲載されていたとしよう。それを見た年収500万円の会社員がこう考えたとしよう。「俺も東大に行ってたら今頃年収800万円貰えてたのか…」さて、この会社員の考えてることは正しいのだろうか。

 少し考えたら、東大に行けば必ず年収が800万円が貰えるわけがない。そもそもその平均年収はどのように算出されたのか。卒業生へのアンケートなどだとしたら、アンケートに回答してる時点である程度人間ができており、優秀寄りな東大生なのではないか。あるいは、年次の高い卒業生ばかりが回答していたら、自然と平均年収はたかくなるだろう。

 あらゆる情報がテレビとスマートフォンから脳に流れ込んでくる現代社会では、集計されたデータなど四六時中見るものだろう。その数字一つ一つについて、上記のように懐疑の思考を巡らすことのできる人がどのくらいいるだろうか。

 本書は約50年前に出版されたものであるが、現代人こそ1度は目を通しておくべき内容である。少し考えたら怪しげなデータやグラフでも、直感的に捉えてしまうと鵜呑みにして、鵜呑みにしたことを忘れて知識として自分に定着してしまうものだ。そして、様々な怪しい数字に自分の思考が振り回されることになる。そうなる前に、統計データ自体に懐疑的になることを覚えようということだ。そして、データをどう怪しむか、あるいは自分でデータを意図して誤魔化して表すにはどうするかを本書で学ぶことができる。

 とはいえ、50年前の人間に指摘されるほど情報リテラシーがなっていないなんてことはないと思われるかもしれない。当時の何百倍のデータに触れてきたのかと思われるかもしれない。ところが、筆者が最近ツイッターで見かけたとある話題について、少なくとも日本の一部の人々の情報リテラシーや統計的基礎がとても不安になることがあった。その件について書いて終わりにしようと思う。

 その件というのは、東京のPCR検査の陽性率についてのことだった。9月6日月曜、東京の新規感染者が968人と久しぶりに1000人を下回っていた。そこで、とある伸びているツイートが目についた。そのツイートとは、9月6日の検査数は2000件程度しかなく、陽性率は50%であり、安心はできないというものであった。ただ、これが間違っているという認識はかなりの人にあった。問題は、このツイートに対する反応として、もう一つ伸びているツイートがあった。それは、検査から陽性が判明するまで1-3日かかるので、9月6日の感染者数を9月4-6日の検査数の平均で割ることで「正確な」陽性率がわかる、というものであり、こちらのツイートはかなり支持する人が多かったように見えた。

 このように、少し考えると成り立たない計算でも、それっぽく語られたものを直感的に受け止め
ることで思わず呑み込んでしまうことがあるものだ。いつでも色々な情報にアクセスできる現代こそ、統計的思考の基礎固めが必須なのだと思う。