~味方の砲撃~
~味方の砲撃~
軍用機GA-α1.3に連行されてきた若者達の姿が、コックピットに現れた瞬間、ジーゼルマッフルとベントンは言葉を失った。
「ジル!」
床に下ろされた三人の若者達と、もうひとりの爬虫類の生き物はいまだ目を開けられずにいる。
「一体どうなっているの?!ベントン!」
ジーゼルマッフルがまだ信じられないという風に、彼らの傍に座り込み、ジルの額をそっと撫でた。次の瞬間、ジルの瞳がカッと見開いたかと思うと、上半身を起こして辺りを見回した。
「ジーゼル!なんでお前ここにいる?」
「ジル・・こっちが説明を聞きたいわ・・・」
ジーゼルマッフルが、ジルの無事を確認してほっと安心すると、優しくジルの体を両手で包み込んだ。
「やめろよ!」
ジルがジーゼルを押しのけると、ベントンが手を差し出したので、ジルはその慣れ親しんだ黒い手をしっかと掴んだ。
実はジーゼルと、ジルは、同じ屋根の下で育っている。ジーゼル=マッフルは、戦争孤児で、孤児院にて育った。彼女が9歳の時、その抜きに出た頭脳を遺伝子調査から知ったマーク=ギンガメルスガンデが、彼女を書生として貰い受けに来ている。マークギンガメルスガンデは、こういった孤児を引き取り、養子や書生として数多く育て上げているが、どの子どもも素晴らしい成長を遂げ、各界で活躍している。
特に、ジーゼル=マッフルにおいてはその並外れた知的才能と、運動神経、美貌がギンガメルスガンデに愛され、ジルとほとんど、同じ環境で育てられた。ジルとは年が離れてはいるが、ジルにとっては姉のような存在であり、常に比較される、目の上の瘤でもあったわけだ。
「これはどこだ?ベントン!」
ジルの声で、トーマスが起き、ジェットタクシーの運転手も起き上がる。セルフィードは伸びたままだ。
「軍用機GA-α1.3ですよ、坊ちゃん。一体どういうことですか・・・呆れて言葉も見つかりませんよ。」
「いいか、ジーゼル、お前もよく聞け!」
大統領代行に、このような口調で話すことができる境遇にあるのは、ただ一人しかいない、と軍用機GA-α1.3の乗組員たちが漸くジルの身分を理解し始めた。
「今、俺達はメーギルと、メーギルの母親を救出してきた。ある場所に匿ってきたが、それはここで言えない。その場所は大変危険だから、ラスポタニテの軍を今すぐ向け、彼らの身の安全の確保を保証してくれ。」
「なんですって?!」
ジーゼル=マッフルが驚きの声を上げた。
「じゃあ、どうして、私たちに攻撃を仕掛けてきたの?」
「俺達は、今、ロームキンに囚われの身となっているゴルドンを救いにTDSAに向かっているんだ。だが、TDSA強引に突破しなければ無理だろう?ジーゼル、こんなとこでぼけっと突っ立っていたって、何の役にも立たないぜ!さあ、突っ込むんだ!TDSAに乗り込もうぜ!」
「ゴルドン?」
「例の、フィールドゲートを突破した若者ですよ。」
ベントンが説明を加える。
「11番目の庶子ね。でも、彼がどうしてTDSAにロームキンと?全く話が繋がらないわ。」
「ゴルドンは例の異星人が欲しがっている、最後のベクトル王朝の生き残りだ。取引に使うんだろう!見た目だけでなく心もいやしい奴だ!」
「なんとなく、わかったわ。でも、ジル、わたしもあなたと利害は一致しているようね。」
ジーゼルマッフルが微笑んで、ジルの頭を撫でようとするがジルはそれをさっと躱す。
「全艦、フィールドゲートを完全に包囲しなさい!」
