私は、35歳でいまだ独身。
初めての恋愛で砕け散った日からどれくらいの恋をしてきただろう・・・
一目惚れの逆ナンやら、酔った勢いからの熱愛やら、粘り越しの遠距離やら・・・・
しかし、どれこもこれも成就する事のない恋愛だった。
だから私は、いつの間にか本当の恋を求める「愛のジプシー」と化していた。

いろんな男に当たっては砕け・・・・砕けては当たり・・・の繰り返し。
そんな時、思わぬタイミングで告白してくれたのが彼だった。
彼は、2歳年上の37歳。結婚経験なし。数年前に、仕事を通じて知り合った。
彼も20代の頃に結婚まで考えた激しい恋愛をしたそうだが、その恋に破れ未だに独身らしい、と仕事仲間から聞いていた。

その彼からの突然の愛の告白に、かなり戸惑った私だったが、人柄もセンスも、男の条件としては申し分なく、断る理由はなかった。
私は、とりあえず彼の好意に甘えてみることにした。

彼とは意外と仕事の話が合うみたい。
恋人というよりはパートナーって感じ。
あたしも彼も職場では伸び盛りだった時期で、なんとなく感性のリズムが合うと思った。
友達以上、恋人未満の「パートナー」・・・・そんな始まりもまたいいかなと思えた。

その頃の私は、自分で言うのも恥ずかしいが、仕事は順調そのもの。
そりゃ、思うようにいかなかったり、壁にぶち当たったりはしたけど、それは些細な事。
好きな事出来てるんだもん、不満などはなかった。
本当に仕事が面白くて仕方がなかった。

一方その頃の彼は、なかなか思うように仕事を任せて貰えない・・・・。
任された仕事も興味がないと、身が入らずにしくじってばかり・・・。
挙句コロコロ部署を移動させられて、やりたい仕事とは程遠いところまで流れてきちゃったみたい。

付き合い始めた当初のキラキラ感や尖った感は皆無のくすぶり状態。
いつの間にか、漫然とした空気を背負ったダメサラリーマンに変身していた。

「一緒にステップアップしようね」と誓った彼が、振り返ると遥か遠く・・・・
置き去られた石ころの様に見える・・・。
どんなに励ましても、どんなに促しても、腐ってしまった彼には何も届かない。
なんだかなぁ~。

私に散々会社の愚痴を聞かせた挙句、「お前を置いて行くことになるけど、アメリカ留学してロボット作ろうかなぁ」、なんて言ってる。
ホントにやる気があるなら止めないわよ。
でも、私を置いて旅立つ素振りなんか全然ないじゃん!

怒るでも呆れるでもなく、あたしはただただ悲しかった。
パートナーだと信じて付き合った男に、私の声が全く届かないんだから・・・。
付き合ってきた長い時間、私達は何やってきたんだろう。
私達の心のリズムは、いつから狂い始めたのだろう・・・。
彼は、この嫌なリズムに気づいているのだろうか?


長年付き合った彼とは、いつの間にか会話さえ無くなっていた。
近くにいるのに彼は遠い。

しょっちゅうしていたケンカも今はもうない。
ケンカになることを恐れて、余計なコトは言わない。だから益々会話がない。
はぁ~、悪循環・・・・。
「あたし達、最近会話ないよねぇ」って言ったら「長いんだから仕方ないじゃん」だって・・・。
あり得ない・・・・これからずっとこんなんなワケ?

好きだから一緒にいる・・・・これってすごく自然。
好きなだけじゃ一緒にいられない・・・・これもまた当たり前のコト。
付き合うってどーゆーこと?なんて基本的なコトまで考えちゃったりして・・・・・。
昔は勢いだけでどーにかなってたのに、付き合うのも別れるのも躊躇しちゃう。
歳取った証拠かなぁ・・・・。

この前テレビで恋愛心理の番組をやってた。
時間が経って彼が自分の理想とは違うと認識しても、付き合い始めの彼の姿に戻そう、
そばに居ればいつか昔の彼に戻ってくれるんじゃないかって心理が働くんだって。
結果ズルズルよぉ~・・・・。
思い当たるフシがあるなー。


