なぜオレは生きているのか。
そんなこと
考えてどうする。

なぜオレは死ねないのか。
そんなことを考えることに
いったい何の意味がある。

たとえすべてを失っても
この体中の血が枯れ果てたとしても
オレは立ち向かうだけだ。

このオレの運命に。





ご注意
この読み物には暴力的な表現があります。



戦いは終わった。
緑なすこの地球にナメック星の生き物はすべて移動し
悲劇はさけられたのだ。
カカロットとフリーザを除いて。
そして
残された問題も解決した。
解決の方法を教えたのは以外にも
…ベジータだったが。

「ありがとう」

そう言って小さな悟飯は微笑んだ。
輝くような笑顔だった。
やはり感謝せずに入られなかったのだ。
だから素直に握手を求めた、ベジータに。
ベジータは恐ろしい相手である。
悟飯の命を奪おうとした相手である。
しかしともに闘うことによって
悟飯の真っ白な心は
ベジータを受け入れようとしたのかも知れなかった。
かつてはあれほど怖れていた
ピッコロを愛した時のように。

しかし。
おずおずと差し出された彼の小さい手を、
ベジータはピシッと跳ね除けた。
悟飯の顔色はさっと青ざめ
彼は全身をびくっと振るわせた。
ベジータもまた、
不快の色をあらわにした。
眉間に深いしわを寄せ
歯をぎしぎしいわせている。

俺…はこいつらと違う!
なめるな!


ベジータの黒い瞳が悟飯にそう言った。
力いっぱい握った拳を何度も何度も握りなおす。

悔しかった。

あの時。
ナメック星の戦いで、ベジータは死んだ。
不老不死の願いも叶わず、
伝説の超サイヤ人にもなれずに。
絶望のどん底で息絶えたのだ。
ろくに抵抗も出来ないままに
ぼろ雑巾のように穴だらけにされて。
それも無念の涙を流して…。
じわじわと迫りくる死の恐怖。
それにおびえながらベジータは殺された。
フリーザはベジータを一気には殺さなかった。
最後まで意識を残し
痛みを与え
視覚も聴覚もそのままに
なぶり殺しにしたのだ。

そして最後のときにベジータは
カカロットに心を開いてしまったのだ。
自分の無念をあの男に
話してしまったのだ。
惑星ベジータの運命や
サイヤ人達のこと。
自分の弱さをさらけだし認めるとき。
それは無様な自分の本当の姿を晒すとき。
それはベジータの命の終わるときのはずだった。

なのに、ベジータは生きている。
地球という、こんな星の上で。
それも救われて生きている。
ベジータは自分の体を確かめる。
傷一つない体。
確かに生きていた…。

自分が力尽きたときのことはよく覚えていた。
フリーザは途轍もなく強かった。
サイヤ人たちはやつらの手足として忠実に働いていたのに、
フリーザは惑星ベジータを滅ぼしたのだ。
サイヤ人を滅ぼしたのだ。
それを知らなかったベジータであった。

知らずにフリーザの飼い犬になっていたのだ。
この俺が。
俺の記憶がある限り
そのすべての時間のあいだ。

わきあがる、屈辱。

…ベジータは、思い出した。
自分がフリーザ軍に入ったあの日のことを。


旅立ちの日。

その日は、星を挙げてのお祭りだった。
幼い王子のベジータは真新しい戦闘服に身を包んでいた。
王家の証のマントをつけて、彼は大観衆の前に立つ。
彼の後ろではベジータ王とその側近がたっていた。

誇り高きサイヤ人の王子、ベジータ。
一人前の戦士になるべく、いま、旅立つ。
幼い王子は胸を膨らませた。
ベジータ王は何も言わなかった。
息子をもう一度自分の前に招きよせて
ただ黙って彼の頭に手をおいた。
ベジータも黙ってかしずいた。

戦闘民族であるサイヤ人ではあるが
フリーザ軍には誰もが入れるわけではない。
選ばれた者だけが入隊を許されるのだ。
王族であるベジータがこのように幼少にして
もう迎え入れられるというのは
一般のサイヤ人にとって
この上もなくうれしいことなのだ。

空気が熱気で震える。
光り輝く物体が降りてくるのだ。
大歓声の中、フリーザ軍から迎えの船がやってきた。
姿をあらわすフリーザ軍。
王子を迎えにやってきたのは5人ほどのフリーザ軍の兵士であった。
そして。
進み出たのは身長2メートルほどのすらりとした男。
初老の男であった。
整った顔をしている。
髪は銀髪でガラスのように光を放っている。
その美しい長髪を無造作に後ろで縛ったその男は
金色の瞳を持っていた。
まるで神話の中から抜け出たような風貌であるが眼光は鋭く
スカウターの数値から
かなりの戦闘力を持つのが判る。
服装からすると指揮官クラスであると思われた。

