1872年にやって来たベースボールは

新橋倶楽部(アスレチックス)の平岡ひろしがスポーツとして

当時の貴族やエリート学生の間で徐々に広がり、

1880年代の終わりごろには、学生たちの競技、

特に旧制一高(一中)は学校のプライドをかけた校技となり、

ベースボールでは先輩の明治学院と対戦し、

一高が敗戦が濃厚になった頃に、明治学院講師インブリーが

垣根を乗り越えて入り、一高応援団が「無礼者!」と殴りかかり、

大乱闘騒ぎになる寸前で、当日の審判、平岡寅之助が間に入り、

一高自治会総代も止めに入り収まった。

 

しかし、試合は中止になり、明治学院が特別講師として呼んだ

インブリーに暴力をふるったところから国際問題になりかけた。

アメリカ公使から外務省に申し入れがあったため、

一高の木下校長が明治学院、外務省に陳謝し、インブリー側にも陳謝した。

そして、一高ベースボール部選手一部謹慎、

岩岡保作らレギュラーメンバーが総退陣して、事件は落ち着いた。

インブリーは大正10年まで日本で明治学院の発展に努めた。

 

前列左が福島金馬投手、中列左から2番目はが中馬かなえ。

 

インブリー事件の後、一高側は大いに反省し

今回は試合中止になったとはいえ、続いていたら敗北だったのは明白だった。

そして、部員たちは一高の名誉を傷つけたとも考え、

5月17日を「屈辱と敗北の記念日」とした。

余ほど、この敗北が一高ベースボール部として悔しかったのか、

それまで、多少遊びの要素があったが、

この日から練習、練習、また練習に日々となり

いつか、明治学院を倒すことを胸に練習に明け暮れた。

 

明治時代の新学期は9月だった。

一高ベースボール部にも新入部員が入る。

そして、11月8日に明治学院と再び対戦することになった。

 

この時、1番二塁手で中馬庚(ちゅうまん・かなえ)が出場している。

中馬庚~ベースボールから野球に~明治野球人の軌跡 ① 

野球という言葉 『中馬庚と正岡子規』

 

再戦も向ヶ岡で行われ、結果は一高(一中)が26対2で大勝し、

学校中が歓喜の嵐になり、選手たちも抱き合って喜んだ!

この結果に都下のベースボールクラブが、新進チーム一高(一中)に

対戦を申し込んできたが、すべてに勝利し1896(明治29)年までに

対外試合38連勝を記録し、日本のベースボール界の頂点となった。

一高野球部史では、この時から「第一期黄金時代」と紹介している。

この時の投手福島金馬は本格的にカーブを投げた。

このカーブは平岡ひろしが岩岡保作に教え、それを福島に教えたと言われ、

一高のカーブは、一高のマウンドを守る投手へと秘儀として伝えていった。

こんなところが、江戸時代のお家伝来という文化にも通じる。

 

一高の「母校の名誉」を前面に出すことで

遊戯としてのベースボールから、体育、武道としてのベースボールになっていった。

 

●一高野球とは

一高野球の凄さは、今では考えられない危険なものだった。

キャッチボールも今は肩を暖めるように、徐々に距離をあけていき

相手の捕りやすいところへコントロールしていくようだが、

一高は、捕ったらすぐに投げ返し、右に左に、高く低く、ワンバウンドなども

投げ合い、それを捕ったらすぐに投げるを繰り返し、徐々に距離を詰めていく。

クイックをどちらかがへばるまでやっていくようなイメージだ。

油断すると怪我をする「投げ合い」は理論ではなく体で覚えていった。

ある意味、精神野球の元祖で、片手捕球は邪道と堅実に型通りにやる。

返球の速さにこだわりを持ち、素手で取り合ったので怪我は当たり前で

「痛い」というのは悔しいので「かゆい」と言ってごまかしたらしい。

 

しかし、他にも敬遠、走塁、バントを使った練習もやっていたので、

当時としては最先端でもあった。

 

当時の一高には俳人の正岡子規も在籍していた。

野球が好きな子規はキャッチャーとしてベースボールをしていて

インブリー事件があった試合も見ている。

しかし、この頃の子規は体調崩しており、歯がゆい気持ちで

母校の敗戦濃厚な試合運びを見ていたかもしれない。

 

一高は1896(明治29)年に第2期黄金時代を迎える。

その時、野球が世の中に大きな影響を与えることとなるのです。

 

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