彼と付き合い始めた頃は、とってもキラキラしてて、お互いパートナーとしてやっていけると思ってた。
実際、この期に及んでも私は彼を見捨てきってないし。

彼だって、今はちょっと腐っちゃってるだけ。
頑張って理想の職場を見つけて、やりがいのある仕事に携われば、きっと、昔の彼に戻ってくれる・・・・そんな淡い期待を持っている。
・・・・でも、わかってるんだよね。
腐った果実が新鮮な状態になるなんて・・・あり得ないでしょ?

色々悩んだり、迷ったりしたけど・・・・私は、彼との別れを心に決めた。
とはいえ…
別れたいって、彼にどーやって伝えよう・・・。
彼は私との今の関係に何の疑問も持ってはいないだろう。
唐突に「別れよう」って言うの?
ケンカの勢いを借りて「別れる」ってタンカきれたらどんなにラクだろう・・・ふぅ~。
冷静に…無慈悲に別れを告げることができない私。
まだ彼に未練があるのかしら?
いや、あるのはきっと、彼と共に過ごした「大切な時間への愛しさ」だろう・・・。
彼がキライなわけじゃないんだから。

別れを決意したのはいいが、あたしは彼とちゃんと別れることが出来るだろうか?

願わくは、彼と綺麗に別れて、その後はいいお友達関係を作りたい。
…ってやっぱワガママだよねぇ~。
五月晴れの海岸に、彼女は一人たたずみ、海を見ていた。
2年前の今頃は、彼と二人で防波堤で釣りをしたり、浜辺で貝を拾ったりしていた。
海が好きな私のために、何もない週末には決まって海につれてきてくれた。
しかし、今年は彼女一人・・・・。
五月、花々が咲きそろい、木々がまぶしく芽吹き始めている。
すべてが輝きだす季節だと言うのに、彼女だけが季節に取り残された。
ただじっと遠い水平線を見つめ続けている彼女に、潮騒だけが優しかった。


彼と彼女は、高校の同級生。
彼女はバレーボールで県代表を目指したが、
卒業まで、ついにベスト4の壁は越えられなかった。
彼は、別の高校の友達とバンドを組んで、ちょくちょくイベントやコンサートに出ていた。
当時は、ただの同級生、友達としてふざけあう程度の仲だったが、高校3年の春、県代表を目指す彼女の最後の大会に彼が応援に駆けつけた。
ベスト8に勝ち残り、チームメートと抱き合って喜ぶ彼女の姿がまぶしかった。
本当に綺麗だと思った。
そして、準々決勝・・・・長年のライバル校に接戦の末に、負けた・・・。
バレーボールに賭けた彼女の高校時代が終わりを告げた。
負けてもけして泣くまい、と決めていた。悔いのない季節だったと信じたかった。
その大会の帰り道で彼は彼女を待っていた。
「惜しかったな」と優しく笑う彼をみて、抑えていた涙があふれた。
声を出して泣いてしまった。
その時初めて、彼は泣きじゃくる彼女を抱きしめた。
高校3年の春、そうして彼と彼女、二人の季節が始まった。

高校3年の春、バレーボールの大会を境に彼と彼女の恋は始まった。
しかし、大学進学を目指す彼も、就職試験を目指す彼女も、それなりに忙しかった。
二人きりで話ができるのは、ほとんど学校の帰り道だった。
たまには休日の図書館で、二人で勉強して、その後にお茶を飲む・・・
そんな可愛い恋だった。
受験生ながらも、彼は時々バンド仲間からコンサートの声が掛ると、バンド仲間と練習もしていた。
彼女はそれまで部活一筋だったので、彼のコンサートを聴きにいったこともなかった。
夏休みを目前にした週末、近隣の高校生や社会人がコンサートを企画した。
彼のバンドも出ることになったという。
友達を集めて欲しい・・・と彼から10枚のチケットを預かった。
9人の友達を連れて初めて彼のバンドのステージを見た。

