aho
お出かけできないほど寒くなったNY。
でもめげずに作文教室に行く。
近所の語学学校が無料でやっている、外人向けクラスである。
スペルミス、文法間違いにメタメタ赤を入れられるし
「面白く書こうとしてるけど面白くない」とか

酷評されるけど、シゴトと逆の立場になるのが快感(?)

その日は、いつもの白髪じいさんと違うセンセイ。
すんごくお洒落な若い黒人女性・エミリー(仮名)なのだが、
すんごく態度が悪い。
はじめて来た人には聞き取り不可能と思われる早口で手順を説明し、
プリントは投げて寄越す。
「わたしは本当はシンガーで、食べるために語学学校のセンセイを
やってる。外人に英語教えるなんて、超ツマンナイ仕事。

その給料も十分じゃないのに、ボランティアで作文ワークショップまで
やらされて…ブツブツブツ」

態度が悪い人に、いちいちムカついていたらNYでは暮らせない。
なのにエミリーの「本当のわたしは~」発言に、怒り脳(?)が噴火。
5年に1回くらいしか怒らないと言われるノラ編集者。
(顔が地味すぎるため、怒っているのに相手に気づかれないことも多い…)
だが、数年に1度、じつに些細なことで怒りはじめ、
かつ1回怒ると数日間、立て続けに怒りまくるという困った性質がある。

……エミリーちゃん~、奴隷じゃあるまいし、縛られて薬うたれて
無理やりセンセイにされたわけではなかろう。
理由はどうあれ、やると決めたのは自分なんだから、黙ってやるべし!
本当の自分と今の自分が乖離しているなら、人に文句言わずに精進せい!

冷静になると、なんか明治の爺さんみたいなクサイ&つまんな~い説教なのだが、
なにせ怒り脳が発火中なので、文句がフツフツ沸いてくる。
怒っていると陳腐な正義(?)を持ち出すのも悪い癖らしい。
人に説教する輩だけにはなりたくないし、この場で怒るわけにいかないから
ちょうどいいや、これを作文にしようか……と思ったが。

ストレートに書いては文句になる。抽象化しないとエッセイにならない。
「スレイブ」って使い方が微妙だが、出だしはこれじゃないとパンチがない。
あれこれ考えているうちに、怒りもしぼみ、テーマもしぼむ。
結局、「わたしとお酒」という世にもツマンナイ作文を書き、
エミリーに鼻で嗤われながら、雑に赤字を入れられる羽目に……とほほ。

そして翌日。
小鳥のように小食な日本人A子ちゃん(仮名)とヴェトナム料理屋へ。
大酒は飲むけれど、やはり小食なノラ編集者。
この店によく来るのも量が少ないから。
「昔はバクチも女もやりましたが、今は地味な店員ッス」という感じの、
ヤサぐれた髭の店員とも顔なじみである。

注文しようとすると、ニューフェイスの店員が髭店員を押しのけてやってきた。
ドナルド・トランプみたいな髪型、パグ犬と出版社の営業を掛け合わせたような顔、
「コンニチハ!ニイハオ!ヨボセヨ!」と小太りの身体をへらへらさせる俗っぽさ。

われわれがオーダーしたのは、サラダとビールとヴェトナムふう生春巻き、
ひと口牛肉の葡萄の葉包み、海鮮フォーと牛肉フォー、すべて各1つ。
ところがトランプおやじ。ビール&生春巻きに続いてフォー2種を各2つ(計4つ!)、
牛肉の葡萄の葉包みでなく、牛肉定食2つ(!)をいそいそ運んできた。

文句をつけると、トランプおやじの態度が豹変。
「オマエらのオーダーが間違ってたんや!」

いつもなら、それもそうかなあと思ってしまうのだが、怒り脳発火中である。
「仮に間違ってても、プロの店員ならアジア女性が主食を4つも頼まないくらい
気がつくでしょ!」
と応戦。英語めちゃくちゃでも、こういうときは迫力が出て良しと勝手に納得。

A子ちゃんは突然、別人となったノラ編集者に怯え、流暢な英語で折衷案を提示。
「フォー2つはキャンセルしてほしいけど、牛肉定食はテイクアウトにして」
ちっ、喧嘩できないじゃん。おやじも納得しちゃうし……。

不満を残したまま、がぶがぶビールを飲んでお勘定。
するとトランプおやじ、「チップが少ない!」とごね出した。
本当ならチップなしにするところを、A子ちゃんが言うので、つけたのだ。
おおっ、喧嘩上等!

