人類の共感力の低下によって生まれている世界的な「怒りの時代」
Decline in Human Empathy Creates Global Risks in the 'Age of Anger'
【Financial Times】
 

 

https://convergecoach.com/3-ways-to-escape-the-trap-of-isolation/

 

 

 

テクノロジーが進化した社会で強まる孤独感

 

お互いがデジタルにつながりあったこの現代の世界に、孤独で怒りを抱えている人の数が前代未聞なほど増えています。テクノロジーが原因で人類の共感力(empathy)が低下しているのでしょうか?

 

今日の経済で相互間の繋がりが拡大する中、分離され、孤独であると感じる人の数が増加するという、新しい世界的な現象が起きています。

 

テクノロジーは働く場所に革命的な変化をもたらし、物質的、デジタル的、そして生物的な世界の段階的な融合がビジネスや社会における前例のないチャンスを生み出しました。

 

チューリッヒ保険グループとの協力により、世界経済フォーラムが2019年に発表したグローバルリスク報告書によると、テクノロジーの変化には常にストレスを伴っている一方で、第4次産業革命は特に人間とテクノロジーの境界線を曖昧なものにしているところが際立っています。

 

この境界線が曖昧になった結果、孤独感や分極化が進み、それに合わせて共感力が弱まりました。そして以前のグローバル化の波とは異なり、不満感は仕事を失った人たちに限定されたものではありません。ビジネスリーダーにとって必要なのは、従業員や顧客の懸念に答えることができるオープンさと多様性の社風を作り出すことです。チューリッヒ保険グループのジョン・スコット氏は「多くの人が持っている不安感に答えることができる、新しいテクノロジーやグローバル化の管理方法が必要となるだろう」と話しています。

 

テクノロジーが社会に与える影響

 

テクノロジーは、怒りや孤独感のレベルが上がっている要因として複雑な影響を与えています。
グローバルリスク報告書によると、最近の調査で「孤独感や社会的孤独の大きな原因はテクノロジーである」と答えた人は、アメリカで58%、イギリスで50%となっています。

 

しかし同じ調査の中では、ソーシャルメディアは「有意義なスタイルで他の人とつながること」を容易にし、また孤独な人はもはやソーシャルメディアを使用していない場合が多いことも明らかにされています。

 

またデジタル技術の普及は、職場と家庭の境界線も曖昧にしています。仕事関連のEメールは、始業時間の開始前に始まることが多く、終業後もずっと長く続ています。2016年のピュー・リサーチ・センターの調査によると、アメリカの成人の3分の1近くが自分のスマートフォンの電源を切ることがないということです。

 

仕事上のプレッシャーが私生活により一層、侵食しているにもかかわらず、人々は昔のように家族によるサポートを受けることができない場合が多くあります。イギリス国内の単身世帯の割合はこの50年に2倍近く増加していますが、アメリカやドイツ、日本でも同様に増加しています。大都市の首都では孤独な生活をする人の数はさらに高くパリで50%、ストックホルムで60%、そしてマンハッタンのミッドタウンでは世帯の94パーセントが独身となっています。

 

都市化は社会的な絆を弱めますが、これは都市だけではなく、また移住労働者が離れた地方での地域社会や家庭においても、社会からの孤立が増加傾向にあり、これは先進国と発展国のどちらにも共通しています。そしてイギリス内閣府が発表した調査によると、イギリス国内で孤独を感じる人の割合は2014~2016年の17%から2017年には22%と増加しており、また孤独を一度も感じたことがない人の数は激減しているということです。

 

この数字は、親しい友人の数を調査したAmerican Sociological Review内の研究の結果を反映しています。1985年に、親しい友人の数は2.9人だったのに比べ、2004年には2.1人となっています。親しい友人が一人もいないと答えた人の割合は、同じ時期で3倍に増加してます。

 

前述のスコット氏:人々は強く感情面での孤独を感じています。多くの社会において、家庭や家族とのつながりは、ある意味で崩壊しているといえます

 

「これはまた人口統計学にも関連していると思いますが、若い人たちはテクノロジーやソーシャルメディアにより精通しており、チャットボックス(chatbot)を通じてデバイスに話しかけるのが普通な世界に暮らしています。これはあらゆる種類の恐怖感や失望感を生み出す可能性があり、その失望感が怒りとして表現される場合もあるでしょう」

 

政治に与える影響

 

孤独感や失望感が、一般大衆向けのアイデンティティ政治(性や人種、障害など特定のアイデンティティに基づく政治)に出会うとき個人の精神的・感情的問題集合体としての懸念になり、「怒りの時代(age of anger)」という新しい現象となります。このような傾向は、地政学的の安定に対する顕著な脅威となりえる、とグローバルリスク報告書は記しています。

 

前述のスコット氏:「個人は自らの問題に害を与えるだけでなく、例えば政治や社会、テクノロジー、そして環境問題で分裂を引き起こす可能性があり、個人レベルよりも広範なシステマティックなリスクを増長する可能性があります」

 

共感力の低下は、裏付けがあります。Personality and Social Psychology Reviewで発表されたアメリカ人学生による研究では、1979年から2009年の間に、共感力のレベルが48%低下していることが明らかにされています。