彼の舞台は見てみたいと思っていたが、正直なところ・・・
所詮アマチュアバンド、しかも高校生バンドだもの、・・・期待はしていなかった。
ところが・・・物凄く上手くて、カッコイイ!彼女の知らない彼がそこにいた。
聞いたこともない歌だったが、それが逆に新鮮だった。
ギターを弾いて歌う彼が、これほど凄いとは・・・・。
むりやり連れて行った友達も驚き、絶賛するほどだった。

彼女のバレーと彼のバンド。
そんなふうに高校生だった二人は、季節を駆け抜けた。
高校卒業後、彼は地元の大学に進学し、彼女は公務員になった。
彼女は、地元のクラブチームでバレーボールを続けていたし、彼も大学で音楽サークルに所属し、バンド活動にも本格的に取り組んでいた。

彼女のチームは、高校時代ほどハードではないが、社会人クラブではそこそこのチームで、それなりに強かった。
地元のママさんバレーのコーチなども頼まれたりして、週末はほとんど体育館。
彼からは、「相変わらず体育館の匂いがする。」とからかわれた。
でも・・・「お前のその匂いが好きだよ・・。」と抱きしめられると、本当に嬉しかった。

彼は彼で、本格的なバンド活動にはまり、あちこちでライブをやっていた。
週末のライブには、バレーの練習後に駆けつけ、その後は彼の部屋で過ごした。
彼のバンドは、徐々に地元でも知られる存在となり、コンサートを重ねるたびに観客が増えていた。
取り巻きやファンも増えて人気もあがったが、彼は相変わらず謙虚で彼女にも優しかった。

バンドやバレーの練習もない週末は、よく彼と海にいった。
二人だけで並んで海を見ている時間が好きだった。
長い時間彼に肩を抱かれて波の音を聞いていると、いつの間にか眠っていた。
彼女は、これから先もこんな風に彼とずっと一緒にいると信じていた。
彼が大学4年の春、レコード会社が主催するバンドのオーディションがあった。
駄目モトで、彼のバンドのリーダーがデモテープをエントリーした。
それがなんと、一次審査を通過して二次審査である
東北ブロックのライブ・コンテスト出場が決まった。
それなりの大会で、バンドメンバーも気合が入ったが、リキミ過ぎたせいかミスが目立った。
その結果、本選出場には一歩及ばなかった、がしかし・・・・。
バンドは落選したが、レコード会社のディレクターから、彼だけに声が掛った。
「もしも、本気で音楽を続けたいのなら、東京に来い」とその人は言った。

彼は、彼女にも相談できずに悩んだ。・・・・・
バンドのメンバーとは、一緒に音楽を続けようと誓ってきた。
そのメンバーを裏切るように、自分だけが音楽の道を進んでいいのか・・・・?
彼女を残し、自分ひとり東京へ行くなんて・・・・・。

悩んだ挙句、彼は彼女に正直に相談した。
彼女は笑って、「自分を試して見なさいよ」とあっさりといった。
そして彼は決心を固め、東京へと旅立った。

それから2年。寂しくないといったら、嘘になる。
けれど、毎日のように彼から電話やメールがある。
会えない時間が続いたが、彼とはずっとつながっていると信じている。
こうして今は、一人で海を見ているけれど、いつかまた二人でこの海を見る日を信じている。
彼が必ず迎えに来てくれると信じている。

彼女が一人でハンドルを握る海からの帰り道、
バックミラーに海が見え、カーラジオからは、彼の歌が流れていた。
それは、彼女の一目惚れから始まった・・・・・

その頃の彼女は、20歳で、お洒落な飲食店で夜のバイトをしていた。
彼は3つ年上で地元優良企業のサラリーマン。
若いのに真面目で、気配りのできる好青年で、先輩からも可愛がられていた。
イケメンで身長も高く、彼女は一発で彼のとりこになった。
しかし、彼はすでにその時、会社の上司のお嬢さんと交際して1年になっていた。