ちょっと目を輝かせていたら、「***!**!!**!!!」と叫び声が。
髭店員がツカツカとやってきて、ヴェトナム語でトランプおやじを罵りはじめた。
トランプおやじも負けじと応戦。
しまいには、奥の厨房からコックも出てきて、わめきあいの大喧嘩。
「よかったね。わたしたちのために文句言ってくれたんだよ」とA子ちゃん。
よくないっすよ。ヴェトナム語じゃ喧嘩に参加できない……。

こうして怒りはふたたび不発に終わり、
翌日、持ち帰りにした牛肉定食(★11ドル)をレンジでチンして食べた。
意外とおいしくて……ムカツク。
love
しばらくPCを立ち上げないと困る……のは、
大事なメールを待ってるからじゃない。

死ぬほど大量に来るジャンクメールで、
サーバーが詰まっちゃうのが困る。
英語も日本語も、ノラ編集者には必要ない誘いばかり。

「バレンタインだもん、誰かわたしを慰めて♪」(日本語)
「きたるバレンタイン!男たるものバイアグラ!」(英語)

……知らんがな。

「バレンタインに大騒ぎするなんて日本だけ」と聞いていたが
ところがどっこい、チョコ買ったり下着買ったり、
男女双方、ときには親子とかで贈りあうぶん、
デパートもカードショップも賑わっているようである。
「彼氏を連れてヨガに行こう!」なんてポスターまで…。

しかし60年ぶりの大雪だった、この週末のNY。
ギフトショッピングに出かけた人はどれだけいるのだろう?

アンチ・アニバーサリー主義を標榜するノラ編集者、
当然、大雪を押して人のためにチョコなど買いにいくはずがない。

土曜日は前からの約束で知人とジャズを聴きに行ったものの、
(★ヴィレッジ・バンガード 1ドリンクつき35ドル)
すでに吹雪となってきたので、日付が変わる頃、早々と帰宅。
しんしんと降る雪の中、明日はゆっくり朝寝を楽しもう…と床に着いた。

夜中でも叫び声やクラクションが聞こえてくるマンハッタン。
なのに今夜は、雪がすべての音を吸いとったみたいに深い夜…。
というのは、嘘。

けたたましく電話が鳴り響く。
呑みの誘い?それとも時差がわかんなくてかけてきた誰かだろうか…?

電話の主は「ハ~イ」。
英語。午前2時。お決まりのエロ電話。
迂闊にとってしまった自分に舌打ちして、叩き切る。
鳴る。切る。鳴る。切る。
その応酬をくりかえすうちに目が冴えてくる。
ちょっと切らずに黙って聞いてみる。

「キミは英語を勉強してるんでしょ。僕と話せば勉強になるよ。
キミはスタディ・ハード。ボクの***もハード」
…あのう、おやじギャグにしか思えないんですが…。

ようやく電話が収まり、窓の外を見る。
降りやむ気配のない横殴りの雪。
底じゃないけど、夜が白くなっている。
ベッドに戻り、夢の中へ…というのは、つかの間。

再び電話。なぜか反射的にとってしまう。
「こちらは電話局です」
「???」
英語。さきほどとは違うが、男の声。
「あなたの電話料金が、当社の規定を超えてしまいました。
回線を維持する操作が必要です」
…寝ぼけているので時間がわからないが、もう朝なのだろう。

電話会社と名乗る男は続ける。
「ハイ、簡単な操作なので、今から言うキーワードを繰り返してください」
「はあ」
「ぷりーず」
「?」
「かむ」
「?」
「まいく」
「???」

なんのことはない。「マイク、来て来てえ~ん♪」
…と言わせるためのエロ電話だったのである。
ようやく時計を見れば朝の7時。
かむ、にエロティックな含みを感じないニッポン人だから、
それくらい哀れなマイクくんに言ってあげてもいい……
はずがない。
「****」と言って叩き切る。

