読書感想文 源氏物語 与謝野晶子訳④ 空蝉~夕顔 | わんわん物語

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~異界から目薬~

ゆっくり進めていきましょう。

読書感想文です。

 

※このブログにはネタバレを含んでおります。

 

前巻帚木の”雨世の品定め”でどんな女性が良いか議論した源氏は評判が良かったタイプの女性にロックオンしていきます。

 

で、まずは人妻、と。

 

めちゃめちゃ突っ込みたいのですが、源氏物語に萌えてきた1000年間の女性読者の方々はこれが良かったのでしょうか。。。

理解しようと努めるならば、平安、鎌倉、室町南北朝戦国、江戸時代とそれぞれの女性の境遇を調べないといけないのですが、空蝉は夫が地方官(伊予介、愛媛県の次官)で夫が伊予に行っていて手持ち無沙汰っていうのはどういう状況なのでしょう。

 

同居の前妻の子の軒端荻は空蝉と同年代なので夫の伊予介は親と同じくらいの年齢で地方に赴任してる時はもちろん構ってもらえない。

 

これは不幸なのか、それとも浮気し放題ラッキー、なのか。

 

読者に受け入れられてきたってことは、イケナイ恋のチャンス!ってとこなのかな。

 

で、その噂を聞いた源氏がアタックするわけですが、上手くかわして、衣一枚残して逃げたことから空蝉(セミの抜け殻)と呼ばれるようになるのですが、そんな名前で良かったのだろうか。

 

本人に向かって空蝉と呼んでるシーンは無かったと思うので、源氏が友人たちの間で「あのセミの抜け殻の人」って言う分にはオッケーだったのかな。

 

そんで空蝉も源氏に惹かれながらも1回だけの関係でそれ以後は浮気はダメってかわしてるうちに、源氏が人違いして部屋にいた軒端荻とやっちゃうっていう、あらすじだけ書くとひどいよ。。。

 

ギャグ漫画ばりの展開をしてくれるわけですが、次の夕顔でいきなりホラーになります。

 

空蝉とは同時進行なんだけど、例の貧乏そうな家に美人が住んでるっていうので夕顔って呼ばれる人を見つけてしまったのです。

 

こちらの呼び名は家の垣に夕顔が咲いてたからなんだけど、その家はなんと乳母の家の隣。

乳母はパンピなので市井に住んでるわけで、そこまでボロ屋じゃないんだけど市井の家に貴女が住んでるぞ、と。

 

ニュアンス的には夏休みに田舎の親戚の家行ったら隣に可愛い子が住んでた、みたいなノリなんだけど、手を出すかね。

親戚にバレバレじゃないか。

 

で、こちらは歌のやり取りをして上手くゲットして、たまには市井じゃなくて静かなとこでデートしようって人気の無い別荘に連れ込んだら怪奇現象的に灯りが消えて眠くなって起きたら夕顔が死んでたっていう驚きの展開です。

 

途中で女の霊に嫉妬っぽい恨み言を言われるシーンもあったりで、何なのこれ。

 

女の霊は本命彼女の六条御息所で、夕顔は御息所の嫉妬からの生霊に呪い殺されてしまったというのが有力な説なんだけど真実は本文には無く、当の御息所も自分が無意識にやってしまったかもと思いつつも自覚が無いのでなぜ夕顔が急死したのか、そもそもホラー展開の最初の灯りが消えたり眠気に襲われたりはなんだったのかの真相は不明のままです。

 

ただ、真相はともかく、なぜこんなシーンが必要だったのかは考察できそうです。

 

夕顔は4巻目で、源氏の設定はイケメンで天才で女遊びをしまくっているってことなんだけども、ここまで具体的に源氏が女遊びをしているシーンが出てきません。

 

たくさんの女と遊んでいるよ、と書かれているだけで、どんな人とどんなナンパの仕方をしてどんな風に付き合ってかというは書かれていないのです。

 

なので空蝉と夕顔がその例としての物語になるわけですが、どちらも上手くいかないのですね。

 

空蝉は一度だけの逢瀬でその後はかわしまくって夫と共に伊予に行ってしまうし、夕顔は死んでしまう。

 

で、夕顔の死に方は超常現象付き。

 

この2つのエピソードで源氏物語の世界観を読者に伝えようとしているのではないかと思います。

 

おそらく平安時代においても、現代やその後の時代よりはずっと怪異についての信憑性が高かったとは思うけどリアルにいるかと問われれば半々だったんじゃなかと思うのです。

 

既に平安時代よりも更に1000年前に論語で「怪力乱神を語らず」という言葉があって、個人はともかく為政者はそんなものを政治の判断材料にしてはいけないとされているのです。

 

だから、現代でいう宇宙人と同じで、いるかもしれないし信じてる人もいっぱいいるけど確定してないから物語で宇宙人が出てきたらそういう設定の話ね、っていう。

 

ほんとにいるって信じられてたんならゴーストバスターズや結界師みたいな仕事の人たちがいないといけないし。

 

だから、夕顔では超常現象がある世界ですよーっていうのを説明したかったんだと思う。

 

空蝉の方は、源氏がイケメンで天才でなおかつ身分も高いチート設定だけど、無双できるわけじゃないよ、と言いたかったんだと思う。

 

異世界に転生するファンタジーでも、主人公が無節操にチートスキルで無双してたら簡単に世界征服してしまうので、権力欲が無かったり、静かに暮らすのを願望としてたり、人殺しは絶対ヤダっていうような設定をしています。

 

いざ戦えば圧倒的なスキルで敵を瞬殺させて味方や民衆にすげえって言わせて、だけどもいろいろ制限をつけてある程度は苦労するようにするっていうバランス調整が必要なわけですね。

 

そう読み解いてみると源氏物語での描写を平安貴族の生活の史料にしようと思うのは危険な気がしてきたけど、結構細かく書いてくれるところや男女の歌や手紙のやり取りからの心境など興味深いところはたくさんあるので面白く読んでいます。

 

そして、この2つのエピソードを経てついに、というか早くも若紫と出会うわけですが、ここまでで結構書いたから続きは次回かな。

 

2回連続で失敗して、2回目に至っては相手が死んでしまうというショッキングな事件にものすごく落ち込むところからの若紫です。

 

というか物語全体を通して源氏はだいたい落ち込んでる。

 

感想文が止まらない物語ですが、次回は若紫からです。

お楽しみに!