「ビスナといいます。」

男は響くような低音で名を告げた。

「王子様をお迎えにあがりました。」

ビスナと名乗った男がベジータの前にひざまづいて
王子の脚にキスをする。
王子があまりに小さいのでほとんど四つんばいになる格好だ。
大男のその姿がベジータの自尊心をくすぐる。
さっと一筋の風が吹き銀髪がきらきらと輝いた。
幼き王子は当然のように胸をはり、もうビスナには目もくれなかった。
もう一度ベジータ王の方を振り向くと
二度と口を開くこともなく
ベジータはさっさと迎えの船に乗り込んだのである。

これからが、戦士としてのスタートなんだ。

王子は自分のこれからの暮らしを思うと胸が高鳴るのであった。
船が浮かび上がる。
惑星ベジータはあっという間に見えなくなった。
そうしてやっとベジータはビスナの顔を始めてみた。
その初老の男は今はベジータを見ようとしなかった。

「オレはこれからどうするんだ?」

問い掛けるベジータ。
しばしの沈黙。

「ついておいでなさい。」

ビスナはベジータにわずかに微笑むと先にたって歩き出した。
ベジータは、初老の男に続いて進んだ。
初めて足を踏み入れるフリーザ軍の母船。
見るものすべてが自分の星よりも文明が優れていると
気がつく王子であった。
何度かベジータはフリーザ軍の兵士とすれ違った。
彼らは皆ビスナに敬礼をした。
しかし彼らにはベジータは見えていないかのようだった。

オレの身分を知らないのか?
まあ、いい。
いずれひざまづかせてやる。

王子は連れられてある部屋の前に立つ。

「ベジータ王子」

ビスナは、抑揚のない声で王子をよんだ。
その金色の瞳はもう輝いていなかった。
そして。
目の前のドアが開かれた。
運命のドアが。

何もない殺風景な部屋。
それは色のない空間だった。
冷たい。
せまく暗い。
窓はなく天井も低い。
なかにはイスくらいの四角い箱がひとつだけ認められた。

「この部屋をお使いください。」

ベジータは耳を疑った。

「オレがか!」
「そうです。
お入りなさい」
「…なんなんだ、この部屋は?」

ベジータが一歩足を踏み出したとたん、

ガシャン!!

音がした!!

「何故ドアを閉める!!」

…ドアのそとでビスナが言った。

「ここにて暫く過ごしていただきます。」
「きさま、なんのつもりだ・・・!!」
「これは彼方がここで生きるためのプログラムなのですよ。」
「ふざけるなっ!!」

ドアに体当たりをする。
殴る。
蹴る。
しかしドアは開かない。全てが無駄だ。

「話が違う!!」

幼き王子は叫んだ!

「バカにするな、ここを、ここをあけやがれ!」

気を高めドアにぶつけようとする。
・・・びくともしない。

「・・・無駄な事はおやめください、王子。」

ビスナは静かに言った。
明らかにベジータの反応を楽しんでいた。

「もう貴方にはどうする事も出来ません。
このドアは私だってこわせない。」
もう一人、違う男の声がした。
「もうおあきらめなさい
…くっくっくっ…、
死ぬかもしれない
…しかし、全てはわが軍のルールなんですよ。
王子様。」

くそっ!!笑いやがって!!

幼き王子の胸は怒りで一杯になる。

感情のままに、わめき、暴れた。
まるでけだもののように。
その振動は、船全体に響き渡っていた。


何も理解できなかった。
何も…。


いつしか王子は動けなくなっていた。
なにもみえない、暗闇の中。
どの位の日々が過ぎたのだろうか。

…腹が減った。

何日も何も口にしていない。
一滴の水さえここにははじめからなかった。
両拳の皮膚は破れ、血が固まっていた。
口びるが割れている。
体の心から乾ききっている。
しかし王子は一言も言わなかった。

助けてほしいと。




部屋にあった唯一のもの。
この四角い箱は便器だった。


やっと王子は理解した。
ここが牢獄である事に。
自分が囚われの身になった事に。

ちくしょう!!
父はオレを売ったのか?
何のために??
何のためにだ!
それとも何か…考えがあったのか?