携帯と違って固定電話は電源切れないからなあ、ったくもう…。
怒っていて、気がついた。
モジュラー抜けばいいだけじゃん…。

「****」と自分に言って、二度寝する。
雪は、午後まで降り続いた。


川端 康成
雪国
pucci
いつの間にか大量に溜まった雑誌の
スキマから出てきた茶色の紙袋。
なかにはビリジアン、ミントグリーン、
若草色、カーキなど、緑系統ばかりの
クレパス8本。

年末にセントラルパークの東86丁目の
Neue Galerieに行き、
★www.neuegalerie.org 
エゴンシーレの人肌の緑づかいに感動して
購入したのに、ひと月以上も忘れてる…。
10代までは活字より絵が好きだったのにな。

2人もしくは複数で行ったほうが楽しい場所と
1人で行ったほうが愉しめる場所があって、
ノラ編集者にとって後者は、美術館と買い物。

美術館は、みるペースが人によって違うので
合わせるのが難しいし、
感想や薀蓄をその場で語り合うなんて、
恥ずかしくて耐えられない。
そのうえ「一日に種類の違う絵をたくさんみると台無し!」
だと信じているので、
「大美術館を制覇したい!」という人といくと、テンポがあわない。

もうひとつの買い物も、人と行くとやはりテンポがあわない。
買おうかどうしようか迷って、一度店を出て戻って、
似合う~♪とか、かわいい♪とか、見え透いたお世辞を言い合う…といった
買い物自体を行事として愉しむ女性特有の娯楽が、性に合わない。
男性を連れて歩くのも、趣味じゃない(第一相手もいない)
だいたい即断即決なので、買い物自体が早すぎるし。

唯一ゆっくり愉しむ買い物が、古着屋めぐり。
いつ作られたかとか、ラベルが取れてるけどフランス人のある姉妹が
1920年に立ち上げた小さなブランド(今は潰れた)だろうとか、
これを着ていた人は10代の終わりだったはずとか、くだらない話を
思う存分、店の人とするのが醍醐味なので、1人のほうが楽しめる。
(というか、誰も付き合いたがらない…)

そんなノラ編集者が待っていたのがこの週末。
アメリカの古着屋が年に数回NYに集まる、
マンハッタン・ヴィンテージ・ショー。http://www.manhattanvintage.com

行き付けの有名店もイッキに見られるし、地方からもくるし、
ふだんはネット上にしか店がない業者もテナントを出すので、
当然、朝から晩まで入り浸る。

そして案の定、ヴィンテージ・プッチを購入(★350ドル)。
1960年代はじめのものが格安で入手できたことに感激。
ラクロワがデザインしている今のプッチはただのファッションだが、
昔のプッチは本物のサイケデリックだ…。
と感慨にふけりつつコーヒー休憩。

まわりはお洒落な人や古着フリークでいっぱいなので、
人間ウォッチングも楽しんでいたら、男の声が。
「あのう、この席あいてますか?」

ネルのチェックシャツ。黒のナイロンバック斜めかけ。黒メガネ。
もしょもしょの赤毛、推定19歳。
どうみても電車男のアメリカ版みたいな、ダッサーい男。
お洒落フリークみたいな男性&ゲイや熟年カップルはいるけれど、何故キミが?

腰を下ろしてペプシを飲む電車男に話しかけてみる。
「古着がスキなの?」と問えば「ノー」と微笑む。気弱そう。
「で、でも、彼女がすごく好きなんだ。今、その奥の更衣室にいて…」
電車男はバッグからパソコンを取り出し、何か入力している。
あきらかに、古着はおろかファッションにまったく興味がない様子。

ほどなくして、彼女が出てきた。
・・・こ、これはどういうことなのか。
美人!金髪!ナイスバディ!
華麗なるギャッビーのミア・ファローが着ていたような、
すとんとしたパーティドレスを着た姿のまぶしさったら…。

「ご、ご、ごーじゃす。ふぁびゅらす」
感動なのか、どもりながら立ち上がる電車男。
彼女はくるりと回って見せ、値段もゴージャスよ」と言う。
「はうまっち?」と電車男。
「1500ドル」と彼女。
そして沈黙。

彼女は「ねえ、買わないけど脱ぐ前に写真とってよ!」と命じ、
電車男はへっぴり腰ながら、デジカメ&本格カメラの二種で撮影。
その嬉しそうにとろけた顔ったら、ない。

再び彼女が更衣室に消える。
「あなたの彼女、ほんとうにキュートだね」とノラ編集者。
さっそくデジカメをチェックしていた顔を上げた電車男は、
「さんきゅう!!!」
満面の笑顔。

