大河ドラマの解説コーナー㊹ #どうする家康 | わんわん物語

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~異界から目薬~

幕府が誕生する回の分です。

1週間遅れてもうた。

 

もっと家康が征夷大将軍になるまで、幕府ができるまでのすったもんだをやるんだと思ってたけど、関ケ原が終わって家康が大阪城に入城したところから慶長16年(1611年)までの11年を、トピックをピックアップしながらさらって主要キャラたちが死んでいく回でした。

 

この回の終わりの慶長16年に何が起こるかというと、それが次回の話のメインになるのかどうかわからんけど家康と秀頼が二条城で会見する、というイベントが起きます。

 

どういうことかというと、家康が主君である秀頼を大阪城から出して二条城に呼びつけて”会見”、つまり、主従が逆転するまではいかないけど徳川家が豊臣家に並ぼうとする、まあ、民衆のイメージからすれば徳川が上に立ったと思ってしまうようなことを家康がするわけです。

 

今回の大河ドラマでは関ケ原から二条城の会見までを、「関ケ原はまだ終わっていない」という家康のセリフでいうと次の関ヶ原までの雌伏期間で、二条城の会見から事態が動き出す、としているわけですね。

 

このブログでもちょいちょい引用している隆慶一郎の「影武者徳川家康」ではメインの時代は関ケ原から大坂の陣がクライマックスで家康が死ぬところまで描いて終わりますが、今回分の11年でも様々な出来事を描いています。

 

あらすじをざっくり書くと、

関ケ原開戦日の朝の霧の中で家康が暗殺されてしまうが、霧の中なので目撃者は少なく、影武者が入れ替わってなんとか勝利を収めるものの、このまま徳川の天下と定まってしまっては影武者は早々に秀忠を後継者として天下を譲ることになって用済みとなった影武者は殺されてしまう、だから盤石な徳川の天下ではなく、豊臣家をできるだけ存続させて脅威としておいてその間に力をつけて簡単に排除されないようにしようと影武者ががんばる話です。

 

自身を守るために敵を守るという皮肉なことをする物語となりますが、背景であるこの11年の間に、秀忠は早く自分の天下にしたくて影武者の暗殺や豊臣を滅ぼす口実を作ろうと躍起になるのを影武者とその仲間たちがことごとく阻止、二条城の会見は影武者たちが平和のための秀頼と会見するという設定です。

 

この会見の部分もクライマックスの一つで、豊臣恩顧の大名たちへの説得や幕府側への根回しなど様々な障害を乗り越えて実現させようとするのですが、秀忠は会見をぶち壊して戦の口実を作ろうとしたりするんですね。

 

まあ、フィクションなのであんまり紹介してもアレですが、関ケ原終わってからここまでが一つの区切りで、ここから大阪の陣モードになっていくのですね。

そこから3年あるけど。

 

ところで、この間ずっと元号が慶長です。

 

この頃の年号は現代のように天皇が次代になる時に変えるわけではないのは知ってると思うけど、戦国次代後期までは戦乱や災害が多い時にそれを憂いて改元していました。

 

家康が生まれた時が天文で24年続き、初陣の時が弘治で4年まであるけど実質3年ちょい、桶狭間の戦いから信長が美濃を攻略して勢力を伸ばしていくのが永禄ですが、永禄から元号に戦国大名が介入してきます。

 

永禄は三好長慶が将軍足利義輝を通さずに朝廷と協議して決めた元号で、もちろん将軍は激怒しますがどうにもできないっていう三好の権力を示す改元でした。

 

次いで信長の力で将軍になった足利義昭は元号を元亀に改元しますが、足利義昭追放後に信長は元号を天正としました。

 

しました、と書いてるけど、どの大名も将軍もちゃんと朝廷に奏上してるのでご了承ください。

 

天正10年が本能寺の変の年ですが、その後天下を獲った秀吉は改元をせず、後継者予定だった秀次が関白に就任したところで文禄となります。

 

文禄からは秀吉が関白という朝廷の官位を権力の根拠にしたためだと思うんだけど、あまり改元に対して強い要請はしなくなります。

 

秀次が切腹となったところで慶長に改元されますが、この改元はドラマでもやってた大地震の影響とのこと。

慶長に変えて早々にもう1発大地震きてるけど。

 

で、慶長は秀吉が死んでも関ケ原の戦いが起こっても江戸幕府ができても改元されませんでした。

 

次の元和に改元されるのは豊臣が滅びた時で、江戸幕府の禁中並公家諸法度によって朝廷が幕府に介入されることが合法となった時でした。

 

教科書や学問上では1603年に家康が征夷大将軍になって幕府を開いた時が安土桃山時代と江戸時代の境目ですが、リアルタイムなところでは慶長のまま、新しい時代が始まったぞーって感じでもなかったのかな、と思っています。

 

もちろん武士や大名は負けた方は取り潰されて勝った方は新領地もらってバタバタしてたし、豊臣家は直轄地こそ65万石と大きく減らされてしまったけど権威はそのまま、豊臣家に忠誠心のある東軍大名も領地を拡大して配置、家康は幕府を中心にいろんな政策を進めてるけど関ケ原前もそうだったからその部分もさして変わりないのかな、と。

 

ただ、やっぱり幕府を開くというのはただならぬことなのです。

 

ドラマではすんなり幕府開いちゃったから何の説明もなかったんだけど、征夷大将軍と、武家の棟梁、源氏の長者とは1セットなので、つまり建前上は武士はみんな徳川家臣(陪臣含む)ということになっちゃったのね。

