今日は、歴史小説家として現在でも多くのファンを持つ
津本 陽 さん
の命日・七回忌にあたります。
津本(本名:寅吉)さんは、1929(昭和4)年に和歌山市で生まれました。
旧制和歌山中学校から旧制大阪専門学校(現・近畿大学)を経て1961年に東北大学法学部を卒業。
同人誌 『VIKING』 で活動し、同誌に掲載した 『岡の家』 が直木賞候補作となって注目されると、1978年に故郷・和歌山を舞台にして古式捕鯨を描いた 『深重の海』 で直木賞を受賞。
そして剣道三段・抜刀道五段で武道に関する造詣が深い彼は、1982年に発表した『明治撃剣会』以降、塚原卜伝や千葉周作ら剣豪を主人公にした小説で、また同時に戦国武将を扱った歴史小説で人気を博します。
その中でも代表作と言えるのが、1986年から約2年半にわたり日本経済新聞に連載された『下天は夢か』でしょう。
織田信長を描いたこの長編小説は1989年に単行本化されるや累計200万部を超える大ベストセラーとなり、彼の名は一気に全国区に。
転勤族だった私は、この作品を新聞で読んで初めて津本さんの存在を知った次第。
しかし津本さんの作品は戦国武将に留まらず、西郷隆盛や勝海舟ら幕末に生きた人物や、則天武后や項羽と劉邦など、大陸を舞台にしたものまで広範囲に及びました。
豊富な資料を丹念に精査した多くの作品を残しましたものの、その反面剽窃 (※ひょうせつ=他人の文章や説などを許可なく転用すること) を取り沙汰されることも1度ならずありましたが・・・。
吉川英治文学賞や菊池寛賞、また紫綬褒章や旭日小綬章を授与され、1995年から10年余りにわたって直木賞選考委員も務めた日本文学界の重鎮が誤嚥性肺炎により89歳でこの世を去ったのは、2018(平成30)年5月26日のことでした。
私自身、津本作品は歴史小説を何冊か読みましたが、意外にも印象に残る作品として書棚に残っているのは現代モノが多いんです。
ひとつは、2000年に幻冬舎から出版された、松下幸之助氏を取り上げた
『不況もまたよし』
それと、やはり幻冬舎から2002年に出された、私が最も尊敬する政治家・田中角栄氏を描いた
『異形の将軍 田中角栄の生涯』
いずれも従来の伝記モノとは視点を変えて書かれているところに新鮮味がありました。
そして還暦を過ぎた今こそ読み返そうと思っているのが、これもまた幻冬舎から2003年に出版された
『老いは生のさなかにあり』
「老境に至ってなお、盛運のいきおいを増してゆく人物は、〝考える人〟である」
と語る津本さんが、徳川家康や豊臣秀吉から是川銀蔵に至るまで小説の題材にした先人の生き様から紡ぎ出す老後の人生論から、今後の生きる指針を探り出したい・・・そう思っています。
さて皆さんは、どの津本作品がお好きですか?