彼との出会いは、彼女のバイト先の飲食店だった。
彼が会社の飲み会で、お客さんとして店にやってきた。
その瞬間、彼女は「人生最初の一目惚れ」に落ちた・・・・。
普通は、そこでドギマギしながらも、じっくりと情報収集に入るのだろうが・・・・
彼女は違った。
出逢ったその瞬間、一目惚れして、すぐその場で自分から
「私、貴方を待ってたの!私と付き合って!!」
と周りの空気も読まず、堂々と交際を申し込んだ。
しかし、さすがに会社の同僚の手前、彼は「彼女がいるから・・・」とはぐらかした。
でも、彼としては、そんな風に女性からいきなり交際を申し込まれたのも初めてで、
正直まんざらでもなかった。
ただ・・・実際に結婚を前提に交際している女性がいることも確かだった。
しかも、会社の上司のお嬢さん・・・・。
実際には、ありえない事・・・・、その時彼は、そう思ってた。



バイト先の飲食店で、彼に一目惚れして、いきなり交際を申し込んでから一週間後。
彼女が店のカウンターでしょぼくれていると、思いがけず彼が一人でお店ににやって来た。
なんでも接待の帰りで、飲み足りないので寄ったという。
「も、もしかしてOKってこと?」 突然の彼の出現に胸が高鳴った。

「ねぇ、このあいだのお願いマジなんだけど・・・考えてくれた?」
恐る恐る彼に尋ねてみた。
がしかし・・・、答えは・・・・「NO!付き合えない!」 そうきっぱりと言われた。
「だって俺、今真面目に付き合っている人、いるから・・・。」
しかも、上司のお嬢さんだし・・・・・・。
普通、女からコクって、そんな風に断られたら、悲しくても素直に諦めるんでしょうが・・・
彼女が凄いのは、ここから!

「彼女がダメなら2番目でもいい!!」とまで懇願した。
そこまで言われるとは夢にも思わなかった彼、心の中の“天使と悪魔が”戦っていた!
そして彼女は、追い討ちを掛けるように、
「2番目もダメなら、貴方のファンでいていいですか?」
うるうるした瞳でそう言ってのけた。
ほとんど何でもありの条件に、彼はとうとう彼女の手に落ちた・・・・・!!

「貴方のファンでいい・・・」と言いながらも・・・・・・
彼女は、心の中で「しめた!」と叫んだ。「ここまでくればこっちのもの!」
「絶対、彼を今の彼女から奪ってみせる。」と自信満々だった。
なぜなら、彼女には《女優》というあだ名が付けられるほど、
男の前では「超演技派の女」だった・・・・。


略奪愛を目論んで、まんまと「2番目」に収まった超演技派の彼女だったが、
彼を完全に奪うためには、様々な仕掛けや舞台設定が必要だった。
そこで、まず手始めに彼女は、お洒落な飲食店のバイトを辞め、普通のOLに転身した。
夜のバイトでは、彼の生活サイクルに合わない。
まずは、彼の生活に合った昼の仕事に転職し、ファッションもそれ風に大きく変えた。

週末は、今の彼女にとられてしまうので、仕方ないが・・・・
週末以外の夜は、ほとんど毎日彼と一緒!
本当の自分とは180度違う、正反対の「お嬢様」を演じていた。
彼も彼女との時間を大切にしてくれし、かなり親密にもなっていた。
そんな状況で半年ぐらい付き合いが続くと、彼女はついに本気モードに突入!
「今は2番目でも、そろそろ・・・・」彼女は、この略奪愛に徐々に自身を深めていった。
いよいよ最後の締めだ・・・・、と気合を入れて略奪モードに入りかかっていた頃だった。

突然 彼の結婚が決った。
お相手は、もちろん彼の上司のお嬢さん・・・・。
「いままでありがとう。」そう言って、彼は彼女と会わなくなった。
それからが彼女の大変なところ!!今まで演じていた「お嬢様」役は、どこへやら。
泣くは、わめくは、それはもう大騒ぎ!
毎日お酒を飲んでは彼に電話をかけまくり、夜中にお相手の家の前に立っては、
窓に石を投げ、ガラスを割ったり、・・・・・・・!
ストーカーまがいの付きまといで、パトカー呼ばれたり・・・。
そりゃもう大迷惑女!!
愛が憎しみに変わったとたん、彼女は本来の「悪魔」になった。