ジーゼルが大声で叫び、ジルが彼女を見つめる。嫌いではない。血こそ繋がってはいないもの、美しく賢い彼女を尊敬してやまない。しかし、彼女の、父を見つめる目が、娘を超えていることに気づいてから、彼女を疎ましく思うようになってしまった。父との関係を疑ったこともある。ジルの母とて同じ気持ちだったに違いない。父親の女性関係は他にもいろいろ聞くが、ジーゼルのことだけは、本能的に許せないものがあった。問い詰めようと思ったこともある。ただ、時に、真実を確かめることは恐怖でもある。
軍用機GA-α1.3は、強引に閉ざされたフィールドゲートの第三シャッター前に落ち着くと、フィールドゲートを指揮する、ボッホ大佐に通信を始めた。ボッホはジーゼルの士官学校の教員でもある。
「ボッホ大佐、ご無沙汰しております、ジーゼルマッフルにございます。」
ビジョンの前でベントンと敬礼する姿は、昔の上官にする姿勢と何ら変わりない。しかし、今となっては、軍においてもジーゼルが上位となってしまった。
「ジーゼル閣下、どういうことか、ご説明願いたい。」
穏やかな顔でビジョンに話すボッホに、ジーゼルは表情を変えず続ける。
「我々は、この度のTDSAの協議が尋常で無い事態を察知し、ここを突破し、ギンガメルスガンデの護衛をいたいと思っております。」
「わたしの任務はここの安全と平和を守ることだよ。命に代えても、ここを通すわけにはいかない。」
ボッホの決意は固い。昔から、そういう男だ。頑として、梃子でも動かず、決めたことは何があっても貫き通す。
「では、残念ですが、攻撃態勢に入ります。」
「ジーゼル君、君は間違っているよ。」
「いえ、私も、ボッホ大佐も間違ってはおりません。ただ、ボッホ大佐は認識不足なだけです。しかし、残念なことにここですべてを説明し、証明するには時間不足なのです。私を信じてどうかご理解ください。私が過去に、大佐に嘘偽りを申し上げたことがありましょうか?!」
ジーゼルマッフルが合図を送り、首座のテリー軍曹が、本当にいいのか再びジーゼルの顔を見るが彼女の決意は固い。テリーがパネルをタッチした。
「ジーゼル様!」
ベントンが信じられないという顔で彼女を見つめた。
ドオオーーーーン!
至近距離から撃つレーザ砲により、第三シャッターに穴が開く。
「本当に打った!」
ジルがジーゼルの顔を見上げた。トーマスも、ジェットタクシーの運転手も、慌てて窓に近づき、初めて見る宇宙の砲撃に震え上がっている。レーザ砲で空けた超金属のシャッターに開いた穴の淵は、ドロドロと生々しい音を立てて黒く溶け続けている。ビジョンの様子で、フィールドゲート内が大混乱に陥っていることは推測できたが、動じずに大佐が対話を求める。
「ジーゼル君!君は、自分のやっていることが何かわかっているのかね?!」
ビジョンが乱れ交う電波によって、雑音を吐く。
「ご理解できていないのはボッホ大佐です。私は、惑星ラスポタニテの大統領を守る、それだけの目的でやってまいりました。これでもまだ我々を通していただけないのなら、再び砲撃します!」
「ここは、全世界で取り決めた平和条約機構だ。君は軍の力でそれを犯そうとしている!それはどういうことを意味しているのかわかっているのかね!平和の崩壊だよ!君は、世界の秩序を乱す、張本人だということだよ!」
「大佐、このトールドーン星系に、すでに平和はないのです。我々は、これから地獄のような戦争の時代へと突入していくのです。」
「どういうことだね?!」
大佐の求めに応じないまま、ジーゼルマッフルは第二砲を撃とうとしていた。
その時!全てのビジョンが入り乱れ、真っ暗となり、見慣れぬ画像が紛れ込んできて、ボッホとジーゼルの対話を寸断した。
画面に映し出されている見慣れないその男の姿は、紛れもなく、あの異星人、ピーンハリ=ルーゼンである!
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