pucci
いつの間にか大量に溜まった雑誌の
スキマから出てきた茶色の紙袋。
なかにはビリジアン、ミントグリーン、
若草色、カーキなど、緑系統ばかりの
クレパス8本。

年末にセントラルパークの東86丁目の
Neue Galerieに行き、
★www.neuegalerie.org 
エゴンシーレの人肌の緑づかいに感動して
購入したのに、ひと月以上も忘れてる…。
10代までは活字より絵が好きだったのにな。

2人もしくは複数で行ったほうが楽しい場所と
1人で行ったほうが愉しめる場所があって、
ノラ編集者にとって後者は、美術館と買い物。

美術館は、みるペースが人によって違うので
合わせるのが難しいし、
感想や薀蓄をその場で語り合うなんて、
恥ずかしくて耐えられない。
そのうえ「一日に種類の違う絵をたくさんみると台無し!」
だと信じているので、
「大美術館を制覇したい!」という人といくと、テンポがあわない。

もうひとつの買い物も、人と行くとやはりテンポがあわない。
買おうかどうしようか迷って、一度店を出て戻って、
似合う~♪とか、かわいい♪とか、見え透いたお世辞を言い合う…といった
買い物自体を行事として愉しむ女性特有の娯楽が、性に合わない。
男性を連れて歩くのも、趣味じゃない(第一相手もいない)
だいたい即断即決なので、買い物自体が早すぎるし。

唯一ゆっくり愉しむ買い物が、古着屋めぐり。
いつ作られたかとか、ラベルが取れてるけどフランス人のある姉妹が
1920年に立ち上げた小さなブランド(今は潰れた)だろうとか、
これを着ていた人は10代の終わりだったはずとか、くだらない話を
思う存分、店の人とするのが醍醐味なので、1人のほうが楽しめる。
(というか、誰も付き合いたがらない…)

そんなノラ編集者が待っていたのがこの週末。
アメリカの古着屋が年に数回NYに集まる、
マンハッタン・ヴィンテージ・ショー。http://www.manhattanvintage.com

行き付けの有名店もイッキに見られるし、地方からもくるし、
ふだんはネット上にしか店がない業者もテナントを出すので、
当然、朝から晩まで入り浸る。

そして案の定、ヴィンテージ・プッチを購入(★350ドル)。
1960年代はじめのものが格安で入手できたことに感激。
ラクロワがデザインしている今のプッチはただのファッションだが、
昔のプッチは本物のサイケデリックだ…。
と感慨にふけりつつコーヒー休憩。

まわりはお洒落な人や古着フリークでいっぱいなので、
人間ウォッチングも楽しんでいたら、男の声が。
「あのう、この席あいてますか?」

ネルのチェックシャツ。黒のナイロンバック斜めかけ。黒メガネ。
もしょもしょの赤毛、推定19歳。
どうみても電車男のアメリカ版みたいな、ダッサーい男。
お洒落フリークみたいな男性&ゲイや熟年カップルはいるけれど、何故キミが?

腰を下ろしてペプシを飲む電車男に話しかけてみる。
「古着がスキなの?」と問えば「ノー」と微笑む。気弱そう。
「で、でも、彼女がすごく好きなんだ。今、その奥の更衣室にいて…」
電車男はバッグからパソコンを取り出し、何か入力している。
あきらかに、古着はおろかファッションにまったく興味がない様子。

ほどなくして、彼女が出てきた。
・・・こ、これはどういうことなのか。
美人!金髪!ナイスバディ!
華麗なるギャッビーのミア・ファローが着ていたような、
すとんとしたパーティドレスを着た姿のまぶしさったら…。

「ご、ご、ごーじゃす。ふぁびゅらす」
感動なのか、どもりながら立ち上がる電車男。
彼女はくるりと回って見せ、値段もゴージャスよ」と言う。
「はうまっち?」と電車男。
「1500ドル」と彼女。
そして沈黙。

彼女は「ねえ、買わないけど脱ぐ前に写真とってよ!」と命じ、
電車男はへっぴり腰ながら、デジカメ&本格カメラの二種で撮影。
その嬉しそうにとろけた顔ったら、ない。

再び彼女が更衣室に消える。
「あなたの彼女、ほんとうにキュートだね」とノラ編集者。
さっそくデジカメをチェックしていた顔を上げた電車男は、
「さんきゅう!!!」
満面の笑顔。

・・・なんだか、そのダッサーイ顔もキュートな気がしてきた。

原 秀則, 中野 独人
電車男 1―ネット発、各駅停車のラブ・ストーリー (1)