鳳戦です。こんばんは! ここまでお読み頂いた皆様、誠にありがとうございます。


 先程からこの追記を最終話に編集してupを試みたのですが、ことごとく反映されませんでしたので、別にしました。



 次回から別の物語を連載する予定です。まだ執筆中なので、執筆が連載に追いつかれそうになり次第、途中で休載するかもしれませんが、気軽にお付き合い下さいませ(笑)

 タイトルは「忘却の彼方に」です。サスペンスタッチのフィクションとなっております。


 どうぞ宜しくお願いします。





 うりゃうりゃ、と。m(>v<)ノシ

「ありがとう、最上君。…助けてくれて」

水鏡の言葉にただ笑顔だけを返して、最上は遠くの空に、もう一度だけ、これまでの自分の人生を思い出して描いてみる。

魅力の無い家庭。当然のように情けない父と同様の醜い母。まとまらない中学のサッカー部…。

次から次へ浮かんでは消える自分の十六年。その終わりにあの、デパートの屋上で見た儚いグラデーションの風景が現れて、最上の追憶はそこで留まった。

「最上君、今、何考えてる?」

 同じ空を眺めていた水鏡が、耳元で囁くのが分かった。だが、最上が答えを探す前に、水鏡が最上の右袖を引きながら、向き直らせる。

「分かっちゃうんだなー、これが…」

「やれやれ朝っぱらから……」七海がチラリと眼を向けた後、静かに笑いながら再び視線を空へ帰す。

「わぁー…」少しソワソワした藤堂はときめいたような表情で、極大に嬉しそうだった。

「正室の面子丸潰れだわ…」溜息混じりの桜木が気になる事を言う。「貴方達、二限目が始まる前に戻りなさいよ? いいわね?」

 桜木は念を押すと直ちに翻った。歩き始めた直後、少し驚いた七海の質問に遭う。

「一限は!?」何言ってんだよ! そんな口調だった。

「自習よ」穏やかな口調でそう言った桜木のヒールが綺麗な音を立てて遠ざかって行く。

「自習って…あ。…英文法…」七海は思い当たったように言うと、フッと笑って後を追うように翻った。

「大変だねーあんたも…。ここでの生活、あんたが一番きつくないか?」七海の声も遠ざかっていった。

残された最上と水鏡は、青空の下、いつか二人に流れて行った時間を今一度取り戻そうとしていた。

 春の風が二人を取り巻いて、駅構内へ吹き抜けて行く中、無邪気な藤堂だけが、その姿を最後まで見届けていた。

謀略のエデン(序章) 終

 十二 空

 駐車場の出口を見上げて、最上はその明るさに雨上がりを知った。

 藤堂は水鏡のバッグを持ち、雨上がりの日差しをその笑顔に受けながら、最上の後に続く。

桜木は既に眼鏡を掛けていた。道具一つでここまで変われる人も珍しい。

七海はスカートのポケットに手を突っ込んで、周囲に鋭い視線を配っていた。

やがて駅構外の階段を上がり、駅前ロータリーや、桜通り入口を見下ろせるテラスに着いた。

テラスの壁際に、駅構内の方へ向けて設置された緑色の青銅製ベンチがある。一同が取り巻いてそれを見守る中、藤堂は水鏡の荷物をベンチに乗せた。その隣に立った最上も、そこへ水鏡を下ろそうとする。

「最上君………私も…魔神、だった……」

 下ろそうとした身体を背負ったまま、最上は答えを選ぶ。水鏡の行動を察した藤堂が、心配して手を貸そうと試みたが、彼女は自力で、そろりと最上の背中から下りた。

「そのようだな」最上は水鏡にそう言ってみた。

「やっぱ…ショックだね? …ちょこっと」

 俯きかけたまま、水鏡はスカートの裾を直しつつ、最上の顔を上目遣いで覗き見た。

 最上はテラスから遠くを眺めていた。水鏡のかつての言葉を信じ、今度こそ彼女の期待を裏切らない回答を試みる。

「…だろうな。……だが、これで俺の背後を守れる」

 パァーッと明るくなった水鏡の表情を盗み見て、最上も自信に満ちた笑顔で再び遠くを眺めると、遠くの空に大きな虹が立ち昇っているのが見えた。

 水鏡の後ろに爽やかな笑顔の藤堂が、手を腰の後ろで組み、背を軽く逸らして立っていた。その直ぐ後ろに、桜木が両肘を抱いて遠い眼を空へ放っている。少し離れた所には、頭の後ろで手を組んだ七海が、空を仰いでいた。

 エヘへ…といった感じの表情は、水鏡には珍しい。最上は横目で見てそう思った。水鏡が右の腕を取り、抱き締めるのを見届けると、眼を虹へ戻した。