・・・なんだか、そのダッサーイ顔もキュートな気がしてきた。

原 秀則, 中野 独人
電車男 1―ネット発、各駅停車のラブ・ストーリー (1)
kouen
マンハッタンのそこいらじゅうにあるピザ屋で、
昼食を食べながらコーヒーを飲んでいたら、
30歳くらいの白人男が話しかけてきた。

「いやあ、ボク、朝もあなたを見かけて、
今もここで会って、運命ではないかと・・・」


陳腐なナンパか、霊感商法(?)か、誰かと間違えているのか。
・・・いずれにしても、毛虫みたいな下まつげの男とのご縁より、
目の前のピザのほうが大切、というわけで適当に話しておさらば。

ここNY、ナンパがきっかけで恋人に、という人も少なくない。
もちろん、共通の知人の紹介とか同僚・同級生も多いようだが、
「たまたまよく行く飲み屋でケイタイ番号交換して・・・」とか
「電車で話して・・・」とかいう話も、珍しくはないらしい。

歳はともかく独り身、幸か不幸か守りたい操もないノラ編集者。
だが、声をかけてくる人が揃いも揃って、
A)狂人 B変人 C)老人 D)気持ちが悪い人
・・・これって、類は友を呼ぶということ?

深く考えると落ち込みそうなので、お買い物。
2月第1週のNYはタックス・フリー・ウィーク。
110ドル以下の服と靴に限り、通常8%の買い物税がかからない。
「バーゲン品の残りモノを、頑張って漁り給え貧乏人ども!」
(byブルームバーグ市長←大金持ち)
の陰謀にまんまと嵌っているというわけである。

セレクトショップ・ジェフリーで靴を漁る。
日本サイズで22センチの小足に合う靴はない。
&ここの靴は安くても400ドル・・・。

悄然とソファに座っていると、向かいのソファに
無茶苦茶スタイリッシュないい男。
白人の血が大量に入っている黒人と思われるのだが、
しなやかな動物みたいで、はっとするほど美しい。
男はにこりと微笑むと、さりげなく話しかけてきた。

「ここには、よく買い物に来るの?NYに住んでるの?」
「この時間に買い物してるって、学生?」
「呑むのが好きなんだ。ボクもだよ。今度呑みにいかない?」

喋り方から言って、ゲイではない。
男の質問にうっとり答えるノラ編集者。
するとコツコツとヒールの音が。

「ちょっとお~!やだ~!ナンパ!?」
聞こえてきたのは、思いっきり日本語。
丸顔のルーシー・リューみたいな女の子が試着室から出てきて、
ぷんすか怒っている。
ハンサム男は「日本人食い男」だったのである。
どうりで下手な英語に慣れているはずだよ・・・。

邪念を振り払うべく、買い物を切り上げて久しぶりにホットヨガへ。
いつもと時間も曜日も違うからメンツが違う。
いつまでたってもポーズが覚えられないので、
周りの人を見ながら適当にギクシャク動くノラ編集者。
といっても、薄暗闇でやるんで見にくいんだけど・・・。

目が慣れてくると、ひときわ美しい後姿の男性を発見。
ヨガとは思えない、アートのような動きである。
はらりと髪がほどける。肩までのカーリーヘア。
振り向いて汗を拭く。暗がりでも輝く美形のラテン系!

だいたいヨガに来ている男は 
A)地味で思索的 B)イッちゃってそう
C)心臓病でレッスン中の頓死が懸念される樽デブ 
のいずれかだが・・・。

最後のナマステでレッスン終了。
疲労困憊なうえシャワー室が混んでいるためベンチに座っていると、
隣にラテン男が、するっと座った。
男子シャワー室は空いているだろうに、しばらくボーっとしている。

「あなたの動き、アートみたいに ふぁびゅらす でした」
氷川きよしファンのおばちゃんみたいに話しかけるノラ編集者。
「サンキュー」
ラテン男が煌く笑顔を見せる。
アントニオ・バンデラスを若く美しく繊細にしたよう。

見惚れていると、男子シャワー室の扉が開いた。
顔を出したのは、ほとんど寝っころがっていたくせに汗だくな樽デブだ。
つるつるのスキンヘッドを補う胸毛&フセイン髭に似合わぬ可愛い声で、
麗しのラテン男に呼びかける。
「もう誰もいないから、一緒にシャワー浴びられるよん♪ダーリン」

ああ、ゲイカップルもヨガには多いのだ・・・。

「ダーリンに近寄らないでよっ!」
樽デブの熱光線を最後に、男子シャワー室の扉が閉まる。
鏡に映るのは、ドブに嵌った労咳患者の如く汗だく&孤独なわが姿。
回春に効くという、ピンクの服でも買ったほうがよいだろうか?

