廉恥心 | ナベちゃんの徒然草

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還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

早くもお正月の三が日が過ぎ、多くの方が仕事始めで始動するであろう今日は、我が愛読誌・月刊 『致知』 2月号よりJFEホールディングス名誉顧問・數土(すど)文夫氏による [巻頭の言葉] を、一部編集にてご紹介致します。

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2003年、李登輝・台湾元総統(1923-2020 ↓)は、敬愛する新渡戸稲造の著書・ 『武士道』 の精神を日本人に今一度喚起せんと『「武士道」解題』 を発刊しました。

     


※新渡戸稲造・『武士道』に関する過去記事は、こちら。(↓)

 

世界的なベストセラーになった 『武士道』 に李・元総統が再び光を当てた同著には、日本の伝統的精神・文化に対する並々ならぬ理解と、日本の現状への失望、それでも止まぬ好意と激励が示され、日本国民への強烈なメッセージとなっています。

同著の発刊時に李・元総統は既に引退していたとはいえ、一国の元トップが他国民に向けてこうした書籍を発刊することは極めて異例のことでした。

2003年頃の日本といえば、それより10数年前のIMD国際競争力ランキングで3年連続1位から転落し続け、20位以下に低迷して回復の予兆すら見えない頃でした。


※2022年の同ランキングでは、日本は63ヶ国中34位。

日本の国際的地位・評価は種々の指標で低落傾向を示しつつあり、〝失われた10年〟という造語も流布し始めていました。

世情も不安定でした。 少年・少女の非行・犯罪や、企業・経営者の不祥事が頻発し、政治への不信が募り、かつて〝ジャパン・アズ・ナンバーワン〟と謳われた頃の輝きは完全に失われてしまいました。

李・元総統は同著の中で、日本人について次のように指摘しています。

 日本人は〝廉恥心〟を失った。
 日本人は〝名誉〟を口にしなくなった。
 日本人は〝徳〟を口にしなくなった。


更に続けて次のようにも述べています。

「世界に誇るべき 『日本国憲法』 は、その冒頭で 『国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う』 と高らかに宣言しています。

にも拘わらず、最近の日本はあまりにも不名誉な地位に立たされ過ぎているのではないでしょうか」 と。

新渡戸稲造は 『武士道』 の中で次のように強調しています。

「廉恥心は少年の教育において養成せらるべき最初の徳の一つであった」

この一文は極めて重要です。

「笑われる」「体面を汚すぞ」「恥ずかしくないか」 などの言葉は、過ちを犯した少年を正す最後の切り札であり、人間の高潔さに対するいかなる侵害をも恥とされると説いています。

日本人はこの廉恥心を1945年の敗戦まで伝統的に幼少期から徹底して教育してきたのです。

江戸末期、武士の子弟を教育する藩校や私塾は、全国に約270校、庶民の教育の場である寺子屋は全国に約1万5千もあったといわれています。

こうした教育環境に支えられ、当時の識字率は一説では約70%にも達していたといいます。

これは同時期のイギリス・フランスの10~25%より相当高く、来日する欧米人を驚かせました。

 

明治5年から9年にかけて福沢諭吉が刊行した 『学問のすゝめ』 は、約340万部の大ベストセラーになりました。

当時の日本の人口が約3,400万人であったことを考えると、これは同書の反響の大きさと共に、日本人の向学心・好奇心・識字率の高さを如実に表していると言えます。

福澤は同書で「賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるによりて出来るものなり」、つまり皆が良く知っている 『実語教』 の通りです、と訴えています。

『実語教』 とは、平安時代から伝わる漢字480字からなる年少者用・寺子屋用の道徳を主とした教材です。

現在の大学生、否、企業の経営者・政治家の方々といえども十分認知されているかどうか。

国家枢要の重職・法務大臣が、自ら犯した罪や過ちのために、ここ3年くらいの間に2人も辞任する国は、途上国でも聞いたことがありません。

今一度 『実語教』 に学んで欲しいと思います。

廉恥心・名誉・徳は、本来は幼少時に学んでおくべきものであり、これらと無縁では国家の再生も、独立自尊も決して成立しない。

私たちは、このことを固く肝に銘じておかなければなりません。


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李・元総統の仰る〝廉恥心〟という言葉自体、理解できる若者は今どれほどいるのでしょう。

権利主張ばかり教えて義務を果たす大切さを教えてこなかった戦後教育と親の躾不足が、日本を弱体化させている気がしてなりません。

2023(令和5)年の念頭にあたり、この廉恥心・名誉・徳という3つの言葉を胸に刻みたいと思います。


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