略奪愛を目論んでは見たものの見事に失敗した超演技派の彼女。
彼に合わせて無理して勤めたOLは、続ける理由がなくなったのでさっさと辞め、
お気楽な飲食店のバイトに舞い戻った。
悪魔のような彼女だったが、それでもそんな彼女に、思いを寄せる男がいた。
仮にその男を「ミツグ君」と呼ぼう。
よせばいいのに、そのミツグ君、ちょっとMっ気があるようで、
彼女を口説いては、いつも振られるんだが、なかなか諦めない。
週に2~3回はお店に通って来る。
なんでもお金持ちの家柄だとかで、羽振りはいいし、飲みっぷりもいい。
良いお客サンなので、彼女も時々食事ぐらいは付き合っていたが、タイプではなかった。
ブランドのバッグや洋服をプレゼントされても、すぐに後輩の子に安く売り飛ばしていた。
これが良いお小遣いにもなった。

ある日、ミツグ君は、恋に破れてぼろぼろの彼女を慰めようと食事に誘い、
お酒の勢いもあって、なし崩し的にホテルへ・・・・・
ここまでは、普通によくあることで、「お互い様・・・・」なのだが・・・・、
やっぱり彼女は悪魔だった。

朝、目覚めると彼女のとなりにミツグ君がいる。
え?これって・・・・!うそでしょ?全く記憶がない。
彼女は一瞬にして“キレた”
「なんで私があんたなんかと?冗談じゃない」
寝起きざまに、突然罵られ、ミツグ君はただただ困惑した。
「だって・・・・昨日は、僕のこと好きだって・・・・言ってくれたじゃないか・・・」 
記憶がないからどうしようもないけど・・・・、だけど、この人はイヤ!!
この人だけは嫌なの!!
「貴方の親に言いつけてやる」そう叫んだ瞬間、悪知恵がひらめいた。
彼女の頭に ポッと電球が燈るように「慰謝料」という3文字が浮んだ。
あの彼には、そんなこと要求できないけど、この男なら・・・・
「慰謝料」。なんて素敵な言葉なのだろう・・・・と彼女は思ったそうだ。
彼女は、ミツグ君に無理やり犯された哀れな娘を演じきり、
実際にミツグ君の親からまんまと200万を支払ってもらった。
なんだか、略奪に失敗した彼に対する「腹いせ」とも思えるのだが・・・。

このお話は、20年ほど前にあったホントの出来事。
世の中には、こんな悪魔のような女もいる事を覚えておいて欲しい。
くれぐれもミツグ君の二の舞だけは踏まないように!
彼女は、今年大学を卒業したばかりの社会人一年生。
とはいえ、去年の公務員採用試験に落ちて、今は就職浪人中。
家事手伝いなど許される家庭ではないので、とりあえずアルバイト生活でつないでいる。

公務員の父は、根っからのラガーマンで、60歳間近の今も、日曜日には、若いラグビー仲間と楕円球を追いかけている。
そんな父に連れられて、小さい頃からラグビーをみてきたせいで、彼女もラグビーが好きだ。
高校時代から大学卒業まで、ずっとラグビー部のマネージャーをやってきた。
それも、コーチに近いマネージャーで、後輩からは姐御のように恐れられた。
だから、彼女は正真正銘、筋金入りのラグビー・ウーマン。
練習や合宿では、選手達と一緒にトレーニングも積んできた。
だから、今でも身体には無駄な脂がないので、プロポーションには自信がある。

年頃の女の子ではあるが、毎月購読する雑誌は、もちろん「ラグビー・ジャーナル」。
最近は、ときどきファッション誌も読むことはあるが、買うまでもない。
彼女の憧れは、早稲田ラグビー部の元監督・清宮さんで、彼女の机の上には、彼の生写真が額に飾られている。
だから、彼女の基準は、彼のように頭が良くて、クリエイティブで、なおかつラグビーが上手い男でなければいけない・・・・らしい。