 

なので、徳川が名実ともに天下の権を担う裏技っぽさがあります。

 

豊臣は今のままでいいよ、今のまま敬うよとしつつ幕府開いて武士の頂点は家康ね、幕府開いたから日本の政治やるね、としたわけなので。

 

現代で考えるとその裏技っぷりが伝わると思うのですが、防衛大臣がすげえパワーを持って征夷大将軍職をゲットして幕府を開き、内閣はそのまま、総理大臣もそのまま、でも各地の県知事や市長は防衛大臣が任命して全国の政治をやり始めるってことですね。

 

何がなんだかわからないけど、それで戦がなくなって国が発展していっちゃってる、内閣はいるけど内閣よりも将軍の言う事聞く人の方が多い、みたいな。

 

そしてドラマでも触れてた部分で大事なのは、これが一時的なことじゃなくて、さっさと秀忠を2代目将軍としてしまってずっと続くようにしてしまったことです。

 

信長が死んだら秀吉が、秀吉が死んだら家康が、じゃあ家康が死んだらその時に力を持ってる人が次の天下を担うのではなく、家康の子が、ということは家康の子の次はそのまた子が、という制度を定めたことになります。

 

文章で書くとさらっとやったようになるけども、征夷大将軍になるまで関ケ原から3年かけています。

しかも一旦は朝廷からの征夷大将軍の任命を断っていて、再三の要請で征夷大将軍になったことにする用意周到さです。

 

まあ、その3年も関ケ原の戦後処理で各大名の転封や、敵中突破して薩摩に帰った島津への対応で時間がかかっていて、盤石な体制を整えての征夷大将軍就任です。

 

あ、その戦後処理に活躍した井伊直政は回想死でしたね。

 

本多忠勝と榊原康政は感動の演出をしたのに。

 

ツイッター大盛り上がりですわ。

 

秀忠に将軍を譲った家康は駿府を大改造して江戸に引けを取らない大都市、大要塞としつつ、新たなブレーンを側近に迎えて大御所政治を敷き始めました。

 

そんな中で大名として各地に配された古参の重臣たちとは距離ができてしまいますが、本多忠勝と榊原康政の死の演出はとても良かったと思います。

 

あと、榊原康政は本多正信と仲良さげになってるけど、通説ではめっちゃ仲悪かったことになってます。

本多正信は榊原康政から”腸(はらわた)の腐れ者”と言われていたとか。

名将言行録だったっけか。

 

でも悪口言ってるのが記録に残ってるから仲悪いとも限らないので。

インパクトあるセリフだったから残ってるだけで、その時以外は特に何も無かったのかもしれないし、悪口言い合える仲だったのかもしれないし。

 

まあ、本多正信は基本他の徳川家臣から嫌われてるので、ほんとにこんなにいろんな人から悪口言われてる史料がある人いないよ、ってくらい。

 

松永久秀は本多正信を褒めてるけど、この人に褒められるのは逆に恐ろしい。

 

なので本多正信が他のキャラと仲良くしてるシーンがあると大丈夫なのかと思ってしまうけども、あれだけ悪口言われてるのに打ち解けてたら和気あいあいの賑やかな家臣団なんだろうな、ってほっこりしますね。

 

本多忠勝も、戦場で傷ひとつ負ったことがなかったのに小刀で指を切ってしまって隠居を決意したと言われてたり、それが死ぬ数日前の話で死期を悟ったとか言われてますが、ドラマではだいぶ早い段階で切って老いたことを知り、自分が死んだ後も敵対する者ににらみをきかせるために強そうな肖像画を残すっていうふうに描かれていました。

 

11年間の移ろいを、関ケ原が終わってから本多忠勝と榊原康政が死んでいくところに視点を置いて描くのは斬新で、哀愁と感動があって良い演出だと思いました。

 

関ケ原が終わってからのこの二人って、セリフでもあったけど政治の中心から遠ざけられてる感じもあるし、歴史を描くっていう点では幕府がどんな新しい制度を作っていったかとか、家康と秀忠が政治面でちょいちょい対立したり、家康が出した政令に後から秀忠が同じ政令を出したりの部分が中心になることが多いから、その辺を描かずに大名となって家康から離れてしまった人物を通して見るのは新鮮ですね。

 

秀忠は見方によって人物像が大きく変わるキャラなので、今回のほっこりキャラもまた新鮮です。

 

関ケ原の遅参やこの後の大坂の陣での指揮のまずさから無能キャラにされることも多く、だけども二代目をゲットするために策謀を巡らしたり家康に対抗したりの陰湿キャラだったり、3代目の家光に尊敬されてないことからやっぱりあまり良くない人のイメージもありますが、実績からするとしっかり二代目の努めを果たしているので政治面では有能なのかな、と思ったりします。

 

切腹した長男信康も、養子に行った次男秀康も家臣や諸将からの評判が良かったので、それに比べると、っていう部分も大いにありますが、そういうところを上手くついた良い人キャラの作り方で、これはこれで美味しいポジションのキャラができてると思ってます。

 

いろんな物語の秀忠キャラから、秀忠が出てくると悪いこと企んでるんじゃないかと思ってしまいますが、単に無邪気っていう。

 

家康を悪くしないように描いてるから秀忠も悪くしないようにしてるのね。

 

次回は二条城の会見から大阪の陣へ繋がっていく話だと思いますが、家康が悪くならないようにどう描くのか、乞うご期待です。

 

次回もお楽しみに!