読書感想文 源氏物語 与謝野晶子訳⑦ 須磨~明石 | わんわん物語

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~異界から目薬~

源氏が失脚(?)して京を離れている話の部分の感想文です。

とりあえず、この感想文にはネタバレを含んでおります。

 

失脚(?)なのは、ただの自爆っていう、何なのこれ。

 

源氏物語の中では、源氏はイケメンで芸術に優れているだけでなく、政治家としての能力も天才で王の器みたいなことを書かれていますが、具体的にどんな政治をしたとかは書かれていません。

 

たぶんこれは書かなかったんじゃなくて書けなかったんだと思うんだけども、紫式部自身が政治について詳しくなかったか、女性が政治について文学作品の中であってもアレコレ言うことが好ましくなかったのか、ともかくも源氏がどんな感じで政治家的に優秀だったのかはわかりません。

 

ただ、現代の政治家と同様に女性関係で身を崩してしまうわけです。

 

なので、読んだ感じだと具体的な政治面での活躍の描写が無いからひたすらに女遊びを続けて、手を出しちゃいけない子に手を出してバレて、周囲を巻き込まないようにするために京を離れた、という呆れた感じになってしまうのだけども、この部分を悲壮感漂うように読むには妄想を膨らませないといけないわけですね。

 

何をやらせてもイケメンで完璧な源氏だけども、その才能とは裏腹に正妻を亡くし、想い人も出家してしまい、傷心の末に帝の妃候補と新たな恋を見つけていたところそれが露見し、更に自分を傷つけるように京を去る、と。

 

一生懸命悲しさ増し増しで読みます。

 

で、須磨ってどこだ、とググってみると、兵庫!

 

近っ

 

ただ、当時の感覚で言うとものすごく遠いのでしょうか。

 

源氏物語における須磨の感覚を調べてみたところ、畿内で最も京から離れた地ということで、近年「天下」は畿内のみを指すっていう説も強くなっていることから、現代の感覚だと、、、わからん。

 

須磨についての源氏や周りの人たちの反応はというと、めちゃめちゃ田舎で、何も無く不便で、貴族が行くような地ではなく、とてもかわいそう、みたいな反応なんだけども、直接は書いてない雰囲気だと更に加えてもう都での栄達は望めない、帰って来られるかわからないから一生その不便な地で暮らさねばならない、ちょっとした病ですぐ死ぬ時代だからもう二度と会えないかもしれない、といったことが感じられます。

 

このあたりは京の貴族の感覚としては興味深いところで、どこまでがセーフなラインなのかが面白い。

 

須磨は摂津国なので京がある山城の隣国なんだけど、同じ隣国でも奈良がある大和や琵琶湖がある近江は旅行で遠出するところだからセーフ、丹後も日常品の生産地や隠居した貴族が住んでたりするからなんとなくセーフ、でも摂津はアウトっていう感覚ね。

 

横浜や箱根がある神奈川はセーフ、ディズニーや幕張がある千葉はセーフ、埼玉もまあなんとなくセーフ、山梨って東京の隣なの?みたいなところでしょうか。

 

でも山梨だと関東じゃないので、ギリ関東のとこだと、八王子?

 

こんなこと言ってるとそこに住んでる人に失礼でしょ、となると思うんだけども、源氏物語を読んでも須磨や明石、周辺キャラが赴任する地方とか結構失礼な書き方になってるんだよね。

 

京だけが人の住む地で他は野蛮な地、京の貴族はそういう感覚だったって知ると他の時代の歴史の味方も変わってくるのね。

 

鎌倉時代も戦国時代も貴族たちにとっては野蛮人同士の国盗りで自分たちにはあまり関係無いな、と見ている人が多数で武士たちにいくら武力があっても官位欲しさに金をよこす存在だったっていう感覚を前提に置くと、考察の幅が広がるのです。

 

そんで江戸幕府ができて禁中並公家諸法度が定められた時の衝撃の度合いとかね。

 

話を源氏物語に戻します。

 

須磨に行くにあたって、ファンサ的に登場人物オールスターに挨拶シーンがあります。

 

最近読んでる転生するラノベでも次の街へ旅立つ時には今いる街でお世話になったキャラと挨拶するシーンがあって、主人公がいかにすごかったか褒められたり次の街で役立つアイテムもらったり旅の助言をもらったりして、そういうシーンでサブキャラにも愛着が増したりするわけですが、源氏物語でもそういう感じかな。

 

遠くに行ってしばらく会えない、悲しい、寂しい、そういう会話をいろんな人としていくわけです。

 

自爆失脚しての隠棲の割にはずいぶんのんびりした出発だと思うんだけど、貴族の時間の感覚はこういうものなのかね。

 

従者を整理して、隠棲先の住居を整えて、持ってくものを選んで、残すものを整理して、みんなに挨拶。

 

そんでひたすら悲しい悲しい言いながら旅立って、須磨に着いたあともずっと悲しい悲しい言ってる。

 

自爆して自分で須磨に隠棲って決めて旅立ったのに、女々しいわ。

あと挨拶無かった末摘花うける。

 

でもやっぱり隠棲先で無双する源氏。

ひたすらイケメンパワーを発揮して、悲しい悲しい言いながら評判を高めていくわけですね。

 

で、嵐が来て怖いから明石に行こうってなるわけですが、途中でファンタジーになって龍を撃退(?)みたいなことするんだけど、このシーンは何でしょう。

 

須磨で悲しみながら芸事してる→海見ながらやってみよう→突然嵐が来るけど不思議な力で乗り越える→嵐怖いから明石に引っ越す→明石で新たな女ゲット→帝が夢で源氏を京に戻せと言われて復帰

 

源氏遊んでただけで京に帰れたよ。

 

この間2年なわけですが、隠棲先で源氏が手柄を立てたり伝説的な活躍したりしたわけでもなく、かと言って朝廷に働きかけたり陰謀の手を回したりして復権の策略をしたわけでもなく、帝が夢を見て京に帰ることになったのでした。

 

これが最近の小説ならば、隠棲先で盗賊団を壊滅させたり悪徳領主の不正を暴いてやっつけたりして評判となり、都でなぜこんなすごいやつを追い出したんだ、今すぐ呼び戻そうってなるんだけども、そういうことも無く。

 

なのでファンタジーなシーンを作って源氏を呼び戻す流れを作ったわけですね。

 

で、ここで出てくる煮えきらない女、明石。

 

源氏が好きなのか好きじゃないのか、嫁ぎたいのか嫁ぎたくないのか。

でも子供生んで紫の上にライバル認定されてしまう。

 

京に戻れることになったけど更なる火種を抱えてしまうのでした。

 

女性問題で失敗して隠棲したのに新たな女性問題抱えて帰ってくるという、源氏すげえよ。

 

この先は、復権した源氏に逆らえる者は無く再びの栄華となります。

源氏物語にラノベ風タイトルをつけるならば、

 

「自虐的なイケメンチートが鬱々と女遊びをしながら栄華を極める」

 

かな。

 

というわけで、次回もお楽しみに!