・・・帰宅途中、セレクトショップSEAGALに飛び込む。
ピンクの狐の毛の襟巻き(出血75%オフセール★250ドル)。
税金8%・・・上等じゃん!
mise
1月29日は中国&韓国の元日である。

アンチ・アニバーサリー主義を返上して、
チャイナタウンに爆竹見にいこうかしらん?
…一瞬、思ったけれど、土曜の夜から再び発熱。
熱があるときに見るたぐいの夢を見る。

ひきこもって
★A Million Little Pieces(12ドル)を読み、
飽きるとネットを眺める繰り返し。
なんだか、ダメダメ気分が盛り上がる。
ときどき、窓から顔を出して外を眺める。
人通りが少ない・・・今日のNYは雨。

これってまさに、
①情報の入手につとめる。
②大勢の人が集まる場所に行かない。
③周囲の状況に注意を払う。

ビンラディン声明に対応した「テロにご注意くださいメール」
(by 在ニューヨーク領事館)を図らずも守っていることになる。

「テロ事件が発生した場合の対応策を再点検し、
状況に応じて適切な安全対策が講じられるよう心掛けてください」
…件のメールは、こう結ばれている。
しかし、こんな100%意味のない注意事項を送ってくるのは、いったい?
とことんアタマが悪いのか、世間話のつもりなのか、訝る。

訝っていると、実家の母からメール。
「・・・これから江ノ島に行きます」
日本時間の、朝6時である。

デジャブ、いや、同じようなことが以前にもあった。
彼女から「今、江ノ島にいるの~」と電話があったのは何年前だったろう。
木村拓哉と常盤貴子の薄気味悪いドラマ(タイトル失念)を放映していた頃だったと記憶する。
カリスマ美容師のキムタクと身体障害者の常盤が恋をし、
最後は常盤が死に、キムタクが気取りまくるような筋だったと思う。

「あのドラマを見ていたら、わたしはもう、こんなピュアな恋なんて
できないんだわ、そう思って悲しくなって海を見に来たの~。寒いわ~」

わが母は、滅多に電話をかけてこない。
なのになぜ、仕事中にそんなことを言ってよこすのか?
それを訴えて、娘にどう反応してほしいのか?
「寒いなら帰れば?」
校了中だったこともあり、邪険に言い放ったノラ編集者。
「だってママ、おにぎりもってきたから。食べ終わらないと帰れないもの」
「……」

…もう恋ができないことを悲しんでシーズンオフの海を見にきたなら、
なぜ、手作りおにぎりを持参する?
なぜ、それを一人、残さず食べる?
冬の海でおにぎりを食う、樽のように太ったおばさん・・・。

今回も大方、同じ状況だろう。
「何かドラマを見ましたか?」
速攻で、愛想のかけらもないメールを返信。
「輪舞曲です」チャットのごとく母から返信。
ヤフーニュースで報じられていたチェ・ジウのドラマらしい。

「またおにぎりを、もって行くのですか?」
再びメールを打つと、
「おいなりさんにしました。油揚げに味が沁みるあいだ、
退屈なのでメールしています」
と返信。
(彼女はケータイメールを愛用している)
「あ~おいなりさんが食べたいです。わたしは風邪でつらいです」
と返信。すると、
「そろそろお父さんが起きるので、さようなら」

それから一切、メールは来ない。
大年増とはいえ、彼女にとってわたしは、外国で一人侘しく暮らす娘である。
「風邪、大丈夫?」のひと言を、なぜ打たないのか、訝る。
まあ、大丈夫?とメールで聞かれても100%意味はないけど。
…いったい?

James Frey, Oliver Wyman
A Million Little Pieces