彼女は卒業後、父の奨めで地元のラグビー・チームのマネージャーになったが、このチームには、彼女の基準をクリアできるような男は、まったくいない。
せめて、ラグビーだけでも上手くなれよ!と、いつも思ってる。

ところが、練習試合で対戦した相手チームに、とんでもなく脚が早くて、パワフルな選手がいた。
どこかで見たことあるような・・・・、
そうか、数年前に花園に出場して高校選抜に選ばれたあの選手だ!
彼女の心臓が、今までにないほど高鳴った。
父の影響で、幼い頃からラグビーに親しんできた彼女は、大学卒業後も、地元クラブチームのマネージャーになった。
そのチームの練習試合で対戦した相手チームのエースに彼女は一目で恋をした。

彼は、高校時代に進学校のラグビー部に所属し、地元の強豪校を破り、見事、花園の全国大会に出場した。その時は、残念ながら一回戦で負けたが、県の高校選抜に選ばれ、ニュージーランドまで遠征した経験があった。

高校卒業後は、ラグビーの名門大学に進学し、体育会系のラグビー部で活躍した。
衛星放送の「ラグビー・チャンネル」では、大学のリーグ戦も放送していたので、彼の活躍は、よく見ていた。
その彼が、何故地元の草ラグビーのチームにいるのか?とっても不思議だった。
だって彼なら、トップリーグに所属する有名企業でも通用すると思うもの。なんで・・・・。

そんな疑問を抱きながらも、しかし目の前でプレーする彼の勇姿に、ただただ見とれてしまった。
味方チームが、彼のせいでボロボロに負けていても、そんなことはどうでも良くなっていた。
彼がトライを決めるたびに、拍手をしそうになって、チーメメイトににらまれた。

散々な結果の練習試合が終わった後で、思い切って彼に近づいて話しかけた。
爽やかな汗にぬれた彼が驚いたように振り返った。
彼女は勇気を出して、ペットボトルの水とタオルを差し出した。
彼は、笑顔でそれを受け取り、一気に飲み干した。一息ついた彼は気を取り直したように
「君、高校時代、となりの学校でラグビーのマネージャーだたでしょう?」と言った。
思いがけない彼の一言に、驚いた。
私のこと、覚えてくれてたんだ・・・・。でも、なんで?

憧れのラガーマンだった彼が、高校時代の私の事を覚えてくれてた。
とっても嬉しかった。でも・・・なんで知ってるの?
彼に尋ねると・・・・
彼女の高校のラグビー部に、彼の後輩が入っていて、私の事を話していたと言う。
鬼のように厳しいマネージャーで、やたらとラグビーに詳しくて、監督もタジタジだった・・とか、一緒に練習したがる珍しい女だ・・とか、とにかく選手より目立つマネージャー・・・だったらしい。
そう彼に言われて、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
でも、そんな話をしているうちに、なんだか初めて話しているような気がしなくなった。

思い切って彼にたずねた。
「どうして、地元の草ラグビー・チームに入ったんですか?
 貴方ほどの選手なら、トップリーグにも行けたんでしょう?」

彼はちょっと顔を曇らせて言った。

「親父が死んで、家業を継ぐことになったんだ。でも、こうして地元でもラグビーができるから、俺はそれでいいんだ。」

彼のそんな切ない現実に、彼女は言葉をなくした。
そして二人は、しばらく無言で芝生のグランドを見ていた。

春が遅いみちのくに、ようやく桜が咲き始めた頃だった。
女の子には珍しい「ラグビーおたく」の彼女は、学生時代にラグビーで活躍した憧れの彼とようやく普通に話せるようになった。
アドレスも交換し合い、差しさわりのないメールのやり取りも始まった。
地元の草ラグビー・チームのマネージャーとライバル・チームのエースの組合せは、ともすると妙な誤解や悪い噂を生みやすいが、バリバリの「ラグビーおたく」である彼女の場合は、これまで浮いた噂もなかった事も手伝って、周囲からはむしろ暖かく歓迎する流れがあった。

