SO | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:28VB-1088(Virgin) 1986年(国内盤)

 

 

 空腹は最大の調味料と申しますが、趣味趣向も同じです。ボクの場合は音楽、特に最近ではレコードを聴いていないと動悸息切れ、手の震え、幻聴が止まらなくなりヾ(- -;)ヤメロ

 

 以前の記事に書いたとおり、オーディオアンプの買い替えに伴い、レコードを聴くことができない期間というものが出来てしまいましたが、それでも近所のリサイクル店をのぞいて回る習慣は止められず、埼玉の北の端のハ〇ドオフに立ち寄ったのですが、その時にこの”SO”を見つけたのです。

 

 しばらくしてアンプを購入し、時は来たり、いざ!と一躍、自転車を駆って再びハ〇ドオフへ。幸いまだ売れておらず、めでたく入手できました。やや高価でしたが帯・解説付き、ジャケットの傷みもほとんどない盤なのでここは良しとしましょう。もっとズダボロでその分安いものも探せばあるのでしょうか、大阪市街ではなくここは埼玉県の外れなのですから(´_`。)

 ちなみにこのアルバムから3枚ほど離れて置かれていたのが前回ご紹介したマイルズ・デイヴィスの”GET UP WITH IT”でした。ホンマにビビりました(^_^;)

 

 

ジャケット裏にアルバムタイトルとアーティスト名。そう、ジャケット表はゲイブリエル御大のカットのみなのです。偶然にも前回ご紹介したマイルズの”GET UP WITH IT”と同じ構図です。

解説、訳詞付きのライナー。

内側には原詞。

よく見ると

こんな表記が。ゲイブリエルならこういうお遊びをもっと盛り込みそうなものですが、ここはあえて我慢したのかも。

帯もついています。

リリース当初はそれまでの作品”PETER GABRIEL”につけられた”Ⅰ~Ⅳ”を踏襲した”Ⅴ”が付けられています。正式タイトルの”SO”が定着した今では誰もⅤとは呼ばなくなりました。

 

 

 

 

 ピーター・ゲイブリエルの音源をコンプしていない後追い世代のボクがあれこれ書くのもよくないのですが、それでも、この”SO”が当時のチャートをにぎわせた大ヒットになったのがよく分かります。

 

 楽曲がヒットとなり商業的な成果を得るにはオンタイム‐時流をうまくつかんだ部分と、タイムレス‐時の試練をものともしない普遍的な要素の両方が必要である、とボクはつねづね考えています。

 

 その点で”SO”はやはり、非常に高水準な作品ではないでしょうか。

 オンタイムな要素として挙げられるのがプロデュースを含めたサウンドのディレクション、その一貫性です。

 今の耳で聴くと派手すぎ、バシャバシャしすぎな感もあるリズムマシンやシーケンサー、エレクトリックドラムですが、整ったオーディオ環境で聴いてみると高音域のバシャバシャと上手く釣り合いがとれるように低音域の楽器‐バスドラムやピアノの低音を過不足なく配しているのが分かります。

 パッと聴いたときにも印象に残る強い残響感(リヴァーブ)も、よくよく聴けばうまくコントロールされており、音像がフニャフニャになってしまわないよう配慮されています。

 

 一方でタイムレスな要素としては、ゲイブリエルの硬骨で真摯なスタンスが挙げられます。

 かつて所属したジェネシス(GENESIS)を

 

スターを意識した自己を反省したい

(LPの解説より)

 

 という理由で脱退し、玄人受けな路線ながらソロ作をリリース、並行してWOMADというフェスを開催と精力的な活動を続けてきたゲイブリエルの、内省と自問自答の果ての「吹っ切れた」感が、楽曲でいえば”Sledgehammer””Big Time”に込められています。

 対して、ヒリヒリするような緊張感の”Red Rain"をオープニングに置き、ケイト・ブッシュを招いた”Don't Give Up”で見せる深い内省、”Mercy Street”における弱者へのまっすぐな眼差しを隠しもしないゲイブリエルに、ボクは真の表現者‐アーティストとしての背骨を見るように思います。

 

 ただ、このアルバムの質感を決定づけるほどのウェイトを占めるのは、長きにわたる共演で今やゲイブリエルの片腕となったベーシスト、トニー・レヴィン(Tony Levin)、正確には彼の鳴らすミュージックマン(MUSICMAN)社のエレクトリックベース、スティングレイ(Stingray)だとボクは確信していますが、長くなってしまうのでこれについてはまた別の機会に。

 

 

 

 

 ”SO”のリリースから30年以上が経ち、その間にオーディオ機器もワイドレンジ化が進んだこと、またデジタルリマスターによる音質のアップデイトも絶えず行われるようになりました。

 アナログLPのレビューでこのようなことを書くのも変な話ですが、リアルタイム派の皆さまも、ご予算と心に余裕があればオーディオや音源‐CDやSACD、配信データ等をいちど見直してみると、かつて散々聴いて飽きてしまった、または当時の音が気に入らなくて聴かなくなってしまったアルバムにも新たな発見があるかもしれませんし、”SO”はそのサンプルとして最適な作品といえます。

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