ふたつの”Silent Spring” | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

 今回は”Silent Spring”というタイトルの曲をふたつご紹介します。偶然ですが、ともにインストゥルメンタル(器楽)曲であり、90年代初期にリリースされたアルバムに収録されています。

 

 

 

 

 といっても、ます”Silent Spring”―『沈黙の春』についての解説が必要かもしれませんね。

 

 1962年にレイチェル・カーソンが発表した”SILENT SPRING”は、農薬による環境汚染と生物濃縮による野生生物の死滅を訴えたことで大きな反響を呼びました。春の訪れを告げるはずの野鳥の声が聞かれなくなったことを”silent”と表現したのです。

 

 

 

 

 では、こちらを。

 

 

 

 イエス(YES)の1994年のアルバム”TALK”のラストを飾る16分の長尺曲”Endless Dream”は構成上3部に分けられているのですが、その冒頭の約2分のパートが”Silent Spring”と名付けられています。

 

 このパートにカーソンの書名にちなんだ名をつけたのはおそらくジョン・アンダーソンではないかと思います。イエスではデビュー作から”Survival”のようなエコロジー風味あふれる歌詞を書いてきましたし、ABWHや”UNION”期のイエスでも地球環境をテーマにした楽曲を手がけています。

 

 クリス・スクワイア、アラン・ホワイトのリズムセクションによる緊張感あふれるビートだけでもすさまじいインパクトのあるこのパートは、この後14分近く展開される大作の導入部として素晴らしい効果をあげているのですが、残念なことにカーソンの訴えた環境破壊への警鐘とはあまりかみ合っていない気がします。

 アンダーソンに真意を確かめるほかに術はないのかもしれませんが、コンセプトメイカーとしての彼の才気の閃きはともかく、コンセプトを明確な形にすることを得意としない彼のことですからね…”Silent Spring"という名をつけて得意げなアンダーソンと、それを横目で見ながら苦笑するスクワイアとトレヴァー・ラビンの表情が思い浮かぶようです(^_^;)

 

 

 

 

 続いてはこちらを。

 

 

 グレン・フライ(Glenn Frey)の1992年のアルバム”STRANGE WEATHER”のオープニングを飾る40秒ほどの短いプレリュード(前奏曲)もまた”Silent Spring”というタイトルが与えられています。

  イーグルスの2004年のライヴでも、”Tequila Sunrise”の前に短く演奏されていたのをご記憶の方もいらっしゃることでしょう。

 

 

 先述のイエスに比べれば、フライがこの曲に込めた思いはずっとシンプルでストレートです。

 この数年前に体調を崩した彼はコロラド州アスペンに移住しますが、自然豊かなこの地での生活が環境問題に関心を持つきっかけとなったようで、”Silent Spring”はカーソンの著作からインスピレイションを受けた旨をアルバムのライナーに自ら記しています。

 

 そもそもアルバムのタイトルからして「異常気象」(strange weather)ですし、環境問題の他にも貧富の差について言及した”I've Got Mine”や、インターネット時代の性欲の在り方をシニカルに描いた”"Love in the 21st Century”等、現実の社会に根差した題材が多く採りあげられています。もしかしたらフライの中には当時はまだ再結成していなかったイーグルスの「元」相棒のドン・ヘンリーの”THE END OF THE INNOCENCE”への返答という含みもあったのかもしれません。

 

 

 

 

 イエスの曲は1992年頃、グレン・フライの方はその前年にレコーディングされたそうで、リリース時期も約1年違いとあまり差がありません。

 

 2020年代では地球温暖化と気候変動という以前からの問題に加え、人間たちを沈黙に追い込みかねない疫病が今もなお猛威を振るいます。

 

 たまたま自宅のクローゼットを整理して見つけたCDで思い出したこの2曲ですが、こういった曲と、それに込められたメッセージに触れてみて、自身を、時代を省みることもまた必要ではないでしょうか。

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