特に現役のラガーマンを自称する彼女の父は、むしろ大喜びだった。
できることなら、このまま「できちゃった結婚」でもかまわない、とさえ思ってた。

そうこうしているうちに、公式戦のシーズンがやってきた。
彼のチームは、格上なので、このシーズンでは彼女のチームと対戦することはなかった。
だから彼女は、彼のチームを思いっきり応援できたし、彼も彼女のチームの選手達に的確なアドバイスができた。
この調子なら、両方のチームが勝てそうだ。
彼女は、どうしても両方のチームに勝って欲しかった。
それというのも・・・・夕べ彼からメールがあった。
「明日の試合、君のチームと僕のチーム、両方勝ったら、二人だけで祝勝会しよう。」・・・だって。

さぁ~て、彼と彼女は、この調子で幸せにトライできるのかな?
ノーサイドの笛が鳴るまで、時間はまだまだ・・・。 みんな、ファイト!
これまで、「情けない男」や「駄目男」に関った女性のお話をご紹介してきましたが・・・・今日は、「蹴りたくなるような酷い男」のお話です。
なんでもマダムの高校時代の同級生で、とんでもない男のようです。
まぁ、十数年前のことですから、数々の悪事も時効になるのでしょうが・・・・

その男性の名前を仮に「正志」とする。
彼と私は、高校の同級生でしたが、けして付き合ったわけではない。
あくまでも友達で、彼や彼と付き合った数多の女達の相談相手でもあった。
彼は身長も高く、スポーツマンで、今で言う「イケメン」だったことは確かだ。
しかし、呆れるくらいに軟派で、女癖が悪かった。
彼の外見だけに憧れて近づいた女の子は、哀れにもほとんど彼の餌食になった。
「俺ってさぁ、女の子と付き合っても長続きしないんだよなぁ~。何でかな?」と相談されたが
「そりゃ、アンタが、付き合ってる側から、すぐに別の女に手出すからでしょう!」
と叱っても、一向に変わらなかった。
根っからの女好きで、浮気性。まぁ、高校時代はこんなもの。
大人になって、心底好きな女ができれば、彼も変わるだろう・・・とその時はそう信じていた。

しかし、高校を卒業してから6年後。地元のお祭りで25歳年祝い連として再開した時でもまだ、彼の悪い癖は治ってなかった。
お祭り前の準備期間、たったの3ヶ月のあいだに5人の女の子を泣かせ、二人妊娠させた。しかも、お祭り終了後、その責任も取らず、
あろうことか東京に逃げやがった!最低!!

地元の祭りで、25歳の年祝いのドサクサに紛れ5人の女の子を泣かせたあの最低の男は、その後も私にだけは、時々連絡をくれた。
地元で自分が、どんな風に噂されているか・・・気になっていたらしい。
それに、事情通の私から、地元の情報を聞きだせると思ったのだろう。
彼は半年に一度、実家に帰省する前には、必ず私に連絡をくれた。
彼の悪事には、呆れてばかりだったが、アタシ自身には実害がなかったので、その辺は、友達として普通な付き合いができた。

もともとが要領のいい男だったので、彼は東京に逃げてもそれなりの会社に就職していた。
しかし30歳を過ぎても、結婚の話は聞かれなかった。
風の噂では、若くて綺麗な女性と同棲しているが、相変わらずあちこちに女がいるらしい。
ほんと、あの頃とちっとも変わっていない。

地元に帰ると、真っ先にお土産持参で私のところにやってきて、わたしの顔色を伺った。
私の旦那さんとも話が合った。

帰省するたびに、男の同級生達と飲み会をセッティングさせられたが、紅一点の私は、チヤホヤされ、まんざらでもなかった。
彼が男の同級生だけと飲む理由もよく理解していた。
そりゃ、あれだけ悪さをしたら、女の同級生には顔向けできないでしょう。

