先月集中開催された上場企業の株主総会で、何人かの新社長が誕生したはず。
よく、組織のトップは孤独だ・・・といいますが、それを実感することになる方が今月から何人か増える、とも言えましょうか。
そんな大企業の社長の孤独を目撃(?)したのは、私が損保の本店営業部に勤務していた時のこと。
月末の締め切りが終わり、課長や先輩社員たちと近くの居酒屋で打ち上げを行い、それから2次会へと課長行きつけのスナックへと繰り出しました。
「ママ~、こ・ん・ば・ん・は~!」
酔った勢いで景気よくドアを開けて入っていったのですが、いつも明るく出迎えてくれるママさんがその夜に限って、何故か静か。
(・・・・・?) と怪訝に思いつつ店の中に入っていくと、カウンターの中にいたママがチラッと奥に目配せ。
その方向を見た瞬間、私の身体は硬直してしまいました。
カウンターの一番奥でグラスを片手に1人で座っていたのは・・・な、なんと勤務先の代表取締役社長ではありませんか!
「あ゛っ・・・・・お、お疲れ様です。」
やっと声を絞り出して挨拶をした私ですが、後ろからついてきた先輩社員たちに社長がいることを伝えると、皆一様にビビリまくり。
しかし今更帰るわけにもいかず、一人ひとり社長に挨拶した後、反対側一番奥のボックス席に座った私達。
「おい、どうするョ。 社長が1人で静かに飲んでるのに、カラオケは歌えねぇだろ。」
ってことで、ママさんが運んできてくれた水割りセットを作り、まるでお通夜の如く静かに飲んでいたんですが・・・しばらくすると、後ろから 「コッ、コッ」 と足音が近づいてくるではありませんか。
「私も入れてもらっていいですか?」
嗚呼、その聞き覚えのある声は・・・後ろを振り返ると、グラスを手に立っていたのはやはり社長さんでした。
「あっ、ど、どうぞ、どうぞ。」
慌てて真ん中の席を開けてお座りいただくと、
「お楽しみのところ、申し訳ない。
なかなか若い人と飲む機会がないもんでネ。
じゃ、乾杯といきましょうか。」
と、勿体なくも社長の音頭で乾杯!・・・ところが、その後の会話がありません。
だって、何を話していいか分かりませんもの。😣
暫しの沈黙の後、社長が口を開きます。
「どうでしたか、今月の数字は?」
本当はノルマに達しなかったんですが、口が裂けてもそんなことを正直に言えるワケがありません。
「はいっ、おかげさまで予算は達成しました~!」
「それは良かった、お疲れ様でしたネ。」
会社のトップにウソをついた罪悪感で、ますます口が重くなる私達。 また暫し沈黙が続いた後
「1曲歌わせてもらっていいかネ?」
と、社長が気を使ってくださったご様子。
「ど、どうぞ!」
と慌ててカラオケのメニューをお渡しすると、パラパラッとめくって
「ママ、Bの○○○番、お願い。」
とオーダーし、気持ちよく歌い上げました・・・が、残念ながらその曲は私達全員が曲名すら知らない、古い演歌。
渋い歌故にヤンヤの喝采ともいかず、黙って拍手する私達。
「いや、気持ちよく歌えたョ。 ありがとう。
じゃあ、私は失礼するから、ゆっくりやってくれたまえ。」
そう仰ると、社長はママに手を上げると、そのまま店の外に出られました。
いやァ、まさかの展開ですっかり肩が凝った我々でしたが、その後はドンチャン騒ぎ。
帰り際にママさんに伺ったところでは、月に1,2度お忍びでフラッと来てはカウンターで静かに飲んでいるそうで、カラオケなんて普段は歌わないとのこと。
たまに社員が店内にいても、誰も近づいてこない・・・って、そりゃ当たり前ですょネ。
今にして思えば、我々以上に社長は気を使って下さったんでしょう。
ぎこちなく近づいてこられた時には、おそらく社長ご自身も自分の子供より若い社員とどんな話をすればいいのか、迷われていたのかも。
数千人の社員と20人以上の役員のトップに君臨する社長なれど、もしかしたら社内で最も孤独なのかもしれない・・・そんなことを感じた一夜でした。
えっ、その後社長さんと鉢合わせしたことはないのかって?
1回もありませんでしたョ。
だって社長が退任されるまで、その店には行きませんでしたから。😅