わかっているのは、悔しい。
ただそれだけだ。
排泄だけの犬以下の暮らし。
何のために?
何のために生きているのか?
それでも。
ぼんやり開いている瞳の奥には、暗く炎が燃えている。

唇を噛み切る。
血が流れる。
声に出せない怒りが、鮮血となって、滴り落ちる。
いま、王子は自分の血液をすすって生きていた。
しかし、激しすぎる空腹で、全く動けない。

…何より彼の王子としてのプライドが傷ついた。

もう、小便さえ、出る気配も、ない。
意識が遠くなる。



ドアの外で、声がした。
ベジータの耳がぴくりと動く。
ロックを解除するらしい音がした。

ギィ。

扉がゆっくり開かれた。
溜まりに溜まったほこりを巻き上げて
何者かがやってきた。


「おや?…いきてやがる」

足音がちかづき王子の頭のところに声の主は止まった。
ぐいっと王子の髪を引張り顔をもちあげる。
生気のない小さい顔が血だらけになっていた。

「サイヤ人てのは所詮、サル野郎だが…丈夫だねえ。
これだけがとりえか」

聞き覚えのない声だった。
その男は、ベジータの髪をわしづかみにし、
体を宙にぶら下げた。
王子の体はだらんと伸びて、ゆれた。

そのとき。

ベジータの目が開いた。

「くそったれが…」

王子はそう言い放つと男の顔につばを吐いた。
突然の事だった。

「なんだ、こいつ!」

男は怒りをあらわにし、
ベジータの髪をつかんだまま、体を壁に打ち付けた。
力いっぱい。
嫌な音がした。
バッと鮮血が広がり、王子の額は大きくわれた。
壁に赤い染みが飛び散った。

「このくそガキがっ!!」

力いっぱい、踏みにじる。
頭を、顔を。
男の怒りは収まらない。

「まだわかっちゃいねえ。
サル野郎の命なんか、この指ひとつでつぶしてやる!」

男の片腕が鈍く輝く出す。

「…もうやめておけ」

別の声がした。
その声を聴いた男はベジータから手を離した。
ベジータはぼとり、と床に落ちた。

「ビスナ・・・様」
「冗談もほどほどにしておけ。
こいつはもう使い道が決まっているんだ。」
「す、すまねえ。
つい腹ががたっちまってよ。
殺しゃしねえよ。」

ベジータの体がピクリ、と動く。

「…ほお。
たいしたやつだ…ガキの癖に。
まだうごけるのか。」

ベジータをいたぶっていた男は、慌てて答えた。

「…どうも、
普通じゃないんですよビスナ様。
これだけ長いこと何も食わずに閉じ込めておいたら、
普通、おかしくなるか死んでるんですが、
この子猿は正気だ。
…これじゃあ、洗脳にならないです。」
「ふむ。
肉体的、精神的にもっと追い詰めて、人格を破壊する。
弱ったところで次のプログラムを刷り込む…、
そうでないと従順な戦士にはならん。
こいつには徹底的にやらねばならないのか?」

ビスナは、足元に転がる王子を蹴飛ばした。

まだほんの子供だ。
幼すぎる。
なぜフリーザはこんな子供を?
…こいつをやるのか。
こんなガキを。

一瞬ビスナの瞳が曇った。
しかし命令にしたがうのが兵士の勤めである。
当たり前のことだった。

「仕方ない、歓迎会を準備しろ。」

王子を痛めつけていた男の顔色が変わった。

「歓迎会ですか?」
「仕方あるまい」

歓迎会をするのか?
こんなガキに。

自分のしたことも忘れて男はベジータを見た。

…やりたくねえな。

男は黙ってその小さい体を起こそうとした。
しかし。
その手を跳ね除けて、
ベジータ王子は力を振り絞って立ち上がった。
目に鮮血が入ってあけていられない。
激しく腹が減り、のども焼け付いている。
何より何度も壁にたたきつけられて、体中がぎしぎし痛む。

「おまえ歩けるのか」
「…当たり前だ。
汚い手でオレに触るな。」

ベジータは、自分で立って、自分の足で歩み始めた。
足元に音を立ててレバーのような血の塊が落ちた。
先を行くビスナは思わず立ち止まって振り返り彼を見た。

何という子供なのか…!

一瞬ビスナに哀れむような感情が湧いた。

…しかし
やらねばならない。
ここはフリーザ軍なのだから…。

王子の戦闘服はすでに真っ赤に染まっていた。
乾いた血が黒く変色しぱらぱらとはがれて落ちる。
全身から、新しい血の臭いをさせて
それでもベジータはたっていた。
サイヤ人の王子らしく。
堂々と。
その血でふさがれた瞳はこびることを知らない。





ベジータは大きな、でもやはり何も置いてない部屋に通された。
ぐらり、よろめいて壁に寄りかかると
グレーの冷たい壁にべったり血の跡がついた。

…なぜ自分がこういう目にあっているのか。

それは考えないことにした。
彼の想いはただひとつ。

無様な真似だけはしてはならない!

たとえこのまま死ぬとしても
サイヤ人の王族らしく
気高く散っていこうと。