私が36歳になった年のお盆休み、いつもどおり私を除いて男友達が顔を揃えた。
その春、結婚した同級生のお祝いもかねて集まったが、結婚した友達が奥さん同伴で来た。
不味いことに、その奥さんは、昔彼が妊娠させた女性だった。
いつも陽気な彼が黙り込んでしまったので、その不自然な様子に同級生が感ずいてしまい、実に気まずい夜になった。
それ以来、同級生の飲み会に彼は現れなくなった。
月日は流れ、満41歳の春、いよいよ地元では42歳の年祝いの祭り本番を迎えた。
岩手県南の春まつりは、42歳の年祝い連が主役で、人生一度の晴れ舞台。
これに参加しなければ、一人前の大人と認められない、とまで言われる。
久しく、連絡もなかった彼からちょくちょく電話が入るようになった。
なんでも、まだ独身と言うことで、転勤が続き、ついに盛岡に転勤になったと言う。
地元に帰ったのだから、当然彼も、祭りに参加する事になった。

祭りの準備のため、彼は1週間に3日も盛岡から駆けつけた。
トラブルメーカーの彼だったが、流石にこの祭り準備期間中は、面倒は起こさなかった。
むしろ、真面目に率先して祭りに取り組んでいた。

無事に祭り本番が終わり、同級生一同で反省会が行われた。
その会場に、何と彼は高校時代に付き合っていた同級生の女性と同伴してきた。
いわゆる「モトサヤ」なんだ・・・と思った。
彼はいまだに独身で、彼女は、バツイチ子供なし。二人には何の障害もない。
高校時代も似合いのカップルだと思っていた。彼の浮気癖さえなければ・・・・だが。
しかし、これはこれでおめでたい事。

中睦まじい二人の姿を見たとき、「ついに彼も結婚して、落ち着く覚悟ができたんだ」と私は友人の一人として、正直安心した。
その時の二人の熱々ぶりは、まさに結婚を予感させる勢いだった。

しかし・・・彼は、本当に最低の男だった。
42歳の年祝いを無事に済ませて、2年が過ぎた頃。
最低男の彼も高校時代の同級生と結婚を匂わせるいい感じの付き合いが続いていた。
40過ぎての結婚だから、別に急ぐこともないのだろうが、それにしてもあれから2年は長すぎだろう。何か問題でもあったのだろうか?
私は、急に胸騒ぎがして、彼に会って、事情を聞こうと考えた。

忙しいと言いながらも、渋々彼は待ち合わせの場所にやってきた。
「ねぇ、彼女とはちゃんと付き合っているんでしょうね?」とたずねると・・・
「付き合ってはいるけど・・・・、上司に奨められて「見合い」したんだ・・・」
な、なんだってぇ~!!
「アンタいくつよ?40過ぎの男が付き合っている女性がいるのに見合いするか?!」
「上司の奨めだから仕方なかったんだよ・・・。」と彼。
まぁ、1回くらいなら仕方ないのかもしれないけど・・・・
すると・・・すでに3回も見合いしてるという・・・。
もう、私も呆れて、この男とはもう関りたくないと思った。
「とにかく、彼女のことは、ちゃんと責任取りなさいよね。」
そう言い捨てて彼と別れた。

しかし、彼は「ちゃんと責任を取れる」ような男じゃなかった。
その後、風の噂で、彼が7回も見合いをして、その7回目の見合いで、資産家の長女で30代の女性と結婚したと聞いた。
なんでも「マスオさん」状態で、資産家のお婿さんのような塩梅らしい。
年祝いの祭りから交際が始まった同級生とは「自然消滅」だったとか・・・・
そんな訳はない。奴は、彼女を捨てたんだ。

女好きで、浮気性の最低最悪の男、「正志」。
なにが「正志」だ!人として正しくないことばかり・・・。本物の悪党だ。
今度、どこかであったら・・・絶対 あいつの背中を蹴ってやる。
奴には必ず、天罰が下る。報いがある。

ご近所の豪邸に、7回目の見合い結婚で50過ぎにも関わらずお婿さんに入ったちょっと見「イケメン」親父にはご用心ください。そいつは最低の男です。
みかけたら・・・・蹴ってもいいです。
蹴り飛ばしてください!お願いです。