共感力の欠如が増加している原因としては、例えば物質主義の増長や育児法の変化、また考え方の近い人同士が集まってつながりあい、特にデジタル世界内で、同じ意見ばかりが繰り返し反響される閉鎖的な環境(エコーチェンバー現象)などが考えられます。

 

このようなエコーチェンバー現象は、ソーシャルメディア上で最も顕著になっています。また恋人探し用のプラットフォームで用いられるマッチング手法もまた、社会的なつながりを弱めていることも研究者らによって確認されています。

 

ネット上のつながりでも共感が伴うものの、現実世界での交流と比較するとネット上の共感力は6分の1であると研究者が示唆していると、グローバルリスク報告書は強調しています。しかしテクノロジーが共感力に与える影響は、マイナスなものばかりではありません。バーチャルリアリティーは「共感力の原動力」となり、また感情に反応するロボットが、特に介護関係の環境において孤独感に取り組むことができると信じている評者もいます。

 

では、孤立の増加や共感力の低下が社会的なリスクに変貌するのは、どの時点においてなのでしょうか。

 

スコット氏:「社会、テクノロジー、そして仕事関係という3つの領域における複雑な変化が、怒りが増加し、共感力が低下していて、不安感が強まり、不幸せで孤独な世界を作り出しています」

 

分断が進み、怒りを持った人が増えた世界は、危険な選挙結果を生み出す可能性が高く、そして様々な利害関係者による複雑な世界的リスクを解決する機会を減少させてしまうでしょう。共感力が低下し続けた場合、そのリスクはより確実なものになりかねません」

 

(以下、省略)

 

【参考】https://biggerpicture.ft.com/cyber-risk/article/decline-human-empathy-creates-global-risks-age-anger/?utm_source=facebook&utm_medium=paid_interests&utm_campaign=bigger_picture

チューリッヒ保険著

 

 

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【コメント】

これはファイナンシャルタイムズ上で、世界最大手の一つチューリッヒ保険がまとめた記事ですが、私が個人的に最近、強く感じていることがまとめられていたので翻訳しました。

 

また、エンパス(Empath)については、専用のカテゴリーを設けるほど多数の記事を取り上げていますが、この記事は共感力(Empathy)が中心的なテーマになっています。

 

エンパスと共感力の区別が曖昧な人もたまに見かけますが、共感力は一般的な認識力のある人であれば一部の条件下でできる、「他人の考えを理解しようと努め、その考えに賛同すること」と意識的な行動であるのに対し、エンパスの場合はそういった意識的な行動とは異なり、無意識で他人や動物、その場のエネルギー、感情を感じてしまい(体感も含め)、エンパスという自覚がない場合は特に、そのエネルギーや感情を自分のものと錯覚する場合がよくある、という現象で異なるものです。

 

日本では特に、「空気がピリピリしている」などという表現が普通に使われ、「気(エネルギー)」という言葉が日常的によく使われているように、人や場のエネルギーを感じることが比較的普通に受け止められてる社会となっていますが、西洋では日本と比較すると、日本のように「場の空気を読む」ということはどちらかというと珍しいようです。

 

また本文では、怒り表現する人の増加や分極化の進行など、私が最近、ソーシャルメディア上で毎日のように感じている現象が取り上げられていました。

たとえばFacebookだけを取り上げても、

 

*アメリカまたはトランプ大統領関係の記事のコメントでは、毎日のようにトランプ大統領に反対あるいは賛成する人たちの間で良識のある大人の公の場の発言とは思えない感情的な議論がなされ、

 

*パレスチナのガザ地区とイスラエルの攻撃が繰り返されていた時は、それぞれに、子供を含めた多数の犠牲者が出たという記事のコメントで「God bless Israel(神はイスラエルを祝福する)」だの「God Bless Palestina(神はイスラエルを祝福する)」、「〇〇(国名)は○○(イスラエルまたはパレスチナ)を支援する」など目を疑うようなコメントが人気を博し、

 

*ワクチンの是非を問う記事のコメントでは、賛成派と反対派が、例えば同じ自閉症を持つママ同士でもお互いの「無知」を罵り合い、

 

*EU離脱で大混乱のイギリスでもEU離脱の件では意見の分極化が酷くてそもそも議論にすらならないなど、

 

共感力の欠如や、相手の気持ちを考えようとする想像力の欠如を見ることができます。

 

 

もちろんそういった対立軸のない、平和的な記事には共感力や愛情のあるコメントが多くみられ、そういった観点でも分極化(共感力の有無)が進んでいるように感じられます。

 

この二元的な分極化の現象を、「認知の歪み」という視点で観察するのも興味深いものです。

 

しかしそれ以前に、本文中にある、「同じ意見ばかりが繰り返し反響される閉鎖的な環境(エコーチェンバー現象)」という現象かなり興味深い概念です。

 

エコーチェンバー現象」ウィキペディアより

エコーチェンバー現象Echo chamber)とは、自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくるような閉じたコミュニティで、同じ意見の人々とのコミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化される現象

 

エコーチェンバーというのは、「 閉じられた空間で音が残響を生じるように設計・整備された音楽録音用の残響室 」という意味です。

 

デジタルテクノロジーの進化で、様々なことが可能になり便利にはなりましたが、こういった弊害もあることに留意したいものです。

 

 

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